生活の質に関する満足度をどう測るか
・7月に内閣府より「満足度・生活の質に関する調査」(第2次報告書)が出された。GDPだけでは捉えきれない幸福や満足を、何らかの形で見える化して、政策に活かしていこうという試みである。
・国連やOECDにおいて、幸福度指標の作成が活発化している。日本でも、生活の質に関する主観的満足度を客観的に把握したいと検討している。1万人に対するWEB調査を実施して、満足度に関する指標群(ダッシュボード)を試作した。
・‘総合主観満足度’を構成する分野として、OECDの先行事例を参考に10分野を定め、それとは別に、今の日本にとって重要な課題である分野を3つ加えた。1万人のデータを基に、その関係を重回帰分析で解き、説明力の高い11分野を特定した。
・生活の質に関する満足度について、個人に聞いた。世代別、地域別に聞いているが、個人の生活は多様であり、バラつきも著しい。しかも、主観的な答えを聞いているので、本人の気持ち次第で何とでもいえる。
・しかし、主観的だからいい加減とはいえない。主観的だからこそ、本人の好み(選好)が十分反映されている。それを1万人分集めて統計的に分析すると、何かが出てこよう。但し、統計的なまとめ方には、よほど注意しないと誤ったメッセージになりかねない。
・全体をまとめた総合主観満足度を構成する分野として、①家計と資産、②雇用と賃金、③住宅、④仕事と生活(ワークライフバランス)、⑤健康状態、⑥教育、⑦社会とのつながり、⑧行政への信頼、⑨自然環境、⑩安全、に加えて、⑪子育て、⑫介護、⑬生活の楽しさを入れた。
・これらを分析してみると、総合満足度の6割強を13分野で説明できる。さらに、その影響度・関連度をみると、1)総合満足度に直接影響するのが家計、住宅、雇用、教育の4つ、2)生活の楽しさを介して間接的に影響するのが、社会とのつながり、ワークライフバランス、安全、子育て、介護、自然の6つ、3)前記の双方に影響するのが、健康、そして4)統計的に有意とならなかった分野が、行政への信頼であった。
・主観的な満足度という場合、何よりも大事なのは健康状態であり、逆に政治・行政・裁判所への信頼性は、それが大事としてもあまり重視されていない。
・総合満足度を説明する上で、説明力のウエイトが高かった分野は、「生活の楽しさ・面白さ」がトップで、次に「家計・資産」、「ワークライフバランス」、「健康」であった。生活の楽しさが一番であって、次がお金、仕事とのバランス、となっている。
・これらの主要な8分野で総合満足度の62.8%は説明できても、37.2%は説明できていない。主観的な好みなので、家族や趣味などの個人的要因が十分捉えきれていないともいえる。
・次に、生活の楽しさを他の分野で重回帰分析してみると、社会とのつながり、ワークライフバランスの係数が高かった。逆に、家計・資産という金銭的なものの満足は、有意と出ていない。お金よりも大事なものがあるという見方である。
・生活の楽しさに関する満足度では、他の10分野で説明できるウエイトが63.9%であるが、総合満足度の時と同じように、これらの分野で説明できないものが36.1%ほどある。
・世代ごと、地域ごとの満足度には、当然違いがあると思えるが、今回の分析では有意な結果が得られていない。もっと多様なので、ここでの統計データでは不十分ということであろう。
・一方、生活の楽しさの満足度は、趣味・生きがいと有意に結びついている、また、スマホを所持している人ほど、生活の楽しさの満足度が高いという結果も出ている。スマホの所有と活用が、その人々の楽しみ方を何らかの形で表しているのかもしない。
・今回の調査の結論として、総合主観満足度として11の分野を選び、その分野別満足度を示す客観的指標群(ダッシュボード)を33グラフ選定した。
・例えば、家計と資産では、①可処分所得、②金融資産残高(2018年の個人金融資産平均値1887万円、中央値1080万円)、③生涯賃金、といった具合である。
・まだ暫定試案である。世はビックデータの時代である。政府統計も様々ある。しかし、生活の質、生活の楽しみといった途端に、それを捉えるデータは十分でない。
・人々の好みは多様で、しかもどんどん変化していく。政府が政策として生活の満足度(well-being)を改善したいという狙いはよく分かるので、大いに取り組んでほしい。
・企業においても、人々の生活の質をどのように捉え、高めていくか。その社会的課題をニーズとして、どのように価値創造に取り組んでいくか。アンケート調査やテストマーケティングは様々な形で行われているが、もう一歩踏み込んだ生活の質(QOL)を高めるイノベーションに期待したい。