J.フロント リテイリングのガバナンス改革

2019/04/01 <>

・株価は業績で決まる。業績が伸びる時、株価は上がる蓋然性が高い。その逆もあてはまる。では、コーポレートガバナンスをよくしたら株価は上がるか。この問いはシンプルだが本質的である。

・ガバナンスをよくしたら業績はよくなるのか。一般論でいえば、これは一概に何ともいえない。ガバナンスをよくするとは、何を意味するのか。形を整えても、中身が不十分かもしれない。

・そもそもガバナンスは、企業を守るためのものであって、攻めのガバナンスが機能するには他の要素がいくつもあるので、ガバナンスだけで業績をうんぬんするのは難しいという見方も有力である。

・しかし、財務パフォーマンスの結果である業績をよくしていくことが、ガバナンス改革の究極の目的である。投資家はここに注目する。しかも、目先の利益ではない。中長期の企業価値を創り出す仕組みづくりに、ガバナンスが決定的な役割を果たすはずであるとみている。

・そこで、決定的な役割が果たせるようになっているかを知りたいと思う。ここがガバナンスに対する対話の根幹である。

・2月にJ.フロント リテイリング(JFR)の山本良一社長の話を聴いた。JFRは2007年に大丸と松坂屋が経営統合してできた。2012年にパルコも加わった。最近では、ギンザシックス(GINZA SIX)で新たな事業を強化している。JFRのテーマは、‘暮らしの「あたらしい幸せ」を発明すること’にある。

・山本社長は、年100回ほど投資家とミーティングを持っている。昨年11月にはESGの会社説明会を行って、議論は活発であったという。米国のロサンゼルスに行った時も、ミーティングでの質問はESGから始まった。海外投資家の意識改革も進んでいるということを実感している。

・山本社長の問題意識は、これまで50年のビジネスモデルが通用しなくなっていることにある。現状の延長では経営に限界がある。そこで、次の50年に向けて、非連続な成長曲線を描いていくことが何としても必要であると考えた。そのために、攻めのガバナンスを起爆剤にして、企業の持続性的成長を実現する。これがガバナンス改革の目的であると強調した。

・山本社長は、なぜガバナンス改革に拘ったか。これまで百貨店の現場で、改革はいやというほどやってきたが、それで生きていけるかというと、もはや難しいと感じた。大丸も松坂屋も遡れば、300年、400年の歴史を有し、長く呉服屋としての事業を営んできた。

・その後、百貨店になって100年、これも成り立たなくなっている。そこで、新たな成長を目指すには、経営のフレームワークを変えるしかないと考えた。どう変えるか。その時、ガバナンス改革がチャンスであると発想した。

・何をやるか。まずは取締役会の改革に着手した。戦略を考える場にすべく、報告事項を減らして、議論の時間を全体の2割から6割に拡大した。

・経営戦略について、まだ決めていない段階から議論の俎上に上げ、社外取締役の意見も入れて議論をして、一度持ち帰る。執行サイドは、もう一度検討して案を上げてくる。こうした議論を経て、決議するようにした。

・当日、議論を進めやすいように、社外取締役への事前説明を十分とるようにした。社外取締役の識見も相当問われる。

・ガバナンスそのものをどうするかという議論も重要なので、「ガバナンス委員会」を作った。取締役会が有効に機能するにはどうすべきか、というテーマについて検討し、監査役設置会社から指名委員会等設置会社への移行を決めた。2年前の株主総会でこれを実現した。

・指名委員会型にして、明らかに良かったという。1)執行のスピードが上がった、2)新しいことが協議を経てどんどんできるようになった、3)透明性が高まった。4)責任と権限が明確になった、5)グローバルな対応も分かり易くなった。

・取締役は13名で、うち独立社外が5名、社内8名(うち非執行3名)である。議長は非執行の社内取締役である。社長は執行のトップであり、議長を離れたことにより、やり易くなったという。

・報酬委員会は5名(うち社外3名)である。執行役の評価についてはBSC(バランスコアカード)を活用して4つの視点から評価し、社長と話し合いをもつ。期初に目標を設定し、中間でフォローし、年度末で確定する。

・社長の報酬は、基本報酬+年度ごとの賞与+中長期の達成に見合う株式報酬で構成され、その比率は1:0.6:1である。年度ごとの賞与は、連結利益、EPS、キャッシュフロー、ROEなどをベースに決まる。

・海外IRに行くと、社長は株をどのくらい持っているかと聞かれる。これが少ないと経営に信頼がないとみられる。株主と同じような意味において、結果に責任を持つことが問われているので、その仕組みを作った。

・指名委員会は5名(うち社外3名)では、経営人材、後継者について議論している。経営人材の育成では、早期選抜も取り入れてモニタリングしている。トップのサクセションプランについては、次のトップについて数名挙げて、毎年洗い替えをしている。

・これらの人材については、成長を促すために、新しい役割につけることも図っている。取締役会で報告の機会を作り、人物や業績をみてもらうようにしている。

・社外取締役の5名については、自社の経営課題について、中期的に合致しているかどうかを指名委員会でみてもらい、毎年1人ずつ入れ替えるようなタイミングを考えていく。急に複数の人が交替すると継続性の観点からよくない。社外取締役の適性と、5人のマッチング(組み合わせ)は極めて重要であると強調した。

・取締役会の活性化は、経営人材の強化と軌を一にする。経営改革を担う人材が社内に十分育っていなければ、社外からのスカウトも考える必要がある。社外取締役も、今後の大胆な経営改革に、的確な監督と助言ができなければ用を成さない。

・山本社長は、ESGへの取り組みは経営戦略そのものであるとみている。トップのリーダーシップがカギとなる。ガバナンス改革は新しいビジネスモデル作りのフレームワークを提供する。

・その上で、マネジメントを実行するCEOのパフォーマンスが決定的である。ここの力量が組織能力をどう育て発揮させるかを決める。投資家はこうした組織能力の中身を共有した上で、財務パフォーマンスをみていく。

・JFRのガバナンス改革が、次の新しいビジネスモデル作りに結びつき、有能なCEOは輩出し続けることができるか。次の50年に向けた大胆な戦略遂行に注目したい。

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