家電量販店はどこへ行く

2012/10/29

・ヤマダ電機の山田昇会長(CEO)の話を個人投資家説明会で聴いた。当社は来年度、創業40周年を迎える。直営店、FC(フランチャイズ店)を合わせて、全国に3700店の店舗を有し、業界№1の家電量販店である。外人持株比率50%に対して、個人は5%にとどまる。もっと個人投資家比率を上げたいと思い、10年間個人投資家説明会を続けている。当社の説明会は、参加者に豪華景品が当たるので、人気が高い。

・業界環境は厳しい。ブームのあとの反動でTVが売れなくなっており、それをいかに乗り切っていくかが問われている。市場は2年続けて縮小している。かつてない動きである。

当社はチェーン展開する中で、専門店としての事業領域を拡大しながら、規模の利益を追求してきた。シェアにこだわっており、主要な製品カテゴリーで30%のシェアをとっていくことを目指している。松下幸之助の水道哲学に学び、当時、松下は全国4万店のナショナルショップをベースにすれば、それだけで工場の利益が確保できるといわれた。こうしたネットワークの強さを作ろうとしてきた。

・この7月にベスト電器との資本業務提携を発表し、年内に子会社とする予定である。ベスト電器は九州を基盤とするので、当社と合わせると5割のシェアをとれると見込んでいる。東南アジアにも展開しているので、当社の中国と合わせて、アジア展開にも力を入れていく。ベスト電器の立て直しには、当社が実践しているサービスやソリューションの充実を図れば、1年でヤマダ電機並みの利益率に近づくことはできる、と山田会長はいう。

・ネット販売にはどう対応するのか。米国での家電量販店はネット販売との競争で苦戦している。日本もいずれネットにやられてしまうのではないかという懸念がある。これに対して、山田会長は、ネットと店舗の融合でメリットを追求していく考えである。ネットで売れるものは、ある程度決まっている。少し珍しいものである。通常の商品は店舗に来た方が安く買える。当社は2300万人のSNS(ソーシャルネットワーク)の会員を有しているが、このマルチSNSを充実して、顧客を囲い込み、ビジネスにも結びつけていく方針である。

・環境ビジネスでは、スマートハウスを提案している。省エネ、創エネ、蓄エネはこれからの重要なテーマである。住宅企業や住宅設備企業もグループの傘下に入れている。住宅まで手掛けるのは、電気専門店として究極の姿であると、山田会長は強調する。住宅は大手のハウスメーカーがトップグループにいるが、全国の工務店が担っている部分が市場全体の8割もある。全国3700店のネットワークを活かして、地域密着の活動ができるとみている。

・少子高齢化を救う道は何か。このままでは、日本の人口減少が負の資産となってしまう。これを防ぎ日本の発展に資するように、当社は2世帯住宅を提案していく。爺婆と同居すれば、共稼ぎしながら子供を2人もつことができるようになる。住宅も35年ではなく、50年もつようにする。ここにスマートハウスを導入する。土地付き40坪の家にHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)を導入する。月々のローン返済に対して、太陽光発電の売電収入が入れば、負担は軽くなる。そこに、当社は業界より2~3割安い発電システムを提供していく。

・こうした環境にあって、家電量販店業界は大手3~4社のチェーンにさらに再編されていくと、山田会長は読んでいる。むしろ、それを仕掛けていこうとしている。では、ヤマダ電機は安く売っても他社よりどうして儲かるのか。それは戦略売価にある、と強調する。量を売ることによって、安く仕入れることができるというメリットがある。これは分り易い。もう少しいえば、都心の大型店と郊外店では売れるものが違う。地域によって売れ筋に差がある。しかも、各々の店には競合店がある。その競合一番店と比較して、価格を安くしていく。

・それを具体的にどう組み建てるのか。まず、台数限定の赤字商品(赤目玉)を用意する。これは台数限定である。そうしないと、不当廉売になるので注意を要する。さらに、一定の粗利益の稼げるものの中で、当社は全体の売上構成の50%を安く、50%は平均の価格で売る。他社は当社ほどの仕入れ量が多くないので、当社ほど安く仕入れられない。よって、他社では安くできる比率が売上の50%ではなく。20~30%に留まる。結果として、ヤマダ電機は安いとなる。しかも、当社はそれで十分稼げるのである。

・つまり、当社は安くできる確率が高いのである。それによって、どこにいってもプライス・リーダーシップをとることができる。これがヤマダ電機の強みである。この「戦略的売価50%」が強さの源泉である。

・日本の家電メーカーが弱ってきている。ここが弱くなると、販売にも影響がでる。例えば、アップルに対して量を売るから安くしろという日本流がそのまま通用するわけではない。海外の製品を扱うことも増えてくる。逆にアジアに出ていけば、ここでも日本と同じ売り方、ビジネスのやり方でよいというわけでない。ヤマダ電機の強さを家電量販以外に、どう拡げていくか、日本での強さを、アジアではどう発揮していくか。新しいビジネスモデルへの発展が問われている。山田会長の次なる戦略に注目したい。

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