問われるサステナビリティの許容度

2021/04/07

・投資家にとって、投資の‘よさ’をどう考えるか。効用としてポートフォリオのパフォーマンスをリスクとリターンで測るというのが、伝統的なファイナンスモデルであるが、最近はそれを超えて、価値を測りたいという動きが活発である。

・経済的価値と社会的価値を統合していくには、その積集合を伝統的ファイナンスで捉えるだけでなく、例えばサステナビリティを別途加えたいという考えや、例えば社会的インパクトを第3の軸に加えたいという考えなどが試みられている。

・では、そのサステナビリティのメガトレンドは、現在どんな局面にあるのか。今年2月に公表された「KPMGグローバルサステナビリティ報告2020」は大いに参考になる。今回で11回目になる報告書では、世界52カ国の各国の売上高上位100社を取り上げて分析している。

・持続可能な社会を実現していく上で、各国を代表する企業は目標を設定し、ESGからみた課題に対して、実現に向けた戦略を定めて実行し、インパクトを及ぼそうとしている。

・統合報告書よりも、ESGをベースにした非財務情報を扱うサステナビリティレポートの方が、より広範囲であり、グローバルに充実度が高まっている。分析結果についてはKPMGのレポートを読んでもらうことにして、投資家として注目すべき点について、いくつか吟味したい。

・サステナビリティ報告は、ESGをベースにした情報開示を行っている。ステークホルダーへのサステナブルな価値創造をどのように行っていくのか。その価値創造の仕組み(サステナブルビジネスモデル:SBM)を通して、ESGのパフォーマンスを開示していく。

・投資家としては、E(環境)のパフォーマンス、S(社会)のパフォーマンス、G(ガバナンス)のパフォーマンスに着目する。今回のレポートでは、1)CO2の削減、2)生物多様性への対応、3)SDGsとの結びつき、の3点について、グローバルな比較をしている。

・生物多様性について、日本での議論はまだ少ない。企業が長期的に存続するには、その基盤として、土壌、空気、水が大事である。汚染物質を浄化するのには、多様な生物の存在がなくてはならない。

・汚染物質は減らして出さないようにするのはもちろんだが、生物のエコシステムも守る必要がある。その意味でどの企業にも関わりはある。人類の生存には、農林水産物、薬用資源、水質浄化、花粉媒介など、様々な生態系が関わっており、これが崩れないように、守る必要はある。そこで、自然関連リスクとして、生物多様性が注目されている。

・COVID-19も1つの表れであり、生態系の自己保存力が崩れれば、人類もいずれ何らかのパンデミックのような危機に直面して、淘汰されることになりかねない。

・気候変動リスクに対応するCO2排出量の削減もますます本格化しよう。カーボンニュートラル、ネットゼロを目指すことが、今や合言葉になっている。

・財務上のリスクという認識も広がっており、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿ったレポートもスタンダードになりつつある。どこまで義務化するかが今後の論点となろう。

・日本では、2020年12月に経産省が「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン戦略」で、14の産業の実行計画を打ち出している。

・サステナビリティはSDGsとどう関わるのか。SDGsはこの3年で大きく盛り上がっており、17項目を自社の社会的目標と結び付けることが主流になりつつある。そのこと自体は大いに望ましい。

・SBM(サステナブルビジネスモデル)が、ステークホルダーに実際にどのような価値を生み出しているのか。それをもう一度SDGsを通して問うていく。

・但し、ここで注意を要する。KPMGのリチャード・スレルファル氏(KPMG IMPACTグローバルヘッド)は、自社の活動をSDGsとポジティブに結びつけることだけにとどまって、ネガティブな面を無視してはならない、と警鐘を鳴らす。

・確かにネガティブ情報の記載は少ない。本来バランスよく開示すべきだが、まだ対応ができていない。ネガティブループに目をつぶると、イメージアップだけを狙った「SDGsウォッシング(やってるふり)」と非難されかねない、とスレルファル氏は指摘する。

・SDGsとの結びつきをみると、17項目中、貧困、平和・公正、飢餓、海の豊かさ、陸の豊さとの関連がとりわけ低い。海の豊かさと陸の豊さは、生物多様性を象徴しているので、課題ともいえる。

・これらの点については、次のように考えることもできよう。企業はどこまでを自社の事業領域と捉えるか。どこまでをバリューチェーンからみた内部とし、どこを境界として外部とするか。まさに、外部不経済の範囲が問われる。

・SDGsのうち、わが社のアジェンダをどのように設定するか。現状の範囲にとどめるのか、チャレンジングな目標とするのか。これによって、企業の姿勢がみえてくる。

・①まずは、結びつきをはっきりさせる。②次に、結びつきの領域を広げていく。③その上で、SBM(サステナブルビジネスモデル)として企業価値の向上を図る。投資家はここをみていく。

・その時、SBMの価値創造をどこまで高めるのか。時間軸も関わってくるが、経済的価値のリスクとリターンに加えて、社会的価値のリスク許容度(トレランス)も問われる。その時、極大化基準ではなく、一定の満足度基準をベースに評価することが望ましい、と筆者は考える。

・サステナビリティの‘よさ’(ウェルビーイング)も入れて価値を測るとして、具体的な方策はまだ試行錯誤である。新しい価値を評価するために、投資家としても、サステナビリティの許容度(トレランス)について、何らかの基準を定めておきたい。

株式会社日本ベル投資研究所
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