サステナブル金融の台頭~ブームの様相
・ESG投資が活況を呈し、サステナブル金融が新しい領域として台頭している。 EUをリード役に、この10年の動きは活発である。今頃、“サステナブル金融のブーム”という表現を発するようでは、識者から見るとかなり遅れているといわれるかもしれない。
・いつの時代にもブームというものがある。新しいトレンドが急速に立ち上がってくる。イノベーターはそれをリードし、フォロワーはそれに追いかけていく。
・多くの人々に知れ亘ってきた時に、3つのことが起こりうる。1つは、それが定着して当たり前となってくる。2つ目は、ブーム&バーストで、ブームの反動で消えてしまう。3つ目は、そのブームをテコに、次のブームへ舞い上がっていく。
・9月に高崎経済大学の水口剛学長の話を視聴する機会があった。この分野を長く研究し、環境庁のグリーンボンドや金融庁のESG金融、インパクト投資に関する研究会の座長を務めてきた。今後のサステナブル金融をみていく時に、何が大事なのか。この点について、いくつか取り上げてみたい。
・世界各地で山火事や豪雨による災害が頻発している。こうした気候変動は世界の平均気温が上昇していることによるもので、その原因が、人類によるものであることがはっきりしてきた。IPCCは、平均気温が1.5℃上昇するのに要する期間が、このままでは10年早まると警鐘を鳴らす。
・今年の報告で、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)は、2100年までに世界の平均気温が+1.4℃~+4.4℃上がるシナリオを分析した。
・自然科学的には、宇宙から地球への放射に対して、地球から宇宙への放射が十分でないと、地球の気温が上がってくる。その上昇要因として、人口、経済成長、都市化、技術開発、教育などの社会経済要素がどのように影響してくるか。
・5つのシナリオのうち、唯一「持続可能」というシナリオが、気温上昇を+2℃以下に抑えるもので、これによって、かろうじて地球環境が守られる。他の「中庸」、「対立」、「分断」、「グローバル化」というシナリオでは、いずれも気温は上がっていく。最悪は+4.4℃までいくとみており、極めて深刻な事態となる。
・そのためには、カーボンニュートラル(CO2ネットゼロ)が不可欠であり、一刻も早く実現する必要がある。宇宙も地球も、人類と関係ないところで量子力学的な変動を起こしており、1万年、1億年単位でみれば、人類の存在など問題外かもしれない。でも、私たちは今生きている。その中で、自らの環境を守ることは、後世の人類の生存そのものに関わってくる。
・こうした基本的な考えを、理念としてどこまで追求するのか。EUの動きは常に理念先行である。崇高な考えを社会の中で実現しようとする。これに論理的に反駁することはなかなか難しい。そこに政治的、経済的な国家間、地域間の競争が入ってくるから、事態は複雑になる。
・大局的にみると、従来の株主資本主義が限界となる中で、国家資本主義対ステークホールダー資本主義の戦いとなる。それでもまだ不十分かもしれない。水口先生は、新しい資本主義の模索が始まっており、金融資本市場では、それがサステナブル金融として意味を持ってくると強調する。
・金融資本、知的資本、人的資本、社会関係資本、自然資本、という広がりの中で、社会や自然は、自らの外部ではなく、自らも影響を与える存在として捉え、人類共通の資本として守っていく。そのために、CO2ネットゼロのエコシステム作ろうというのだから、大変な努力を要する。
・EUは、この努力を個人や民間に任せるのではなく、政治的な政策として社会を動かすと決めた。サステナブル金融をレギュレーションとして執行し、そのためにタクソノミー(サステナブルの分類基準)を作っていく。
・枠組みはEUのレギュレーションとして法制化し、各国を超える規制として機能させる。具体的な方向を示すダイレクティブ(指令)は、各国ごとに法制化を図っていく。タクソノミーは、まずCO2などの気候変動について基準を定めているが、今後も新しいサステナブル基準が次々と作られよう。
・サステナブルファイナンスに関するディスクロージャー(開示)のレギュレーション(SFDR)も定めている。1)まずは開示しているか、2)次に環境や社会に対するサステナビリティを考慮しているか、3)そしてサステナビリティをしっかり促進しているか。
・このように、そのレベルを問うている。アムンディ、ロベコなど大手の機関投資家は、自社の運用体制を最もレベルの高い水準(第9条)にあると開示している。
・企業には、非財務を含むサステナビリティレポーティングのダイレクティブ(CSRD)を求めている。何がサステナビリティにとって重要か。そのマテリアリティは、おかれたポジションや活動範囲によって変化する。このダイナミックマテリアリティをどのように捉えるか。企業にとっては、ここが腕の見せ所となる。
・これを財務と非財務の統合報告ではなく、サステナビリティを含めたバリューレポーティング(価値報告)として捉え直そうとしている。IFRSでは、アカウンティング(IASB)に加えて、サステナビリティ(ISSB)の基準も作ろうとしている。
・日本もこの土俵にのっていく必要がある。2050年カーボンニュートラルのハードルは高い。出来るところから入っていくのはもちろんであるが、ストレッチした目標を掲げて、イノベーションに挑戦し、それをビジネス機会にすることがさらに重要であろう。
・さもないと、企業としての競争力は劣化していこう。企業価値創造の中に、サステナビリティ(ESG)を埋め込んで、ステークホールダーと対話していく。サステナブルファイナンスは当たり前になり、もっと高いレベルの要求が出てこよう。
・これに負けないように、準備してほしい。投資家としては、建前としてのサステナビリティではなく、きちんと中長期の企業価値向上に結び付けている企業を見出し、そこに投資機会を見い出していきたい。