米国FOMC後の市場の反応について

2012/12/14

国内の衆議院選挙や日銀金融政策決定会合をはじめ、米国のFOMCと「財政の崖」をめぐる議会協議の行方、欧州のEU首脳会議、中国の中央経済工作会議など、12月半ばは国内外を問わず、注目のイベントが集中していますが、そのひとつである米国FOMCが終了しました。

最大の注目点だったのは、追加の金融政策があるかどうかでした。現在行われている「ツイスト・オペ」が年内で終了するため、その代わりとして、何かしらの金融政策が出てくるだろうという見方が市場では支配的でした。

実際に、2013年1月から、毎月450億ドル規模の長期国債を購入していくことが決まり、ほぼ予想通りの結果となりました。ツイスト・オペはいわゆる不胎化(短期国債を売って、長期債を買う)政策でしたが、今回は新規のマネーでの購入ですので、量的緩和策になります。

また、ちょっとしたサプライズとなったのが声明文の文言です。現状の低金利政策をいつまで続けるのかというテーマについて、「2015年半ば」という期限目標の文言が削除され、「失業率が6.5%を下回るまで」、「インフレ率が2.5%を超えない範囲」という数値目標の文言に変更されました。

このFOMCの結果を受けた米国市場は、「株安、債券安、ドル高」で反応しましたが、概ね好感されたと見て良いと思います。株安については、すでに今回の決定を織り込んで上昇してきたことや、「財政の崖」問題に対する議会協議への警戒も続いているため、ひとまず利益確定売りが出た格好で、NYダウの下落も小幅にとどまり、失望売りではなさそうです。

その一方で、量的緩和が決まれば、国債購入による長期金利の上昇抑制や量的緩和によるドル安(円高)が進むという見方が多かったため、債券安(利回り上昇)とドル高(円安)については、やや「意外」と受け止めた方が多かったかもしれません。

確かに、量的緩和によって通貨供給量が増加し、その通貨の価値が下がるという理屈は自然なのですが、実は、過去の米国QE(量的緩和)シリーズを振り返ると、QE1、QE2ともに、導入後は今回と同様の動き(米国債利回り上昇と円安)が進みました。低金利と量的緩和政策を背景とした経済回復やインフレへの期待が高まり、債券から株式などのリスク資産に資金が向かうことで利回りが上昇。日米の金利差が拡大するためドルが買われるという動きです。つまり、市場の視点は政策の先にあるインフレ期待に向いていたわけです。

よく、「欧米に比べて日銀の金融緩和が足りないから円高になっている(だから、もっと緩和を)。」というのを耳にします。国内では金融緩和を円高対策として捉え、通貨供給量の比較が為替の変動要因としている面があります。もちろん、通貨供給量で為替が動く局面はありますが、過去のQEシリーズや今回の動きを見ると、通貨供給量よりも金利差が変動要因になっていると思われます。

また、金融緩和を実施しても、実体経済のキャッチアップがなければ持続できません。過去のQEについても、米国の実体経済の回復ペースが緩慢なままだったため、その期限が迫るにつれて「利回り低下、ドル安」となりました。だからこそ、今回FRBは期限目標から数値目標に切り替えるなど、金融政策の出口戦略に細心の注意を払ったと考えられます。

日銀も低金利と量的緩和を続けていますが、「国内経済が活性化し、インフレ期待が高まる」シナリオにならないのが現状であり、課題でもあります。利下げや金融緩和の最大の目的はデフレ解消や景気回復です。国内の衆院選が間近ですが、新政権には経済の成長戦略に力点を置いた運営を期待したいところです。

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