欧州の問題への取り組みは道半ば。鍵となるのは具体性
今週の12日、ドイツの連邦憲法裁判所が欧州の救済基金であるESM(欧州安定メカニズム)の批准を一定の条件付きで認める判断を下しました。ユーロ圏17カ国のうち、ドイツだけがESMの批准を終えていなかったため、今回の判断で欧州の問題への対策の柱のひとつとなっているESM発足への道筋に一応の目処が立ったことになります。このまま行けば、数週間以内にESMが稼動し、来月8日には初回の理事会が開かれる予定となっています。
今回のESMをめぐるドイツ裁判所の判断が市場の注目を集めたのは、先週(6日)のECB理事会において、新たな「国債買い入れ計画」の導入が合意されましたが、その計画が実施されるにはESMの稼動が前提条件となっていたためです。仮に、批准を認めない判断だった場合にはESMが稼動できず、市場が混乱していた可能性があります。今回の判断により、ESMの稼動と国債買い入れ計画の実現に向けて一歩前進したことになります。
また、これを受けた市場の反応ですが、為替市場ではユーロの買い戻し、債券市場ではスペインなど財政懸念国の国債利回りの低下(国債の価格上昇)、株式市場も上昇と概ね好感したものの、その動きは限定的となりました。今回の結果が予想の範囲内だったことや、米FOMC待ちなどの理由もあると思われますが、欧州の問題に対する取り組みにはまだまだ課題が多く、「道半ば」であることにも留意する必要がありそうです。
その点に関して、今回の判断では一定の条件が付け加えられています。具体的には、ドイツがESMに拠出する金額の上限を1,900億ユーロとし、それを超える分については議会の承認を得る必要があるというものです。ESMの基金規模は5,000億ユーロですが、そもそも、「スペインやイタリアが本格的に支援を要請したら、資金が足りなくなるのでは?」という見方がありました。将来、ESMの資金が不足し、追加で拠出する必要性が出た場合に、ドイツ議会の承認を得られない可能性が残されるわけです。なお、スペインとイタリア両国の救済には8,000億ユーロ以上の資金が必要になるとの試算があります。
こうしたESMの資金不足への懸念解消のため、「ESMに銀行免許を与えよう」という議論が一部で行われています。ESMに銀行免許を付与することで、ECBの公開市場操作を通じて資金調達が可能となります。ただし、ESMへの銀行免許付与は、EUの法律が禁じている中銀による政府の財政支援に該当する恐れがあり、実現の目処は立っていません。
さらに、先述の国債買い入れ計画についても、その実行面において課題が残っています。実際にECBが国債を買い入れるには、財政懸念国がESMなどに正式に支援を申請し、より厳しい財政再建や構造改革などの条件を受け入れる必要があります。また、その条件が守れない場合には、買い入れそのものが打ち切られてしまいます。仮に、国債の買い入れを打ち切った途端に、その国債価格が急落(利回りが急上昇)し、それまで買い入れていた国債に大きな損失が発生してしまう恐れがあるため、いったん買い入れを開始してしまうと、現実的に途中で打ち切ることは難しくなります。そのため、課される条件は相当厳しいものになると思われ、財政懸念国が果たして飲むことができるのかという問題があります。
欧州当局の傾向として、「全体の方向性では合意できても、細かい話になると不協和音が響く」という構図を繰り返しています。実体経済の減速懸念も燻る中、来月中旬に開かれるEU首脳会議までに、残された課題をどこまで具体的に取り組めるかが今後の焦点になりそうです。
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