中国の「両会」について
中国では、全国人民代表大会(全人代)と全国政治協商会議(政協)のいわゆる「両会」が今週5日から開幕しました。開幕時の全人代において温家宝首相が行った政府の活動報告では、2013年の経済成長目標が前年と同じ7.5%に設定されました。
中国の憲法で全人代は「国家の最高権力機関」として、法律の制定や国家主席の選出などを行う権限を持つと定められています。昨年の中国共産党大会で習近平氏が党の代表(総書記)に選ばれましたが、中国の国家代表(主席)に正式に任命されるのはこの全人代です。
全人代はその役割や機能から、日本の国会に相当するものとして紹介されることが多いのですが、選挙によって選ばれる日本の国会議員とは違い、全人代のメンバー(代表)のほとんどは中国共産党が指名した候補から選出されます。
また、「両会」のもう一つである政協は、全人代で採り上げられている政策などについて議論や提案、法案などに対して助言などを行います。ただし、政協自体に議決権がないほか、そのメンバー(委員)は有名人などが多く選ばれています。今回の政協は、映画スターのジャッキー・チェン氏やノーベル文学賞受賞者の莫言氏、映画監督の陳凱歌氏らが委員として出席しています。政治に大きく関わるというよりはイメージアップ機関のような位置付けです。
前置きが長くなりましたが、確かに、「両会」は中国共産党の意向が大いに反映されており、党が決めたことを追認するだけの形骸組織に過ぎないとの指摘もあります。ただ、別の見方をすれば、党の方針が「両会」を通じてどのように政策に反映されるかが明らかになる場でもあるわけです。なお、昨年の党大会では主に3つの方針が強調されました。まずは、①2020年までに国民1人あたりGDPを1万ドルにする「所得倍増」、次に、②環境汚染の改善や新エネルギーに注力する「美麗中国(美しい中国)」、そして、③政治汚職や腐敗を一掃する「政府清廉」です。
例えば、目標通りに所得を倍増させるためにはGDPを毎年7%以上成長させる必要がありますが、現在の投資・外需依存型の経済構造のままでは安定的に成長を持続させることは困難です。現在、中国株式市場が注目しているキーワードは、「都市化の推進」や「消費の拡大」、「クリーンエネルギー」、「民営化の推進」、「金融・土地改革」、「環境汚染対策」、「政治機構改革」、「戸籍制度の見直し」、「社会保障の整備」など数多くありますが、いずれも3つの方針を達成するために欠かせない具体的な政策の切り口になっています。
「和諧社会(バランスのとれた社会)」と「科学的発展観(経済急成長でもたらされた環境・資源問題や格差拡大などを修正しながら持続的に発展)」―。これらは、前の胡錦涛政権の時に強調されていた方針ですが、見事に達成できたとはとても言えず、むしろ悪化している面もあります。抵抗勢力や既得権益の壁に阻まれ、思うように規制緩和や構造改革が進まなかったことが要因です。現在の習近平政権も同じ壁に挑むことになります。
その挑戦として、国営企業などの既得権益集団で、多額の債務を抱える鉄道省を解体するのではとの観測が出ており、今回の全人代で承認されるかどうかが注目されています。安定的な経済発展のために、産業への民間資本の参入を拡大させようとする意図なのですが、もし承認されれば、改革に向けた本気度を国内外にアピールすることになります。
また、規制緩和や構造改革に対して大鉈を振るう必要があるのは日本と似ています。日本ではアベノミクス3本目の矢である成長戦略が6月中を目処に策定される予定です。2本の矢(金融緩和と財政出動)はすでに放たれましたが、短期的な経済持ち直しから中長期的な成長期待につなげられるかどうかの重要なポイントは、成長戦略が規制緩和や構造改革にどこまで踏み込めるかにあると言えます。足元ではTPP参加に向けた動きなどがその試金石となっています。
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