ESGインテグレーションを投資に活かす

2019/08/28

・ESGをいかに投資判断に活かすか。その試みはすでに実践に入っている。しかし、従来の投資判断手法にESGをどのように組み込むのか、投資リターンにどう効くのか、比較可能なデータが十分でない、などまだ課題は多い。

・6月に、CFA協会、日本価値創造ERM学会、証券アナリスト協会でそれぞれ「ESG Integration in Asia」、「SDGsは企業価値向上に役立つのか(首都大学加藤特任教授)」、「ESG投資のパフォーマンス評価を巡る論点と課題(東大湯山特任教授)」の話を聞いた。

・それらを参考に、学問的実証は別にして、ESG投資の実践について実感を述べてみたい。個人投資家のスタンスで考えてみる。それなら、個人の主観的見方であると、とりあえず許容できよう。

・まず、2つの視点が重要である。1つは、投資家としての自らの投資態度として、あるべき姿をイメージした時のマテリアリティ(重要な構成要素)は何か。もう1つは、生み出されるリターンからみたマテリアリティは何か。

・ESG投資は、辞書的決定論のネガティブ スクリーニングではない。ESGという視点からスクリーニングして、そこで一定水準をクリアした投資対象だけを母集団にするというやり方には組しない。

・例えば、たばこ銘柄は外す、石炭銘柄は外す、というようには考えない。企業として存在し、上場しているのであるから、特定の尺度のみを、辞書を引くように優先して選択していくことはしない。

・株式投資をイメージすると、企業のバリエーションと投資判断のバリエーションを二段階に分けて行うことが妥当と考えて、この10年実践している。①いい会社か今一歩の会社か、②割高か割安か、という評価は、分けて考えた方が的確な判断ができる。

・企業も投資家も、1)世のため人のために行動し、2)いかに儲けるかを重要な動機としている。そのために、①理念を明らかにし、②ビジョンを立てて、③ビジネスモデル(価値創造の仕組み)を構想し、④それを実践する戦略を練っていく。そのプロセスにおいて、ESGをいかに位置付けるのか。

・企業価値向上に資するESGとは、どの様な内容か。それが投資家のリターンにも効いてくるのか。効果を上げるのであれば、ESGファクターにエンゲージして、リターンを高めたいと考えるのは当然である。

・企業評価をする時に、ESGも1つのファクターとして組み込む、というのがESGインテグレーションの考え方である。ESGという要素を明確に取り込んで、統合的に評価に役立てようというものである。

・通常、投資家がリターンという時は、投資した後の株価パフォーマンスとしての経済的リターンを指す。しかし、企業価値の創造には、社会的価値と経済的価値の両面があり、一方を犠牲にしてもう一方をとる、というようには中々考えにくい。バランスが重要であるとしても、そこにはかなり主観的な価値観が入ってくる。

・理想は、社会的リターンを追求すると、それにつれて経済的リターンが最も高まってくるようになればよいが、現実はそんなにうまくいかない。妥当な経済的リターンを捨てて、社会的リターンに重心をおくということは、フィデューシャリー デューティの観点に立てば許容できない。

・ESG投資を明確に位置付けようとすれば、MPT(現代ポートフォリオ理論)に馴染まないのだろうか。MPT自体が1つの仮説に成り立っており、現実には合わないところがある。それを承知の上で、ベースとなるモデルとして使われている。

・ESGのデータはまだ十分でない。ESG経営が始まっているが、日本ではこの数年のことである。よって、計量的に分析しようとしても、明確な答えは出ていない。パフォーマンスを説明するESGファクターは互いに独立か、説明しきれない誤差項との間に内生性の問題はないかと問われると、定量的分析はなかなか難しい。

・では、どう考えたらよいのか。最近は、気候変動が大きく注目されている。個々の企業活動に重大な影響を及ぼすし、自社の経営の中で、気候変動にもたらす要因について、少量であってもコントロールできるものがあれば、それを明示することが問われている。

・さらにSDGsとの関係も問われている。これを社会的課題として捉え、1)自社のビジネスにひも付ける、2)そのソリューションをマテリアリティとして認識する、3)コミュニケーションが十分とれるようにする、などまだまだこれからである。

・10年後のキャッシュ・フローは明確には予測できない。ESGファクターが業績に織り込めるようになったら取り入れる、という姿勢では十分でない。とすれば、長期を見据えて、将来のビジネスモデルを構想し、そのマテリアリティについて議論し、ヒントを提示していく必要がある。

・投資家はここが知りたい。ESG投資の根幹は、企業評価の格付け(レーティング)にそのファクターを活かすことである。企業格付けを、例えば、①マネジメント力、②イノベーション力、③リスクトレランス(リスク許容度)、④サステナビリティ(持続性)で評価すると、ESGファクターはそれぞれに関わってこよう。

・こうした定性評価の軸は、必ずしも互いに独立ではない。ある視点を強調して、企業の将来のビジネスモデルを評価することになる。視点を変えてみることで、企業の実態がより明確に捉えられれば、評価の精度は上がってこよう。

・長期的にサステナブルな価値創造企業に投資したい。そのリターンの確度はESGの観点を入れることによって高まるはずである。こうした演繹的な論法は、論理としては有意だが、それを実践するのは容易ではない。

・しかし、長年のアナリストとして実践を踏まえると、さほど難しくなく、こうした分析と予測によって、パフォーマンスは十分上げられると実感している。大手機関投資家にとってはどうだろうか。イノベーターとしての力量と、組織能力を高めるマネジメント力がカギを握る。その成果に期待したい。

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