次のCGCと市場区分の見直しに向けて

2020/03/09 <>

・日立製作所は、この5年でノンコア(非中核)事業の売却を進めている。物流(日立物流)、金融サービス(日立キャピタル)、電動工具(日立工機)、半導体製造設置(日立国際電気)、自動車関連(クラリオン)の持株比率を大幅に下げた。

・2019年度からは、セクター(セグメント)毎のROIC目標を定め、中期3カ年計画でその向上を目指している。事業部門別のROICの目標を定めるというのは画期的で、ポートフォリオの見直しが加速することになろう。

・機関投資家向けSSC(スチュワードシップコード)は、2014年制定、2017年改定を経て、今2020年に再び改定される。今回はESG重視が全面的に盛り込まれる。

・一方、上場企業向けのCGC(コーポレートガバナンスコード)は、2015年開始、2018年改定、そして2021年の改定に向けて、今年は本格的な議論が始まろう。

・この20年で、M&Aが企業の外部成長にとって当たり前の戦略となってきた。ポートフォリオの見直しを図るには、1)いらない事業は切り出し、2)必要な事業は買ってくる、という動きが活発になっている。そのためには、自社の事業価値を個別に正確に把握しておく必要があり、類似の他社についても、同じように分析していくことが求められる。

・特殊な投資家からわが社を守るためには、買収防衛策が必要であるという考えが、かつては有力であった。しかし今では、買収防衛策を入れていると、企業価値の向上に手抜きがあるのではないか、とみられてしまう。アクティビストにつけ入れられるのも、マネジメントに隙があるからではないか、という見方も成り立つ。

・親子上場は、1990年代以降大幅に増えた。傘下の有望な子会社を、子会社のまま上場されるというやり方をとった。子会社にとっては、上場会社として認められるので、信用力は高まり、ブランドも向上した。

・上場子会社の少数株主にとっては、もし大株主の親会社が自分の都合で、子会社の利益を犠牲にするような行動をとれば、それは許せない。そこで、親子上場が問題視されるようになった。親子上場は2006年度末の417社をピークに、2018年度には262社に減っているが、まだかなりある。

・東証の小沼常務の話を聴く機会があった。CGCの次に改定に向けて、どのようなことが論点となるのか。すでに、トップマネジメントの選解任、利益相反の監督、マルチステークホルダーへの配慮は組み込まれている。それでもまだ不十分である。

・次のCGCでは形ではなく、実質的な役割が効果的な働き方をするように底上げを目指す。ポートフォリオの再編に向けて、TOBの案件は一段と増大してこよう。アクティビストによる提案、ファンドによる買収、事業会社による敵対的買収なども活発化してこよう。

・その時、誰がどのように考えるのか。何が本当の企業価値向上になるのか。トップマネジメントの立場とは別に、独立社外取締役の働きが一層重要になる。監督と助言の力量が問われよう。買収防衛策を導入している企業数は、2014年の576社から、2019年には335社へ減少しているが、まだ多い。

・取締役会の実効性では、やはり議長とCEOの分離がテーマになろう。経営会議で議論したことを、同じレベルで、取締役会で審議するだけでは意味がない。アジェンダ(議題)の設定をどうするかという点で、取締役会議長の役割は重要である。このあり方と運営方法が重要である。

・東証の市場区分の見直しにも、CGCの視点を強く入れていくようである。東証1部、2部、マザーズ、ジャスダック(スタンダード、グロース)という今の区分に対して、①プレミアム、②スタンダード、③グロースの3つに仕分けしていく。

・東証としては、スタートの時点で絞り込みはしない。但し、企業改革に力を入れ、価値向上を図る企業を重視する。よって、基準を引き上げて、将来へコミットさせるようにもっていくようだ。

・つまり、一部上場企業というブランドと信用力は、そのままプレミアム市場にもっていくとしても、その質的基準を上げて、そこをクリアできないとプレミアム市場にとどまることはできない、というようにするとみられる。2022年上期での実施を目指している。

・CGCの3回目の見直しと市場区分の見直しは機を一にしている。解釈すれば、1)もっと企業価値を高めるように誘導する、2)そのためには取締役会がさらに機能するようにする、3)取締役会議長とCEOを分離する、4)社外取締役を過半にする、5)親子上場を認めないようにする、6)買収防衛策を抜本的に見直す、という方向性が強まることになろう。

・市場区分では、1)プライムが質的に最も高い水準をクリアし、2)スタンダードが規模は小さくても、同じように高い企業品質を確保し、3)グロースは、まさに新興企業として、企業の品質作りも発展途上ということになろう。

・制度やルールの変更は、必然的に投資家に企業価値評価の再検討を迫ってくる。ここは、絶好の投資タイミングである。SSCでのESG評価、CGCと市場区分による企業価値の創出力に注目したい。

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