坪田ラボ<4890> パートナー企業との共同研究開発拡大と新規研究領域の探索で成長を目指す
眼科領域での研究成果を知財化し、近視進行抑制等の医薬品、医療機器を開発
パートナー企業との共同研究開発拡大と新規研究領域の探索で成長を目指す
業種: 医薬品
アナリスト:鎌田 良彦
◆ 眼科領域の研究を活用し近視進行抑制等の医薬品、医療機器を開発
坪田ラボ(以下、同社)は、近視、ドライアイ、老眼の眼科領域を対象に、新たな医薬品、医療機器の開発を目指す慶應義塾大学発のベンチャー企業である。
17年に同社の坪田一男社長が教授を務めていた慶應義塾大学医学部眼科教室で、バイオレットライト(波長360~400nmの可視光)が近視の予防に効果があることを発見した。更に、バイオレットライトが眼の血流を増大させて近視進行を抑制するメカニズムを解明し、これら一連の発見に基づく治療法を特許等として知財化した。これらの知財が同社の技術基盤となっており、現在注力している、子供の近視の進行を抑制する医薬品、医療機器の開発へとつながっている
◆ 事業モデル
同社の事業セグメントは、研究開発事業の単一セグメントであるが、事業モデルとしては、大学等での研究開発成果を特許等として知財化し、パートナー企業と医薬品や医療機器開発のための共同研究開発契約及び特許の実施許諾契約を締結し、契約一時金、実施許諾料、マイルストーン収入を得るB to Bの事業モデルである。製品事業化(上市)後はパートナー企業が販売を行い、同社はロイヤリティ契約によるロイヤリティ収入を得る。また、パートナー企業からの収益を、既存研究の深化や新しい研究領域に投資することで、新たな価値創造につなげている。
◆ 医薬品、医療機器のパイプライン
同社では現在、医薬品、医療機器として6つ(適応領域としては8つ)のパイプラインを有している(図表1)。
① TLG-001(Tsubota-Lab Glassframe-001)
TLG-001は、メガネフレームに内蔵したLEDからバイオレットライトを1日に3時間照射することにより、子供の近視の予防を行うメガネフレーム型近視予防デバイスである。屋外で遊び、太陽光に含まれるバイオレットライトを浴びていた昔の子供に比べ、バイオレットライトが遮断される屋内での遊びが増えた今の子供たちの近視が増えたとの検証から、昔の屋外活動時と同時間のバイオレットライトを照射して近視の進行を抑えるデバイスである。
国内はパートナー企業であるジンズホールディングス(3046東証プライム)が、医療機器製造販売承認を取得して販売する計画で、現状は治験段階にある。19年から40症例で6カ月間の探索治験を行い、安全性が確認された。23/3期からは160症例で、2年をかけて安全性を確認するための検証治験を行う計画である。25年の製造販売承認申請、26年の製造販売承認取得、販売を目指している。
アジア向けでは、参天製薬(4536東証プライム)をパートナー企業とし、アジアの9つの国と地域(中国、シンガポール、マレーシア、ベトナム、香港、マカオ、タイ、フィリピン、韓国)を対象に基本合意契約を結んでいる。
② TLM-003(Tsubota-Lab Medicine-003)
TLM-003は、1日1~2回の点眼により近視の進行を予防する近視進行予防点眼薬である。国内とアジア3カ国を対象にロート製薬(4527東証プライム)をパートナー企業とし長期の開発契約を締結し、今後、治験を行い近視予防点眼薬として上市することを計画している。米欧については、仏Thea Open Innovation S.A.Sをパートナー企業としている。
③ TLM-007(Tsubota-Lab Medicine-007)
TLM-007は、血流増大の効果がある緑内障の点眼薬を適用拡大して、近視の進行を予防する点眼薬として開発するものである。現在は基礎研究段階だが、TLM-003とは別のメカニズムによる近視抑制点眼薬として開発を行う計画である。
④ TLG-003(Tsubota-Lab Glassframe-003)
TLG-003は、バイオレットライトが眼の角膜の中に存在するリボフラビンと反応することで、角膜を硬くし、円錐角膜注1の進行を予防するデバイスである。同製品を使用した円錐角膜の新たな治療法を同社では「ケラバイオ」と定義している。ケラバイオは、手術ではないため在宅での治療が可能になり、手術による合併症を回避することができる。リボフラビン点眼薬との併用による臨床研究を完了し、安全性と有効性を確認している。本研究中にヒトの角膜中にはリボフラビンが存在することを発見した。現在、リボフラビン点眼薬を使用せずに、円錐角膜の予防ができることを証明するために、医師の主導による特定臨床研究を行っている。
⑤ TLM-001(Tsubota-Lab Medicine-001)
TLM-001は、ドライアイ治療のための、ビタミンD関連物質を主体とした眼軟膏である。ドライアイは、涙液層の安定性が低下する疾患で、涙液の減少、ムチン層の減少・異常、油層の異常による蒸発量の亢進がその原因となっている。TLM-001は、油層を構成する油成分を分泌するまぶたの縁にあるマイボーム腺の機能を回復させる眼軟膏である。マルホ(大阪市北区)と全世界の導出に関する契約を結んでいる。開発の進展に伴いマイルストーン収入を得るとともに、上市されればロイヤリティ収入を得る契約となっている。
⑥ TLG-005(Tsubota-Lab Glassframe-005)
TLG-005は、バイオレットライトが眼の血流を上げるだけではなく、脳の血流も上げるとの研究結果を基に、成人のうつ病、認知症、脳疾患を適応対象とする医療デバイスの開発を進めている。住友ファーマ(4506東証プライム)をパートナー企業として医師の主導による特定臨床研究を行っている。
◆ 販売中のコモディティ商品群
同社では、医薬品、医療機器以外に、パートナー企業が既に販売を行っているコモディティ商品群がある。これらの商品では同社は売上高に伴うロイヤリティ収入を得ている。
① JINS VIOLET+
バイオレットライトを透過するメガネレンズで、ジンズホールディングスが販売を行っている。
② ロートクリアビジョンジュニア等
近視抑制効果のあるクロセチンを成分とした子供向けサプリメントで、ロート製薬が販売を行っている。
③ JINS PROTECT MOIST
目の周りの保湿を行い、ドライアイを防ぐメガネフレームで、ジンズホールディングスが販売を行っている。
④ オプティエイドDE
ドライアイ症状を緩和するサプリメントで、わかもと製薬(4512東証スタンダード)が販売を行っている。