米国「財政の崖」問題の背景にあるもの

2012/11/15

米国大統領選挙後の国内外の株式市場は、いわゆる米国の「財政の崖」問題に対する警戒感が高まっています。直近の日経平均は4月以来の7日続落となる場面があったほか、当事国である米NYダウも今週に入って約4カ月ぶりの安値水準まで下落しています。

「財政の崖」とは、米国で減税の終了による実質増税と歳出の強制削減が2013年のあたまに同時に発生することです。これによって、同国景気への下押し圧力とその影響が世界景気に波及することが懸念されています。株式市場で「財政の崖」がここまで意識されるのは、その規模が合計で約5,000億ドルとされ、かなりのインパクトを持っているからと言えます。

また、米国議会が今週13日から再開されました。「財政の崖」問題を回避するため、何らかの対策がとられるのかが注目されています。会期はクリスマスまでですが、来週(11月19日~23日)は感謝祭で休会となっているため、時間的猶予はあまり残されていません。しかも、今回の議会は先日行われた選挙前の旧議員で構成されていることもあり、ひとまずは、「財政の崖」問題を先送りする対応、具体的には減税措置と強制的な歳出削減発動の日取りを一定期間延長させ、本格的な議論は年明けに発足する新議会に委ねるというシナリオが有力視されています。

そもそも、「財政の崖」には、米国の財政赤字を減らして中長期的に財政再建していくという課題が根底にあります。米国の財政赤字は4年連続で1兆ドルを超えるペースで増加しているほか、早ければ年末にも米国の債務が法定上限額に到達する見込みとなっており、今後財政悪化による米国債の格下げなどが懸念されています。また、現在、欧州の財政懸念国は緊縮財政策を中心に財政再建に取り組んでいますが、米国も根本的には同じ構図です。確かに、「財政の崖」は景気面で見れば悪材料ですが、財政面で見れば財政再建への取り組みが進展することになり、好材料となります。

とはいえ、足元で回復基調を辿っている米国景気を腰折れさせてしまっては意味がありませんし、かといって、中長期的な財政再建に向けた取り組みに成果がなければ、米国債が格下げされてしまう可能性もあります。そのため、「財政の崖」のインパクトをできるだけ軽減させ、如何に景気配慮と財政再建のバランスをとっていくかが、この問題の本質となります。市場の関心はやはり景気動向ですが、財政再建の面でも成果が求められる以上、「崖」とまでは言えないまでも、歳出削減によって、一定の景気下押し圧力がかかるシナリオは想定しておいた方が良いかもしれません。

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