これから伸びる産業~DX、SDGsは儲かるのか

2020/01/27 <>

・ESG投資で、投資家のパフォーマンスが上がるのか。この問いに対して、いくつかの見方がある。1つ目は、世界的にESG投資が注目され拡大しているが、そのパフォーマンスをみるとインデックスを下回っている。例えば、MSCI米国ESG指数の投資収益率は、米国株指数を過去10年でみて下回っているという指摘がある。

・2つ目は、ESGを重視した投資こそよい投資なので、インデックスを下回っているからといって、そのことに捉われる必要はない。ESG投資はまだ始まったばかりで、パフォーマンスはこれから上がってくるという見方である。

・3つ目は、ESGの中身をどう捉えるか。一般的に、客観的なデータを重視するならば、例えば環境保全データのよい会社、女性参加の高い会社、社外取締役が多い会社がよい評点を得そうである。しかし、ESGを重視する経営が企業価値向上に結びついているか、という点を深く分析するには、形式的なデータの集計だけでは不十分である。

・ESGをよくすれば、企業価値が上がり、ひいては株価パフォーマンスにも反映するという見方は、論理としてありうるが、そう一筋縄にはいかない。

・筆者は、これから伸びる産業は何かと聞かれたら、DX(デジタルトランスフォーメーション)産業とSDGs(持続可能な開発目標)産業と答えている。他に長寿(Longevity)産業や5G産業も有望であろう。問題は、その産業でビジネスを展開して儲けられるか。その仕組み作りが問われている。

・DXは、ほぼ全ての企業に関わってくる。ITの活用は、ミドル・バックからフロントに進んでいる。ビジネスの現場でITをいかに取り入れていくか。商品・サービスの付加価値を高め、人手不足を乗り越えて生産性を上げるには、デジタル(ビッグデータ)の活用が必須である。

・現実はどうか。経産省の「攻めのIT経営銘柄~DXの実践企業」の表彰をみると、多くの企業が意欲的に取り組んでいるが、その差は極めて大きい。トップマネジメントの認識、人材の育成、経営の実行戦略への組み込みが手始めである。

・次に、それがビジネスの現場における差別化戦略として、競争力を発揮し、付加価値の創出に結びつくかが問われる。DX投資は何よりも人材投資である。本気で取り組んで3年はかかる。システムが出来上がればバランスシートに載ってくるが、それよりもR&D型の人件費が発生してくる。この先行投資に注目したい。

・SDGsは今やブームである。サステナブル(持続可能な)世界を実現するために17のゴール(貧困、飢餓、健康、教育、平等、水、エネルギー、成長、産業、居住、気候、海、陸、平和、協力)に取り組もうとするものである。国、公共、企業、NPO、生活者など、様々な組織で具体的な課題を認識し、その克服に向けて活動が始まっている。

・社会の課題に対して、自らゴールを設定し、その達成に向けて行動する。企業の場合、どのようなSDGsを設定するのか。日本の多くの企業が現在取り組んでいることは、17ゴール(169のターゲット)に対して、まず自社のビジネスをひも付けしている。

・次に、将来の課題として自社で遂行する目標を選択し、その戦略を立案する。そして、課題克服という社会的価値の向上と、自社のビジネスとしての経済的価値の向上の両立を狙う。

・この両立がカギである。中長期的にハードルが高くても、わが社でなければできないゴールを目指して、ビジネスモデル(BM)を作り上げていく。困難な課題に取り組む人材をいかに組織化していくか。目先は儲けにつながらないが、社会的貢献を通して、いかにレピュテーションを高めていくか。そのためのイノベーションを通して、いずれ新しいビジネスを創出し、ポートフォリオの進化を図っていく。

・もちろん、うまくいかないことも多い。先行投資が徒労に終わることもあろう。経済的価値をうまない事案については、社会貢献活動として、別枠にするケースもあろう。

・では、SDGsで揚げたビジョンの遂行を通して、企業は本当に儲けられるのか。ここが大きなテーマである。日本の企業はこの20年間低収益で成長性も相対的に乏しかった。それがSDGsのターゲットを組み込んで、収益性や成長性を高められるのか。

・そもそも日本企業は、どうして収益性が低迷したのか。過去のROEをみると、日本は5~7%であったのに対して、米国16~19%、英国18~21%、ドイツ11~14%、フランス10~12%であった。最近の日本のROE は、8~9%まで上がっているが、まだ劣っている。

・これに対して、いくつかの論点がある。1つは、米国型のROE経営は株主至上主義であり。そこを目指す必要はない。日本にはもともと三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)という近江商人以来の伝統がある。ステークホルダーとのバランスをとってきたのであって、その流れは大事にすべきである、という考え方である。

・2つ目は、次のような考え方を大事にする。日本企業に、ROE至上主義の経営をやってほしいといっているのではない。グローバルにみて日本のROEが低いという点を十分考慮して、これをもう一段レベルアップしてほしい。分かり易くいえば、5% 以下の企業はまず8%へ、8%の企業はアジア、欧州企業並みの10~12%へ、10%を超えている企業は米英並みの15~20%を目指してほしい。

・ROEは1つの財務数値である。指標の立て方は多様でよい。重要なことは、1)社会的存在としてのわが社のビジョンを、CEOが自分の言語で語ることである。2)どのような社会的課題の解決に貢献するのか明らかにしてほしい。

・3)それをどのように経済的価値に結びつけるのか。そのビジネスモデル(BM)を揚げてほしい。4)そのBMを実現していくには、足らない資産がある。人的、知的、組織的、社会的、環境的、財務的資本などを調達し、開発していく。5)何が重要で、どう価値創造に結びつけていくか。その戦略を立ててPDCAをまわしてほしい。

・ROEの前に重要なKPIがいくつもあり、その結果としてROICやROEがみえてくる。SDGs産業は、企業がお題目に揚げればよいというものではない。17項目につながりの線を引けばよいというものでもない。中長期の価値創造に本当に結びついて、しっかり儲けることが本筋である。

・日本企業はこの儲け方が必ずしもうまくない。甘い経営に陥りがちである。日経225を構成するような日本代表する企業が、ROEを中長期的にもう3%ほど高めるような高付加価値戦略を遂行できるか。

・これを分かり易くいえば、いい商品を安く大量に売るのではなく、他社ができないサービスを適正に提供し、大いに満足して頂くのである。つまり、価格が高くても、それ以上の満足が得られればよい。大企業でも中堅企業でも、このタイプの価値創造企業が出現している。しかし、もう少し主流にならないと、全体のトレンドとはいえない。

・DX産業は伸びるし、SDGs産業も伸びる。そこできちんと価値創造できる企業が一部に留まるのではなく、もっと広がってほしい。投資家としては、新しいDX企業、おもしろいSDGs企業を選別したいので、大いに挑戦してほしい。

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