メディカルネット(3645) 今後の成長に向けた取り組みに期待
平川 大 会長CEO |
株式会社メディカルネット(3645) |
企業情報
市場 | 東証グロース市場 |
業種 | 情報・通信 |
会長CEO | 平川 大 |
社長COO | 平川 裕司 |
所在地 | 東京都渋谷区幡ヶ谷1-34-14 宝ビル |
決算月 | 5月末日 |
HP | https://www.medical-net.com |
財務情報
売上高 |
営業利益 |
経常利益 |
当期純利益 |
総資産 |
純資産 |
ROA |
ROE |
5,252百万円 |
298百万円 |
322百万円 |
5百万円 |
3,989百万円 |
1,931百万円 |
8.7% |
0.3% |
*2024年5月期連結実績。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。ROAは総資産経常利益率。
目次
1.会社概要
2.トップインタビュー
3.課題・マテリアリティと取り組み
4.中期経営戦略と経営目標
5.財務・非財務データ
<参考>
(1)ESG Bridge Reportについて
(2)「柳モデル」 について
1.会社概要
「インターネットを活用し 健康と生活の質を向上させることにより 笑顔を増やします。」を企業理念とし、歯科医院の経営をトータルで支援する「歯科医療プラットフォームビジネス」、歯科のみでなく医療、美容、ライフスタイルなど生活者にとって有益な情報を提供する「生活者向けサービス」、歯科関連企業のマーケティング支援などを行う「事業者向けサービス」を展開している。
生活者・医療機関・関連企業を結ぶビジネスモデルを有する唯一の企業。24年5月末で51,052名に上るメディカルネットグループ会員数が大きな資産。
【1-1. 沿革】
2000年 |
4月 |
前身である日本インターネットメディアセンター創業。ポータルサイト運営事業・ホームページ制作事業を開始 |
9月 |
ポータルサイト「インプラントネット」リリース | |
2001年 |
6月 |
「日本メディカルネットコミュニケーションズ株式会社(現 株式会社メディカルネット)設立」 |
2002年 |
2月 |
ポータルサイト「矯正歯科ネット」・「審美歯科ネット」リリース |
2005年 |
4月 |
ポータルサイト「エステ・人気ランキング」リリース |
2006年 |
1月 |
西日本支社開設 |
2006年 |
10月 |
Webマーケティング・医療機関経営支援開始 |
2007年 |
8月 |
東証一部上場ソネット・エムスリー株式会社(現エムスリー株式会社)と業務資本提携 |
2009年 |
3月 |
「モバイル!歯医者さんネット」リリース |
2010年 |
12月 |
東京証券取引所 マザーズへ上場 |
2012年 |
11月 |
ブランネットワークス株式会社を連結子会社化、医療BtoB事業を展開 |
2016年 |
12月 |
「株式会社メディカルネット」に商号変更 |
2017年 |
9月 |
「Success Sound Co., Ltd.(現 Medical Net Thailand Co., Ltd.)」を連結子会社化。タイ国バンコクにおいて、歯科医院運営を開始 |
12月 |
Medical Net Thailand Co., Ltd.「ゆたかデンタルクリニック」をリニューアルオープン | |
2018年 |
2月 |
福岡支社開設 |
6月 |
株式会社ミルテルと資本及び業務提携 | |
12月 |
株式会社オカムラの株式取得し完全子会社化(歯科ディーラー事業を開始) | |
2020年 |
2月 |
連結子会社であったブランネットワークス株式会社を吸収合併 |
9月 |
岡山大学との共同研究により開発した「歯科医院での新しい口臭センサーシステム」について特許を取得 | |
10月 |
Pacific Dental Care Co., Ltd.を連結子会社(孫会社)化 | |
2021年 |
6月 |
ノーエチ薬品株式会社を連結子会社(孫会社)化、大衆医薬品・医薬部外品の企画・卸販売事業を開始 |
2022年 |
3月 |
NU-DENT Co., Ltd.、D.D.DENT Co., Ltd.、Fukumori Dental Clinic Co., Ltd.をそれぞれ連結子会社(孫会社)化 |
4月 |
東京証券取引所の市場区分の見直しに伴い、東京証券取引所マザーズ市場から東京証券取引所のグロース市場に移行 | |
5月 |
連結子会社(孫会社)株式会社オカムラOsaka設立 | |
7月 |
株式会社ライトアップと資本・業務提携 | |
2023年 |
9月 |
「矯正歯科ネットプラス」リリース |
10月 |
「インプラントネットプラス」リリース | |
11月 |
連結子会社の株式会社オカムラが、連結子会社(孫会社)の株式会社オカムラOsakaを吸収合併 | |
2024年 |
1月 |
株式会社ミルテルを連結子会社化し、未病・予防プラットフォーム事業を開始 |
3月 |
AVision Co., Ltd.を連結子会社(孫会社)化し、タイにてクラウドインテグレーション事業を開始 | |
5月 |
「審美歯科ネットプラス」リリース |
歯科医院にターゲットを絞り、インターネット広告を中心としたビジネスを展開しようとした企業は多数あったが、個人事業主が多数を占める歯科医院に対し継続的な営業を展開することが出来ず、ほとんどの企業が撤退していった。
これに対し同社は、歯科医院の中でも自由診療に対象を絞り込んだうえ、ビジネスの成功のみでなく、創業時のビジョンを重視し、歯科医院に対しては「新しい治療の理解と普及」や「地域医療の改善や治療に専念できる環境の提供」を、患者に対しては「より良い治療方法の情報提供」を目指し地道な努力を継続した結果、多くの歯科医師から圧倒的な共感を勝ち取り、生活者・歯科医院・歯科関連企業を結ぶビジネスモデルを有するオンリーワン企業となった。
【1-2.企業理念】
「インターネットを活用し 健康と生活の質を向上させることにより 笑顔を増やします。」を企業理念とし、以下のMISSION、VISION、VALUEからなるミッションステートメントを掲げている。
MISSION
社会的存在意義 |
インターネットを活用し 健康と生活の質を向上させることにより 笑顔を増やします。 |
VISION
目指す姿 |
生活者・事業者に革新的なサービスを提供し続け、歯科医療プラットフォームビジネス・領域特化型プラットフォームビジネスにおいて、国内外でトップ企業となります。 |
VALUE
組織的価値観
|
変化なくして進歩なし あくなき挑戦である
◇情熱:向上心であり、自発性であり、責任であり、マインドである ◇スピード:意識であり、発想であり、判断であり、言動であり、行動である ◇チームワーク:協調であり、協力であり、競争であり、シナジーであり、利他である ◇リスペクト:感謝であり、思慮であり、尊敬であり、真摯さである |
同社では、全社員に理念、VALUEを浸透させることを重視して、様々な取り組みを行っている。
2016年12月の社名変更も理念経営をこれまで以上に徹底して行っていくという経営から社内外へのメッセージである。
中堅層育成のために2か月に1回の集合研修を行い、中途採用時には平川大会長・平川裕司社長自らが同社の価値観を繰り返し語りかけている。
また、各事業ユニットおよび社員各人のVALUE浸透に向けた取り組みや実績を定量的・定性的に評価する仕組みもスタートさせた。
この評価制度を通じて理念やVALUEの更なる浸透を図り、より強固な組織づくりを目指している。
また、近年は子会社への浸透を進め、グループの成長にもつなげている。
【1-3 市場環境】
◎歯科診療市場
厚生労働省の調査によれば、2022年度の歯科診療医療費は約3.2兆円で、前年比2.6%増。新型コロナウイルス感染症拡大により、口腔衛生意識の高まりからインプラントや矯正治療等の自費診療への需要が増大し、ここ近年にはない大幅な伸び率となった。
歯科診療所については、24年5月末で前年同月比微減の66,736施設であった。
インプラントやホワイトニングなどの自費診療の普及や口腔衛生意識の高まりはあるものの、医療費抑制政策が続く中、過当競争状態にあると言われている歯科医院を取り巻く経営環境は引き続き厳しい。
集患増を中心とした有効な施策に対する歯科医院のニーズは極めて大きいと思われる。
【1-4. 事業内容】
<サービス概要>
『インターネットを活用し 健康と生活の質を向上させることにより 笑顔を増やします』という企業理念の下、生活者、歯科医院、歯科関連企業に対しそれぞれ以下のようなサービスを提供している。
(生活者向け)
歯科治療の「理解」と「普及」をテーマに、自分に最適な歯科医院についての情報や、歯の基礎知識、インプラントなどの専門治療の説明など、生活者にとって有益な情報を、各種ポータルサイトを通じて提供している。
また、対象は歯科のみでなく医療、美容、ライフスタイルなど幅広い。
上記に加え、生活者向けに受託臨床検査事業も展開しており、未病・予防にも注力をしている。
(医療機関向け)
競争の激しい歯科医療業界に対し、様々な角度から経営支援サービスを提供している。
集患に結び付くホームページ制作やWebマーケティング、歯科従事者のための求職サイト運営による人材・キャリアサポート、日々の歯科治療で必要となる消耗品や歯科材料および高度管理医療機器導入のトータルサポートに加え、歯科医院の新規開業に伴う、物件、設備・インフラ、ホームページ、集患及び歯科医師個人に対しての資産形成サポートサービス等を提供している。
(関連企業向け)
主に歯科関連企業のサポートを行っている。
ここで重要な役割を担っているのが、同社が運営する、歯科医療従事者登録数が24年5月末時点で52,453名と日本最大級である歯科医療総合情報サイト「Dentwave.com」である。
「Dentwave.com」におけるバナー広告やメールマガジンといった広告掲載に加え、登録者を対象としたネット調査「デントリサーチ」も、マーケティングのための有効なツールとして高い評価を受けている。スピーディーに精度の高い調査が可能であることに加え、職種、専門、年代、エリアなど細かいスクリーニングにも柔軟に対応しており、多くの歯科関連企業が導入している。
ほかにも、学会や企業のWebサイトやランディングページおよびカタログなどの制作、来場者数1万人規模のオンラインデンタルショー等の歯科コンベンションや歯科イベントの企画・集客・運営支援も行っている。
<報告セグメント>
開示上の報告セグメントは、「メディア・プラットフォーム事業」、「医療機関経営支援事業」、「医療BtoB事業」に、24年5月期より「クラウドインテグレーション事業」が加わった。
24/5期 (単位:百万円)
(同社資料よりインベストメントブリッジが作成)
(1) メディア・プラットフォーム事業
「からだ」・「健康」・「美」に特化した情報を提供するサイトの開発・運営を行っている。
様々な切り口で、歯科分野、美容・エステ分野、合わせて、61のサイトを運営している。
(歯科分野)
インプラントネット | 歯科インプラント治療という特定の自由診療に関する情報発信に特化したポータルサイト | ・インプラントネット(全国版)
・インプラントネット(スマートフォン版) ・インプラントネットプラス |
矯正歯科ネット | 矯正歯科治療という特定の自由診療に関する情報発信に特化したポータルサイト | ・矯正歯科ネット(全国版)
・矯正歯科ネット(スマートフォン版) ・矯正歯科ネットプラス |
審美歯科ネット
|
審美治療という特定の自由診療に関する情報発信に特化したポータルサイト | ・審美歯科ネット(全国版)
・審美歯科ネット(スマートフォン版) ・審美歯科ネットプラス |
その他歯科関連 | 「歯医者さんネット」 | 主に虫歯治療、歯周病治療などの保険診療を行う歯科医院を紹介し、幅広い顧客層をターゲットにしたポータルサイト |
「Ask Dentist」 | インターネットユーザーからの歯や口腔に関する質問・相談に歯科医師が回答する歯科Q&Aサイト |
主なポータルサイトは歯科医院検索、歯科医院紹介、歯科医師の紹介に加え、患者に対する情報提供として、治療説明、よくある質問と回答のQ&Aといったコンテンツも掲載している。
(美容・エステ分野)
エステ関連サイト
|
美意識の高い女性をターゲットに、エステに関する情報を提供するポータルサイト「エステ・人気ランキング」をはじめ8サイトを運営している。 |
美容整形関連サイト
|
美意識の高い女性をターゲットに、美容整形に関する情報を提供するポータルサイト「気になる!美容整形・総合ランキング」をはじめ3サイトを運営している。 |
主なコンテンツは、エステサロン検索、エステサロン紹介、総合人気ランキング、キャンペーン人気ランキング、コース人気ランキング、実際にエステサロンで受けた施術の感想等を掲載した体験レポートなど。
*ビジネスモデル
各ポータルサイトは、歯科医院やエステサロン等を顧客として、広告料収入を得て運営している。
インターネットユーザーは、各ポータルサイトにおいて、無料で歯科医院、エステサロン等の情報を検索・閲覧することができる。
広告料収入の具体的内容は、主に①クライアント紹介ページの初期制作料及び月額掲載料、②クライアントのホームページへのリンクを貼ったバナー広告の月額掲載料となっている。
契約形態は原則12カ月の継続契約(自動更新)であるため、収益モデルは積上げ式のストックビジネスとなっている。
(2)医療機関経営支援事業
①Webマーケティング
検索エンジンの検索結果において検索順位を上位表示させることを目的としたSEO(検索エンジン最適化)サービスや、ヤフー株式会社及びGoogle LLCが運営するポータルサイトにおけるリスティング広告(検索連動広告)の運用代行サービスを提供している。
(A)SEO
検索エンジンを活用してHPへの集客やHPから情報配信を行うクライアントに対して、検索エンジンの表示順位判定基準(アルゴリズム)を分析し、ホームページの状態を最適化することにより、HPの検索エンジンからのキーワードに対する評価を高め、検索エンジンの検索結果において検索順位を上位表示させることを目的としたSEOサービスを提供している。
定額料金により複数のキーワードでYahoo! JAPAN又はGoogleの検索結果を上位表示させる月次定額型サービスと、特定のキーワードでYahoo! JAPAN又はGoogleの検索結果の順位に応じた料金が発生する成功報酬型サービスがある。
(B)リスティング広告(検索連動広告)
ヤフー株式会社及びGoogle LLCが運営するポータルサイトにおいてリスティング広告(検索連動広告)の運用代行サービスを行っている。
「リスティング広告」とは、検索エンジンの検索結果ページに設定された広告枠に表示される広告のことで、インターネットユーザーが広告をクリックした場合にのみ広告主に広告料が発生する。
クライアントにとって費用対効果の高い広告運用を実現するため、キーワードや広告原稿の提案から、運用面における入札価格の調整や予算管理までの総合的なサービスを提供している。
②HP制作・メンテナンスサービス
主に歯科医院、エステサロン等をクライアントとしてHP制作・メンテナンスサービスを提供している。
情報過多で情報の正確性が求められる現代において、専門知識がなくとも誰もが手軽に情報を発信できるよう になった背景もある中で、生活者のためになる正確な情報発信をしている。
③歯科医院運営
タイ・バンコクで歯科医院の経営を展開する。連結子会社のMedical Net Thailand Co., Ltd.と連結子会社(孫会社)のPacific Dental Care Co., Ltd.、及びFukumori Dental Clinic Co., Ltd.において歯科医院を運営している。タイでの歯科医院経営を皮切りに、海外諸国において日本の先進歯科医療の普及を図る。
④歯科商社事業
国内では(株)オカムラにおいて、また、タイ・バンコクにおいて、NU-DENT Co., Ltd.、D.D.DENT Co., Ltd.において、歯科商社事業を行っている。
⑤大衆医薬品・医薬部外品の企画・卸販売
ノーエチ薬品(株)において、医薬品企画・販売を行う。
⑥歯科医院総合支援
「歯科医師が、歯科医療に専念できる環境を創る。」というミッションを掲げ、業界随一の歯科医院の開業から経営支援までをワンストップで支援するサービスを提供している。経営支援のサービスメニューの拡充や専門ポータルサイト「medicalnet DOCTOR SUPPORT」を開設。歯科医師個人のライフサポートとしての不動産販売も本格開始。
(3)医療BtoB事業
歯科医療従事者と歯科関連企業等をつなぐBtoB型の歯科医療総合情報サイト「Dentwave.com」の運営を行っている。同サイトの歯科医療従事者登録は24年5月末時点で52,453名と日本最大級。
この会員を基盤として、歯科関連企業等に対する広告ソリューション、リサーチ、コンベンション運営受託等のサービスを提供している。
(4)クラウドインテグレーション事業
タイ国内において、小売業、製造業や病院向けにPOSシステムの開発・導入・メンテナンスサービスを行っている。
(5)その他
管理業務受託事業等において、経理、人事総務等の管理業務を受託。また、株式会社ミルテルにおいて未病・予防プラットフォーム事業を展開。
【1-5 特長と強み】
(1)生活者・医療機関・関連企業を結ぶプラットフォームを構築している唯一の企業
(同社資料より)
同社は、歯科医療を中心に生活者・医療機関・関連企業を結んだプラットフォームを構築しているが、こうしたプラットフォームを構築している企業は他には無く、同社の大きな特徴となっている。
この強固でユニークなプラットフォームを活かし、生活者・医療機関・関連企業、それぞれに向けて様々なサービスを提供しており、これが強力な競合優位性となっている。
創業から20年超をかけて構築してきたポジショニングは強固であり、新規参入は極めて難しいと同社では考えている。
◎対生活者:自社メディアで信頼性の高い公平・中立な情報を提供
歯科医師など専門家と直接やりとりしながら、多くのメディアを構築・運営してきた同社は、歯科医療における豊富な専門知識を有している。
そのため、生活者に対し信頼性が高くかつ分かりやすい情報を提供することが可能であり、そのクオリティの高さは、医師が患者に説明する際に、同社が運営するWebサイトのコンテンツを利用することもあるほどである。
より専門性の高いテーマについては、長年築き上げた信頼関係に基づき、歯科医師に執筆を依頼している。
様々な見解があるテーマについては、複数の歯科医師に意見を述べてもらったり、治療方法のデメリットなどについても言及してもらったりしており、生活者に公平・中立な情報を提供している。
同社の売上高の多くは歯科医院向けサービスによるものではあるが、ビジョンや理念の下、常に「生活者・利用者の視点」を重視したアドバイスを歯科医院に提供しており、これが同社に対する一層の信頼性向上に結び付いている。
◎対医療機関:ワンストップWebサービス×多彩なリアルサービス×コンサルティング
さまざまな自社メディア、および事業者向けWebサイトを構築してきた同社は、Webサイト構築からSEM施策の立案・実施までをワンストップで提供することが可能であり、これに加え、開業時の不動産紹介、開業後の事務長代行サービス、人材紹介、専門機材、オフィスサプライ、助成金申請サポートなど、リアルな領域においても全方位的なサービスを提案している。
さらに、歯科医院の専門領域や課題を理解した上で、経営実態を把握・分析し、インターネットを活用した効果的な送患・集患や、リアルビジネスを組み合わせた人員・設備・事業計画の提案など、歯科医院に対する経営支援コンサルティングを幅広く提供することができる。
◎対関連企業:優良歯科医院へのアプローチやマーケットリサーチが可能
前述のように、同社は、会員数トップクラスの歯科医療従事者向けサイト「Dentwave.com」を運営している。
会員の多くは、経営状態が良好でかつ事業拡大にも前向きであり、医療機器メーカー・卸などメーカー・サプライヤーは、こうした優良顧客に対して広告展開や、製品・サービスの提案をすることが可能である。
(2)ストックビジネスによる安定した収益構造
ポータルサイト運営事業における広告出稿は、原則として12カ月の継続契約(自動更新)であるため、収益モデルは積上げ式のストックビジネスであり、同社の収益基盤に安定性をもたらしている。
同社では新規顧客開拓を進めて事業基盤の更なる強化を図る考えだ。
メディア・プラットフォーム事業の収益モデル
(同社資料より)
(3)圧倒的な会員数
歯科医療従事者会員からなるメディカルネットグループ会員数は24年5月末で51,052名と、上場時の6.5倍にまで拡大している。
この会員は、対歯科医院向けビジネスの顧客であると同時に、対歯科関連企業向けビジネスにおいても重要な資産として同社の事業基盤を支えている。
日本全国には約10万人の歯科医師がいると同社では想定しており、今後は全体の8割にあたる8万人の会員化を目指している。
(同社資料を元にインベストメントブリッジ作成)
(4)歯科医師との強固な信頼関係
医師でもあり経営者でもある歯科医師の下には、歯科関係はもちろんのこと、不動産、自動車を始め、様々な会社が営業をかけに来るが、クリニックでは治療中で時間がなく、受付も取り次がないことがほとんどで、アポイントを取るのは困難である。
これに対し同社は、20年超、多くの歯科医院の経営改善に貢献してきた実績により、会員である歯科医師同社に寄せる信頼は絶大で、常にアポイントを取ることができる。
他社とは比較にならないほど強固な信頼関係、それをベースとした営業コンサルティング力は、絶対的な競争優位性であり、プラットフォームビジネス展開における大きなアドバンテージとなっている。
【1-6. 価値創造のフロー】
(作成:㈱インベストメントブリッジ)
メディカルネットグループは、MISSION・VISION・VALUEをベースに、優れた人的資本や社会資本を活用し、5つの事業ドメインで競争優位性を発揮し、社会的課題の解決や企業価値の向上を目指している。
2.トップインタビュー
株式会社メディカルネット 代表取締役社長COO平川 裕司氏に、同社の社会的存在意義、競争優位性、人的資本強化や環境課題への取り組み、ステークホルダーへのメッセージなどを伺った。
代表取締役社長COO平川 裕司氏 |
●社会的存在意義や経営理念について
Q.近年、社会全体が持続可能な成長を目指す中で、その重要なプレーヤーの一員である企業の理念、ビジョン、ミッション、社会的存在意義が重視されています。
先ず御社の社会的存在意義や経営理念などについてお聞かせください。
当社では、MISSION 社会的存在意義を「インターネットを活用し 健康と生活の質を向上させることにより 笑顔を増やします。」としています。
口腔は全身の健康にとって極めて重要な役割を果たしています。
美味しく食事をするには、やはり入れ歯ではなく、できる限り自分の歯で食事したいものです。また、認知症予防においても健康な歯が極めて重要であることがわかっています。
ただ残念ながら日本人は、口腔や歯に対する関心やリテラシーが低いのが現状です。
ですので、当社では、みなさんに口腔の健康が全身の健康に繋がるという意識を持ってもらいたい、そして、一人でも多くの方々の健康と笑顔を実現したいと思っています。
このMISSIONを実現するために、VISIONで示すように、「生活者・事業者に革新的なサービスを提供し続け、歯科医療プラットフォームビジネス・領域特化型プラットフォームビジネスにおいて、国内外でトップ企業」を目指しています。
またVALUE に掲げている5つの価値観を大事にしています。
中でもコア・バリューと位置付けているのが、一番初めに掲げている「変化なくして進歩なし あくなき挑戦である」です。
常にトライを続け、新しいものを創り上げていく、新たな価値を産み出していくことを追求しています。
当社が創業した2001年頃、ドクターがインターネットで患者さんを集めるという発想はありませんでした。当時インターネットは普及し始めてはいましたが、良いイメージを持つ先生方は極めて少数でした。そのような中でも当社は歯科医院経営におけるインターネットの有用性に確信を持ち、集患手段としての利用を繰り返し繰り返しご提案していきました。
今でも覚えていますが、2005年になり、それまでインターネットに否定的だったある先生に「君たちは医療従事者ではないから、あの発想ができたんだ。君たちのおかげで安定的な歯科医院経営ができるようになった。ありがとう。」とお褒めの言葉をいただいたのです。
社会が急激なスピードで変化している中、自分達が立ち止まっていたらそれは現状維持ではなく、衰退です。
「変化なくして進歩なし」、常に新しいものを創り上げ、そこに喜びを感じることを全社員が目指しています。
●強み・競争優位性について
Q. 御社の強みや競争優位性についてお聞かせください。
最大の競争優位性は「歯科医師との強固な信頼関係」です。
歯科医師は医師であると同時に経営者であり、特に自由診療をメインとしている方は、比較的高収入で一定の資産もお持ちです。ですので、歯科関連会社はもちろんのこと、不動産、自動車を始め、様々な会社が営業をかけに来るのですが、クリニックでは治療中で時間がありませんし、受付も取り次がないことがほとんどで、アポイントを取るのは至難の業です。
これに対し当社は、20年超、多くの歯科医院の経営改善に貢献してきた実績により、会員である歯科医師が、いわば当社のファンとなっていただいていますので、アポイントを取ることができます。あるメガバンク系の信販会社が、親会社であるメガバンクのコネクションを使ってもアポイントが取れず、当社に依頼してきたというケースもありました。
歯科医師向けのインターネットマーケティングを手掛けている競合企業も数社ありましたが、1社はすでに撤退してしまいましたし、現在の競合も、サービス内容がリスティング広告の支援などのみであるため、歯科医師の満足度が低く、契約しても継続性が低いようです。
これに対し当社の場合は、商材を販売して終わりではなく、定期的に訪問して経営課題に対してアドバイスを提供したり、ご相談に乗ったりなど、先生に寄り添って経営を安定させることを目指しています。
いつでもアポイントを取ることができ、経営に役立つご提案が可能なため、様々なビジネスチャンスを創出することができます。
これらの取組を継続した一つの結果として、24年5月期は第2四半期にインプラント及び矯正歯科に関する新しいメディアを立ち上げたのですが、想定を上回る立ち上がりとなりました。
このように、他社とは比較にならないほど強固な信頼関係、それをベースとした営業コンサルティング力は、当社の絶対的な競争優位性です。
●主要マテリアリティにおける
取り組み
御社の持続的成長にとって特に重要なマテリアリティにおける取り組みや対応すべき課題について社長のお考えを伺いたいと思います。
Q.まず初めに、持続的成長実現のために最も重要といわれている人的資本強化の取り組みをお聞かせください。
営業スタッフについていえば、当社の事業領域では「営業能力」「歯科医療知識」「インターネットの知識」の3つが必要不可欠です。
ただ、始めから3つを兼ね備えている人材はいませんので、中途採用の際は、3つのうちから1.5から2つあるかといった見極めを、新卒の場合はゼロでもポテンシャルがあるかどうかを見ていきます。 |
|
入社後は、多数のビデオコンテンツによる研修、セミナー受講、営業のロールプレイング、先輩社員との同行などで上記3点についての底上げを図っていきます。
歯科医師との信頼を構築するには、基礎をしっかり固めてもらうことが絶対に必要ですので、おおよそ2~3カ月の研修を経て、あるレベルまで到達したら初めて営業に出てもらいます。
基本的な教育のノウハウや仕組みはこれまでの蓄積により、既に社内で構築できている点も、当社の大きな強みであると考えています。
営業スタッフに必要不可欠である「歯科医療の知識」において、中心になるのは、歯科医院の経営についてです。
歯科衛生士を1名採用する場合の採用コスト及び人件費がどの程度か、自由診療の売上比率に応じた適正な広告宣伝費率はどのくらいか、CT1台導入する場合必要なキャッシュフローなど、歯科医師に寄り添って経営を安定させるために必要な知識を身に付けてもらいます。
ここを徹底することで、歯科医師との強固な信頼関係を構築しております。
Q:社員に求めるもの、評価の軸についてお話しください。
基本的には、初めに申し上げたVALUE に掲げている5つの価値観のみを見ています。あれもこれもと求めすぎると社員は混乱するし、私も判断を間違えかねません。
5つの価値観をいかに具象化し、行動し、習慣化しているか、それを全社員に求めています。
5つのVALUEに共感し、これを実現できる社員は、当社で活躍できるし、豊かな人生を送ることができると私は考えています。
常に新しいことに挑戦して新たな価値を産み出すために、チームワークを大事にみんなで取り組み、感謝される、感謝する、当社全社員にその素地があると思っていますので、彼らの人生を豊かなものにすることが私の役割であると考えています。
評価については、5つの価値観についてどれだけ実現できたのかを点数化した定性評価と営業などの達成数値を基にした定量評価を組み合わせ、3カ月に1回の上司と本人の面談を経て、基本給や賞与へ反映させています。
Q:社員にはどのようにして社長の考えを伝えているのでしょう。
私はよほどのことがない限りは、外部の方からのお食事のお誘いをお受けしていません。
それよりも昼、夜含めた社員との食事会を頻繁に開催しています。
社長としていろいろな考え方があるとは思いますが、私は、社員と社員の家族が幸せであることが最も重要と考えています。
そこから何をすべきなのかを落とし込み、どうやって利益を出さなければならないのか、どんな事業を立ち上げていかなければならないのか、どんな組織を構築していかなければならないのかを考えます。全ては社員と社員の家族が幸せになるための取組み、行動なのです。
自分達の最も身近な人を幸せにしてあげることが、ESG経営の目指す持続可能な社会実現のための第一歩でもありますので、全社員とのコミュニケーションを最優先しています。
社員との食事の場では、仕事のこと、今後のキャリアアップのことなどはもちろん、プライベートなことも相談に乗ります。5つの価値観については、一つ一つ取り上げるというよりは、様々な話をする中で、その重要性を織り込んでいくスタイルで、何度も何度も繰り返し伝えていきます。
また、社内でのミーティングにおいても、「今週は5つのバリューに関連してこんな社員の行動があった」「彼の仕事の様子を見て、リスペクトを感じた」といったことを私が伝えたり、社員にも発言してもらったりして、多面的にMISSION、VISION、VALUEの浸透を図っています。
Q:人的資本強化が顕著に現れている例はありますか。
2023年の5月に、2021年入社の新卒社員が2年目で営業チームの班長、リーダーになりました。
また、コンプライアンスに所属し内部統制を担当している2022年新卒入社の女性社員はすでに役職を持ち、通常の広告よりも複雑な医療分野の広告規制を熟知し、メディカルネットグループとしてのより適切な対応を提言するなど、非常にハイレベルな当事者意識を持って仕事に臨んでくれています。
そうした例は他にもたくさんあり、私も勉強させてもらっています。
現在全社員に占める新卒社員の比率は15%程度ですが、企業文化の継承という観点からも、中期的には50%くらいまでには引き上げたいと考えています。
Q.環境課題、に対してはいかがお考えですか。
当社自身のGHG排出量削減に関しては、現状では、社用車をクリーンディーゼルに変更したことに加え、営業活動はなるべく電車を使用、リサイクル紙の使用、DX化によるペーパーレスの推進といった取組みをしており、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、排出量の大小にかかわらずネットゼロへの取組みは企業としての責務であると強く認識しています。
ですので、今後はグリーン電力証書の利用なども含め、さらなる環境課題への対応を検討していきます。
また、お客様である歯科医院のGHG排出削減をお手伝いすることも大きな貢献になると考え、その方策を検討していきたいとも考えています。
Q:社会資本課題についてのお考えやとりくみをお話しください。
当社は社会資本課題に対して積極的な取組を行っています。
直近では「すべての子供がありのままでいられる場の創造」を理念として掲げる、一般社団法人茨城サドベリースクールの開校をスポンサードいたしました。このサドベリースクールは、令和6年4月に開校し、当面は不登校で悩む児童生徒を対象とした教育相談事業と、学びの場を保障するためのフリースクール事業を中心に取り組んでおります。
このような事業は社会に対し非常に意味のあることであると同時に、「笑顔を増やす」ことにつながると考え、スポンサードさせていただきました。
他にも、「世界平和実現のために、国際社会で活躍する人材を育てる」を掲げる、一般社団法人ピースピースプロジェクトの「子供世界平和サミット」への協賛に加え、当社CEOの平川大が、起業家の可能性を最大限に引き出し、世界を前進させることを目的とする、EO JAPANにも参画しております。
また、当社の国外拠点であるタイにおいて行われている、デフキッズドリームプロジェクトを支援しております。こちらは左手に障がいを持ちながらプロサッカー選手になられた相原ユタカ様が推進されているプロジェクトで、聴覚障がい者中心のフットサルチームを立ち上げてタイのプロリーグに挑戦するというものです。ソーシャルインクルージョンに関わる素晴らしい活動であり、当社は心から応援しております。
これからも継続して上記の様な取り組みを行い、社会の前進に寄与していこうと考えています。
Q:コーポレート・ガバナンスについてのお考え、取り組みはいかがでしょうか。
以前は、取締役5名、監査役3名のうち社外取締役1名、社外監査役3名で全員が男性でしたが、現在は、取締役6名中1名が女性役員、監査役4名中1名が女性役員であることに加え、取締役6名中2名が社外取締役かつ独立役員で、監査役4名中4名が社外監査役であるため、社外役員がマジョリティとなっております。
また今年3月にタイの企業をM&Aした結果、現在グループ会社が11社でうちタイの企業が6社となっており、グループとしてのガバナンスの重要性が一段と増しています。
国籍、人種が異なっていても同じ理念、同じ価値観を共有、浸透させるための全体会議や経営会議を開催しています。
理念や価値観の共有、浸透には7つのステップを用意しています。
まず「言語化」、次に「認識」。社員証の裏にはMISSION、VISION、VALUEが印刷してあります。さらにそれを「理解」し、違う意見の人も当然いるのでディスカッションによって「共感」してもらう。
ここまでの内面的な4ステップの次は、スピードとは何か、情熱とは何かを「具象化」し、「実践」、「習慣化」するという外形的な3ステップを踏む合計7ステップを、グループ各社でも、全体会議でも徹底し、落とし込んでいきます。
これが浸透していくと、最終的には上からの指示やルールが不要になります。
同じ価値観を共有しているので、各自が指示を受けなくても、自分の強みや取り組み方を活かせば、やり方は異なっても、結局、ゴールは一緒になります。
これこそが究極のガバナンスだと考えています。
●今後の成長戦略
Q.今後の成長に向けた取り組みをお話しください。
プラットフォーム戦略とM&Aが成長のキーワードです。
歯科医院は全国に約67,000施設あり、納入する商材を中心に扱う歯科ディーラーの市場規模は約4,000億円と推計しています。
携わるディーラーは中小企業中心に約700社なのですが、現在でもほとんどの取引において、ディーラーがクリニックに通って口頭でオーダーを取り、配達もディーラー自身が行うという、アナログかつ非効率なビジネス形態となっています。
こうした非効率な仕組みを効率化するところにビジネスチャンスがあると考えています。
ディーラーをまとめることができれば、歯科医院との強固な信頼関係という当社ならではの競争優位性を活かし、プラットフォーム上で、様々な商材やサービスを流通させることができますので、ディーラーを核としたプラットフォームを構築していきます。
そのための手段として、M&Aが重要な戦略となります。
ディーラーは殆どが中小企業で利益率が低く、後継者問題を抱えているところも多いため、M&Aの余地は大きく、スピードアップして取り組んでいく考えです。
M&Aは私が中心になって行ってきましたが、より多くの案件をスピーディーに手掛けていくには、M&A部隊を組織する必要があります。ポテンシャルのある人材は育ってきているので、早急に手を打ちたいと考えています。
●ステークホルダーへのメッセージ
Q.ありがとうございました。それでは最後にステークホルダーへのメッセージをお願いいたします。
より良い世界を創っていくには、人は健康であることが絶対的な大前提であるのは間違いありません。
そうした意味で、「口腔まわりから全身の健康を導いて、人々に健康で豊かな人生を送っていただきたい、そうした社会を創っていきたい」と考える当社は、事業そのものが、健康で笑顔溢れる明るい社会づくりに繋がっています。
また、一般の医師は、自分で開業する道を選択する以外にも、大きな病院でドクター人生を全うし、一定の収入を得られるのに対し、当社のお客様である歯科医師は、ほぼ皆さん開業し経営にも向き合っていかねばならない。しかし、経営が上手くいかなければ、医療人として治療を通じて社会に貢献するという想いも実現することが難しくなってしまいます。
そんなジレンマを解決し、治療を通じて社会や地域医療に貢献するという意思を実現するためのサポートを提供することも、当社の重要な責務であると考えています。
これからもステークホルダーの皆さまへの感謝の気持ちを忘れず、社員一人ひとりが自ら考え積極的に行動することで、革新と挑戦を続けてまいりますので、 今後とも温かいご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
3.課題・マテリアリティと取り組み
同社が現状認識している課題・マテリアリティは以下のとおりである。
マテリアリティの選定に際しては、社外へのヒアリングも行っている。
課題 |
マテリアリティ |
環境 | GHG排出削減 |
エネルギー管理 | |
社会資本 | 顧客のプライバシー保護 |
製品の品質・安全性の担保 | |
人的資本 | 従業員の働き甲斐醸成・働きやすさ |
従業員の健康と安全 | |
従業員の多様性・参画 | |
ビジネスモデル&イノベーション | 競争力強化に向けた取り組み |
サプライチェーンマネジメント | |
リスク管理・ガバナンス | コーポレート・ガバナンス体制の拡充 |
リスク管理体制 |
*SASB Materiality Mapなどを参考に作成。
【3‐1 「環境」課題における
マテリアリティ】
「環境」課題に対して、以下のようなマテリアリティを定めて取り組みを行っている。
持続可能な社会の構築に向け、気候変動問題に関する企業の責務について認識はしているが、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に代表される情報開示を行う体制の整備・構築は今後の課題である。
マテリアリティ(1)GHG排出削減
◎電力使用量とCO2排出量
20/5期 |
21/5期 |
22/5期 |
23/5期 |
24/5期 |
|
電気使用量(kWh) |
76,241 |
70,715 |
67,360 |
66,622 |
64,431 |
CO2排出量(t-CO2) |
35.7 |
32.3 |
30.1 |
30.4 |
29.4 |
原単位CO2排出量 (t-CO2/売上高億円) |
1.39 |
1.11 |
0.80 |
0.68 |
0.56 |
*電力使用量は本社オフィス分。
営業活動に与する移動の際には電車活用を主としている。
また、長距離移動の際に活用するクリーンディーゼルの自動車を一台所有している。
マテリアリティ(2)エネルギー管理
主な電力使用用途はオフィス内業務に係るもの。
社内掲示等により、節水節電の呼びかけを実施し、空調は適切な温度での稼働を推進し定期的にフィルターの清掃を行っている。
また、システム導入によりペーパーレス化を推進している。
【3‐2 「社会資本」課題における
マテリアリティ】
「社会資本」課題に対して、以下のようなマテリアリティを定めて取り組みを行っている。
マテリアリティ(1)顧客のプライバシー保護
個人情報保護法令をはじめとする各種法令ならびに「個人情報保護規定」及び「特定個人情報等取扱規定」に従い、顧客情報を厳重に管理している。
マテリアリティ(2)製品の品質・安全性の担保
歯科医療に関する記事については、ライターの選考基準として、それぞれの専門分野の監修を受けているほか、同社において歯科衛生士、歯科技工士を直接雇用し、専門家によるチェックを行っている。
歯科医療以外に関する記事についても、ライターの選考基準として、それぞれの専門分野における保有資格やスキルを審査したうえで執筆を依頼し、納品された記事について公開前の社内チェックを徹底している。
【3‐3 「人的資本」課題における
マテリアリティ】
「人的資本」課題に対して、以下のようなマテリアリティを定めて取り組みを行っている。
マテリアリティ(1)従業員の働き甲斐醸成・働きやすさ
従業員一人ひとりが個々の能力を最大限に発揮し多様な人材が活躍できる職場環境の整備を進めている。
◎働き甲斐醸成
全従業員が同社グループで働くことに誇りと価値を感じ自身の成長を果たし、自分らしい人生を歩むことができ、また従業員の成長が会社へ還元される組織を目指しており、現在下記の取り組みを実施している。
〇四半期に一度、同社グループの全従業員を対象に全体会議を行い、同社の掲げるMISSION・VISION・VALUEの浸透を推進するとともに、COOから経営方針や業績概要を伝え、全社的な価値観の共有をしている。
〇同社の掲げる「VALUE」を最も体現した従業員に社内表彰を行っており、表彰者は全社アンケートによって選出される。これにより従業員の「VALUE」への理解と当事者意識を促進している。
◎働きやすさ
従業員が働きやすい職場環境を作るため、下記取り組みを実施している。
・結婚祝い金、出産祝い金等の一時金制度
・夏季休暇制度(従来の有給休暇とは別に、7月から10月の間で3日付与)
・住宅手当補助制度
・勤務時間の選択制度(時差出勤制度)
・6時間勤務デー(月に1日、6時間の勤務を8時間勤務とみなす。希望日に取得可能。)
・許可制副業制度
また、疲労回復やアンチエイジング、視力回復や肩こりの緩和等、様々な視点から従業員の健康や働きやすさを醸成するため、社内設備として「酸素ルーム」を設置している。
加えて仕事と育児等の両立支援については、出産前後や育児における休暇・休業・職場復帰制度、時短勤務制度、育児のための特別在宅勤務制度を設けるなど、働きやすい職場環境の整備に積極的に取り組んでいる。
マテリアリティ(2)従業員の健康と安全
社内に設置している「衛生委員会」において、従業員の健康に関する施策、作業環境等について意見聴取を行い、労働衛生に関する課題がないか観察するとともに、ストレスチェックの実施や時間外労働、休暇取得状況のモニタリング等により、従業員が健康で安心して働けるよう職場環境の改善に取り組んでいる。
加えて、従業員満足度(ES)向上のためのチームを作り、従業員向けに調査アンケートを実施し、その回答から会社をよりよくするための施策を立案、実施している。
働き方改革においては、就業時間管理の徹底、長時間労働の削減、在宅勤務制度のさらなる拡充を推進している。
マテリアリティ(3)従業員の多様性・参画
従業員の採用においては、同社グループの「MISSION・VISION・VALUE」に共感した仲間を採用し、事業を通じて同社グループのミッションを実現することにより自己の成長と社会貢献ができる人材の確保に努めている。
また、職種を問わず外国籍人材のほかジェンダー平等に配慮した人材の採用を推進している。加えて、国内外で女性の採用を積極的に行ったことにより女性従業員の比率が高まり、女性管理職の人数が増加している。
また、ダイバーシティ推進の一環として、一般社団法人Famieeによる「パートナーシップ証明書」を活用している。Famieeは、現在の法律上では夫婦・親子と認められない世界中の夫婦・親子が、家族としての当たり前の権利やサービスを受けられない、という課題を解決するために、ブロックチェーン技術を使って家族関係証明書を発行することで、彼ら彼女らが家族であることを社会的に認め、また、その証明書を受け入れる企業・団体を増やし、家族向けのサービスを受けられるようにする活動をしており、同社は「パートナーシップ証明書」の導入により、多様な価値観を持った社員が働きやすい職場環境の構築に取り組んでいる。
【3‐4 「ビジネスモデル&
イノベーション」課題における
マテリアリティ】
「ビジネスモデル&イノベーション」課題に対して、以下のようなマテリアリティを定めて取り組みを行っている。
マテリアリティ(1)競争力強化に向けた取り組み
<人的資本の強化および企業価値向上>
会社概要 【1-5. 特長と強み】」および「2.トップインタビュー」で紹介したように、同社は以下のような特長・強
み・競争優位性を有している。
〇歯科医師との強固な信頼関係
〇生活者・歯科医院・歯科関連企業を結ぶプラットフォームを保有
〇自社メディアで信頼性の高い公平・中立な情報を提供
〇ワンストップWebサービス×多彩なリアルサービス×コンサルティング
〇優良歯科医院へのアプローチやマーケットリサーチが可能
また、人的資本の強化が最重要事項であると認識し、以下のように採用・教育に取り組んでいる。
◎採用
新卒採用・中途採用に加えリファラル採用制度を導入しており、採用コストを抑えつつ、企業理念にあった人材採用に成功している。
最終面接時には必ずCEOもしくはCOOが出席し、自社の理念に合う人材であるか否かの見極めを行っている。
◎教育
社内でMISSION・VISION・VALUEを浸透させるべく、社内研修を行っていることに加え、マネジメント層へは、マネジメントの共通言語を社内で持てるように社外研修を行い、中間層の育成を実施している。
上記に加え、従業員のモチベーションアップのため、適宜給与制度の見直しを図りベースアップを実施している。
また、M&Aを活用した人的リソースの確保や強化も行っており、積極的なM&A戦略を展開する中でグループ入りした各会社においてPMIをすすめ、メディカルネットのパーパス・MISSION・VISION・VALUEについて、言語化→認識→理解→共感→具象化→実践→習慣化を実現させることに加え、メディカルネット本社の管理会計方式を導入。
上記取組により、子会社の利益率向上を図るとともにメディカルネットグループ内でのシナジー創出を促進している。
その他取組は「4.中期経営戦略と経営目標」を参照。
マテリアリティ(2)サプライチェーンマネジメント
サプライチェーンにおいて、重要なステークホルダーである歯科医院や協力企業に関して、各種規定規程の遵守や反社会的勢力の排除のため社内コンプライアンスチームにて厳格な調査を行っている。
また、歯科医療に関する記事については、ライターの選考基準として、それぞれの専門分野の監修を受けているほか、同社において歯科衛生士、技工士を直接雇用し、専門家によるチェックを行っている。(※3-2参照)
【3‐5 「リスク管理・ガバナンス」
課題におけるマテリアリティ】
「リスク管理・ガバナンス」課題において、以下のようなマテリアリティを定めて取り組みを行っている。
マテリアリティ(1)コーポレート・ガバナンス体制の拡充
(コーポレート・ガバナンス報告書から抜粋:2024年8月30日更新)
<基本的な考え方>
株主の利益の最大化を図りつつ、株主・クライアント・エンドユーザー・従業員・地域の方々等すべてのステークホルダーに対して、経営の健全性・効率性・透明性を通じて企業社会の一員としての社会的責任を果たしていくことをコーポレート・ガバナンスの基本方針としている。
その実現のために、現状に満足することなく経営環境の変化に応じてコーポレート・ガバナンス体制を強化し、企業価値の最大化を図っていく。
<組織形態>
監査役設置会社。取締役6名中、社外取締役は2名で、両名とも独立役員である。
監査役は4名で全員が社外監査役。4名とも独立役員に指定されている。
<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
コーポレートガバナンス・コードの基本原則を全て実施している。
<企業統治の体制の概要>
取締役会は、議長である代表取締役会長CEO平川大のほか、平川裕司、早川竜介、石井貴久の同社の業務に精通した常勤取締役4名及び専門分野に相当の知見を有する加藤浩晃、菅原草子の社外取締役2名によって構成されており、原則毎月1回定期的に開催している。また、必要に応じて臨時取締役会を開催している。
取締役会は、経営戦略の決定、重要事項の付議のほか、業績の進捗状況、業務の執行状況等について討議し、決定するとともに、各取締役の業務執行状況の監督を行う機関として位置づけ運営している。
取締役会には、監査役が毎回出席し、取締役の業務執行の状況の監査を行っている。
監査役会は、常勤社外監査役の蓑輪圭一及び社外監査役である中村泰正、髙敏晴、桑田悠子の4名によって構成されている。各監査役は、取締役会や子会社を含むその他重要な会議に出席し、取締役の職務執行の状況の監査を行っている。
マテリアリティ(2)リスク管理
◎内部統制システム
(a)企業価値の向上と、社会の一員として信頼される企業グループとなるため、法令・定款及び社会規範等の遵守を経営の根幹に置き、その行動指針としてMNグループ経営方針を定め、取締役及び従業員はこれに従って、職務の執行にあたるものとする。
(b)管理本部部門長を委員長とするコンプライアンス委員会を設置し、コンプライアンス上の重要な問題の審議とともに、コンプライアンス体制の維持・向上を図り、啓発・教育を行う。
(c)管理本部部門長及び外部の顧問弁護士事務所を通報窓口とする内部通報制度の利用を促進し、法令等の違反又はそのおそれのある事実の早期発見に努めるとともに公益通報者に対する保護も図る。
(d)社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力とは、毅然とした態度で一切の関係を遮断することを定め、不当要求等を断固拒絶するため、警察・暴力団追放運動推進センター・弁護士等の外部専門機関と連携し、組織的かつ適正に活動するものとする。「反社会的勢力排除宣言」を掲げている。
会社全体で、コンプライアンス精神を養い浸透させるために、会社、役員及び従業員一同が、顧客、株主等を含む社会全体に対し、本基本方針を行動の基本とすることを確認し遵守のうえ、コンプライアンス体制の確立と企業倫理の実践に努めることを目的とした「コンプライアンス方針」を掲げている。
https://www.medical-net.com/ir/policy/compliance/
◎リスク管理
「リスク管理規程」により経営活動上のリスク管理に関する基本方針を定め、これに基づくリスク管理体制を整備、構築することによって適切なリスク対応を図る。
リスクに関する総括責任者を管理本部部門長とし、管理本部においてリスク情報を集約し、リスクを総括的に管理する。また、特定のリスクが発生した場合、又はその発生が予想される場合は、必要に応じてリスク対策室を設置し、当該リスクに対して迅速に対応する。
また、年に一回以上社内コンプライアンスチームによる全社向けコンプライアンス研修を実施している。重要トピックについて担当者が解説することに加え、研修内で質問を広く受けつけ、従業員のリスク管理意識を高めている。
4.中期経営戦略と経営目標
今後の更なる成長を目指す同社では「未病・予防」が重要なキーワードであると考えている。
同社がオンリーワン企業としてポジショニングを構築している歯科業界において大きな環境変化が起きている。
日本では歯科治療というとこれまでは虫歯治療が中心であった。
一方欧米では虫歯治療だけではなく、歯周病が動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、アルツハイマーなど様々な疾病の原因の一つであり、歯の健康を保つことがこれらの疾病予防につながるという考え方が中心となっている。
上記を踏まえ、全身の健康・長寿につながる「未病・予防」という考え方が今後日本でも重視されるといわれている。
また、今後は既存事業、新規事業、海外事業を成長の柱として事業拡大を図っている。
既存事業においては、従来のサービスの拡充・深化に加え、ターゲットを自費のみならず保険診療歯科医院にまで広げることを計画しており、新型コロナウイルスや、令和5年6月16日に「国民皆歯科健診」について明記された「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」が閣議決定されたことにより口腔衛生への意識が高まることが予想される状況が追い風になるだろう。
新規事業においては、歯科関連機材等に係る、歯科医院と各種関連企業等を結ぶ流通経路をDX化するための「歯科医療向け受発注プラットフォーム」の構築や、2024年1月に子会社化したミルテルを中核とする、乳がん患者の唾液中で変化する「ポリアミン類などの唾液代謝物」を解析し、乳がんの早期発見をサポートする「スキャンテスト乳がん」及び世界オンリーワンの技術を用いた「テロメアテスト」等の事業を推進し、口腔まわりからの未病・予防に対して新たなアプローチを始めている。
海外事業においては、タイにおける日本の先進歯科医療の普及及び歯科医療バリューチェーンの構築を推進。2024年3月に、タイのAVisionを子会社化し、タイ国内において小売業、製造業や病院向けにPOSシステムの開発、導入、メンテナンス事業を展開。同社の持つ事業モデルやノウハウをタイの歯科業界にも波及させ、タイの歯科医療業界IT化を牽引する存在にすることを見込んでいる。
今後の成長戦略・成長ドライバー
|
(同社資料より)
5.財務:非財務データ
(1)財務データ(連結)
◎PL/BS
20/5期 |
21/5期 |
22/5期 |
23/5期 |
24/5期 |
|
売上高 |
2,570 |
2,904 |
3,745 |
4,500 |
5,252 |
経常利益 |
103 |
336 |
449 |
431 |
322 |
当期純利益 |
79 |
129 |
380 |
116 |
5 |
EPS(円) |
9.26 |
15.36 |
43.44 |
12.97 |
0.66 |
ROE(%) |
6.0% |
11.6% |
25.8% |
6.4% |
0.3% |
総資産 |
1,736 |
2,107 |
3,149 |
3,467 |
3,989 |
純資産 |
1,006 |
1,260 |
1,732 |
1,929 |
1,931 |
自己資本比率(%) |
57.4% |
59.0% |
54.1% |
55.3% |
47.8% |
*単位:百万円。ROEは自己資本当期純利益率
◎CF
20/5期 |
21/5期 |
22/5期 |
23/5期 |
24/5期 |
|
営業CF |
78 |
391 |
342 |
429 |
119 |
投資CF |
-14 |
-87 |
-355 |
-62 |
-285 |
フリーCF |
63 |
303 |
-12 |
366 |
-141 |
財務CF |
-497 |
-34 |
282 |
-17 |
144 |
現金・現金同等物 |
595 |
868 |
1,128 |
1,513 |
1,507 |
*単位:百万円
(2)非財務データ
①環境関連(単体)
◎環境データ
20/5期 |
21/5期 |
22/5期 |
23/5期 |
24/5期 |
|
電気使用量(kWh) |
76,241 |
70,715 |
67,360 |
66,622 |
64,431 |
CO2排出量(t-CO2) |
35.7 |
32.3 |
30.1 |
30.4 |
29.4 |
原単位CO2排出量 (t-CO2/売上高億円) |
1.39 |
1.11 |
0.80 |
0.68 |
0.56 |
②社会資本関連
19/5期 |
20/5期 |
21/5期 |
22/5期 |
23/5期 |
24/5期 |
|
株主数(人) |
4,550 |
4,541 |
5,058 |
8,868 |
10,826 |
12,767 |
*単位株主数、各期有価証券報告書より
③人的資本関連
◎従業員関連
19/5期 |
20/5期 |
21/5期 |
22/5期 |
23/5期 |
24/5期 |
|
従業員数(連結、人) |
102 |
110 |
113 |
163 |
186 |
274 |
従業員数(単体、人) |
79 |
93 |
89 |
98 |
114 |
121 |
平均年齢(単体、歳) |
37.9 |
37.4 |
35.5 |
35.3 |
35.6 |
36.3 |
平均勤続年数(単体、年) |
3.8 |
3.8 |
4.3 |
4.5 |
4.5 |
4.9 |
平均年間給与(単体、千円) |
5,062 |
4,558 |
4,667 |
5,022 |
5,283 |
5,248 |
女性従業員比率(単体、%) |
37.0 |
45.1 |
45.1 |
48.0 |
46.0 |
49.6 |
女性管理職数(単体、名) |
2 |
5 |
4 |
6 |
12 |
18 |
女性管理職比率(単体、%) |
7.4 |
13.5 |
12.9 |
15.4 |
25.5 |
30.5 |
有休消化率(単体、%) |
66.3 |
70.0 |
70.5 |
71.3 |
71.2 |
62.6 |
2020年5月期から2024年5月期の5年間で産前産後休暇及び育児休業取得回数は計16回で、復職者12名。復職率は75%であった。
※2名来期以降復職予定
<参考>
ESG Bridge Reportの発行に際しては、柳 良平氏(京都大学経済学博士、エーザイ株式会社元専務執行役CFO、早稲田大学大学院会計研究科客員教授)に多大なご協力を頂いた。
この「参考」のパートでは、ESG Bridge Report発行の趣旨についても述べさせていただくとともに、同氏の提唱する「柳モデル」の概要を同氏の著作「CFOポリシー第2版」から引用する形で紹介する。
(1)ESG Bridge Reportについて
ESG投資がメインストリーム化する中で、投資家からは日本企業に対し積極的なESG情報開示が求められ、これに呼応する形で統合報告書作成企業数は増加傾向にあります。
ただ、統合報告書の作成にあたっては経営トップの理解・関与が不可欠であることに加え、人的リソース及び予算負担から多くの企業が踏み出すことができていないのが現状です。
また、統合報告書の作成にあたっては各種データの整理、マテリアリティの特定、指標や目標値の設定など多くのステップが必要ですが、現状の準備不足のために二の足を踏んでいるケースも多いようです。
しかし、柳氏が「CFOポリシー第2版」で、「日本企業が潜在的なESGの価値を顕在化すれば、少なくとも英国並みのPBR2倍の国になれるのではないだろうか」「柳モデルの実現により日本企業の企業価値は倍増でき、それは投資や雇用、年金リターンの改善を経由して国富の最大化に資する蓋然性が高い」と述べているように、日本企業のESG情報提供は、日本全体にとっても有意で積極的に推進すべき事項であると株式会社インベストメントブリッジは考えています。
そこで、一気には統合報告書作成には踏み出せないものの、ESG情報開示の必要性を強く認識している企業向けに、現時点で保有するデータやリソースをベースに、投資家が必要とするESG情報開示に少しでも近づけるべく、弊社がご協力して作成しているのが「ESG Bridge Report」です。
日本企業のESG情報開示を積極的に後押ししている日本取引所グループが発行している「ESG情報開示実践ハンドブック」のP6には「ここで紹介している要素が全て完璧にできていないと情報開示ができないということでもない。自社の状況を踏まえてできるところから着手し、ESG情報の開示を始めることで、投資家との対話が始まり、そこから更なる取組みを進めていく際に、本ハンドブックが手がかりになることを期待している」とありますが、「ESG Bridge Report」は、まさに「できるところから着手し、ESG情報の開示を始める」ためのツールであると考えています。
柳氏によれば「柳モデル」の本格的な展開のためには、ESGと企業価値の正の相関を示唆する実証研究の積み上げ、企業の社会的貢献が長期的な経済価値に貢献する具体的事例の開示などが必要とあり、実際のハードルは高いのですが、各企業のESGへの取り組みがいかにして企業価値向上に繋がっているかをわかりやすくお伝えしたいと考えています。
お読みいただいた多くの投資家からのフィードバックを基に、よりクオリティの高いレポートへと改善してまいりますので、是非忌憚のないご意見を賜りたいと存じます。
株式会社インベストメントブリッジ
代表取締役会長 保阪 薫
k-hosaka@cyber-ir.co.jp
(2)「柳モデル」について
(拡大する非財務資本の価値、ESG投資の急増、ESGと企業価値をつなぐ概念フレーム策定)
近年、多数の実証研究において企業価値評価における非財務情報の重要性拡大が証明されており、今や、企業価値の約8割は見えない価値(無形資産)、非財務資本の価値と推察される。
加えて、非財務情報と企業価値の関係を調べた多数の実証研究の結果から、ESGと企業価値は正の相関を持つ蓋然性があると考えられる。
一方、グローバルにESG投資のメインストリーム化が進む中、潜在的なESGの価値にもかかわらず多くのケースでPBRが1倍割れもしくは低位に留まる日本企業は、PBR上昇のために「柳モデル」により、非財務資本を将来の財務資本へと転換すること、つまりESGと企業価値をつなぐ概念フレームを策定して開示する必要がある。
(「柳モデル」の概要)
株主価値のうち、「PBR1倍相当の部分」にあたる株主資本簿価は現在の財務資本・財務価値により構成される。
一方、株主価値のうち「PBR1倍超の部分」にあたる市場付加価値は、(将来の財務資本ともいえる)非財務資本により構成されると同時に、残余利益モデルにおいてはエクイティス・プレッド(ROE-株主資本コスト)の金額流列の現在価値の総和でもある。
このことから柳氏は、非財務戦略の結論として「非財務資本とエクイティ・スプレッドの同期化モデル」=「柳モデル」を、ESGと企業価値を同期化する概念フレームワークとして提案している。
「柳モデル」においては、「市場価値(MVA)」を通じて残余利益の現在価値の総和としてのエクイティ・スプレッドと非財務資本が相互補完的である、つまり、エクイティ・スプレッドによる価値創造はESGを始めとする非財務資本の価値と市場付加価値創造を経由し、遅延して長期的には整合性を持つ。
そのため、ESG経営は資本効率を求める長期投資家とは市場付加価値を経由して同期化でき、協働が可能であろう。
これを傍証するように、柳氏が実施した投資家サーベイにおいては、世界の投資家の大多数が「ESGとROEの価値関連性を説明してほしい」と要望していると同時に、「ESGの価値の100%あるいは相当部分をPBRに織り込む」と回答しており、「柳モデル」は間接的にも長期投資家の大半から支持されていると解釈できよう。
(同氏の「ROESGモデル」の詳細については、柳良平著「CFOポリシー第2版」中央経済社(2021)をご参照されたい。