アジアの経営者からみたアジア

2014/12/21

・日経主催の世界経営者会議で、アジアの経営者5人の話を聴く機会があった。それぞれの立場でマーケットとマネジメントをどうみているのか。注目すべき点についていくつか取り上げてみたい。

・タイのCP(チャロン・ポカパン)グループのCEOであるタニン・チャラワン会長(75歳)は、伊藤忠商事と組んで、各国の中堅企業とともに発展したい、と強調していた。CPグループは食品、小売り、通信などのコングロマリットで、年商は4兆円を超え、従業員数も30万人に及ぶ。16カ国に投資し、中国では正大集団として知られる。

・家族経営でありながら、どうしてこのように大きく成長できたのか。それは分業にあるという。一族で働いてきたが、目標を定め、リーダーに決定権を与えた。チャラワン氏には、3人の兄がいるが、本人に権限を与え、それをサポートしてくれた。経営にはスピードが必要である。民主的に議論をしていては時間がかかりすぎることも多い。やはりリーダーが必要で、30%のミスをしても、70%が正しいのならOKである。基本を間違えないことであるという。

・チャラワン氏は、自分が間違った時に、人のせいにする人を許さない。ミスをした理由をよく考えるべきで、ミスは成功の母でもあると強調する。幹部がミスをしても、それを認める。そして、次の成功に活かす。

・事業の選択に当たっては、先を見てその分野でトップになれるかどうかを判断する。トップを目指しても、利益が出ないのであれば、諦めることもある。まずは1位になることを目指す。それが無理なら、1位になれそうな相手と組むことを考える。

・利益については、3つの利益を考える。第1に国の利益、第2に人々の利益、そして第3にわが社の利益である。その国の利益になることを考えないと、政府のサポートは得られない。国のサポートがなければ、全てを失うこともありうる。人々の利益という点では、豊かな人も貧しい人も、全ての人々に役立つことを考える。この2つがはっきりしていれば、会社が成功する可能性は高い。

・会社は先に与えよ。そして、回収は後にする。途上国に足らないものは、資本であり。技術であり、人材である。それらを与えて、機会を創り出す。これが上手く回りだせば、会社の利益は自ずとついてくるという考えである。

・チャラワン氏は、伊藤忠商事のトップマネジメントを高く評価している。伊藤忠商事とCPが組んで、途上国の中小企業と一緒に発展するモデルを作っていく。かつて、日本が成長期にやったことを、これから発展する途上国で展開する。

・中国経済については、減速するのは合理的であり、第2ステージに入っているとみている。また、ネット社会になっても、ものづくりは必要であり、ロジスティックはますます重要になる。そこでは生産性が求められるので、実態経済のプラットフォームには大いに投資していくと強調する。いずれ‘ものづくりの天下がくる’というのがチャラワン氏の見立てであった。

・タイ石油公社(PTT)のパイリン・チューチョーターウォン社長(CEO、58歳)は、東工大で博士号を取得しており、東京は第2の故郷ともいう。PTTは民営化で2001年に上場しており、フォーチュン誌のグローバル企業ランキングで84位に入る大企業である。

・これから世界中で都市化が進む。つれてエコシステムへの負荷は増えてくる。同時に、コネクティビティとモビリティが一段と高まり、どこからでもチャンスに飛び付くことができる。よって、シスコのジョン・チャンバースが言うように、テクノロジーを軸に、常にイノベーションを続ける会社のみが生き残っていくと指摘する。

・その中でPTTは、バイオマテリアルの時代に、ケミカル企業としてグリーン化を目指す。現在タイで最大の植林を行っているが、バイオとグリーン技術を軸に、バリューチェーンを作っていくと強調する。そして、バイオプラスティックで世界のリーダーになると宣言する。

・タイは、人口6000万人、出生率は下がっており、高齢化も進み始めた。共働きも普通である。タイでは失業率が低く、人的資本も不足している。アセアン統合で移民が入ってきたとしても、経済成長が高いので、さほど大きな問題にならないとみている。

・アセアンはインフラが不足している。かつて中国はインフラ投資を優先したが、アセアンもそうすべきであるという。それが経済にはプラスに働く。PTTは、インドネシア、ベトナム、ミャンマーにも投資している。アセアンで6億人の市場が統合していく効果は大きい。電力の相互融通(パワーグリッド)もタイ、ラオス、カンボジア、ミャンマーで始まっており、将来はインドネシアやフィリピンも入ってくるとみている。

・フィリピンのSMインベストメンツのテレシタ・シー・コソン副会長(64歳)は、小売、ショッピングモール、不動産、銀行を中核とするコングロマリットを経営する。SMはシュー・マートを意味し、父の靴屋から商売を学んだ。彼女は傘下のBDOユニバンクの会長も務め、ここはフィリピン最大手の銀行でもある。

・ビジネスをやる時に、過去を振り返っても仕方がない。どこが伸びるかを見る。その意味において、フィリピンは、過去はダメであったが、これからは有望であるという。GDPは年6.3~6.9%伸びている。1人当たりGDPも3000ドルに近づいてきた。フィリピン人の出稼ぎで送金が増えており、海外送金は年250億ドルにも及ぶ。これからは都市化が進むので住宅が足らない。それを購入できる層が増えている。

・SMインベストメンツは50年間、不動産、銀行、小売をコアとしてビジネスを展開してきた。SMプライムHDはディベロッパーとして国内最大である。600haの埋め立て地の開発も手掛けてきた。SMストアはトップの小売業である。ユニクロともJ.V.を展開している。BDOは12の銀行をM&Aして大きくなってきた。

・フィリピンには、技術と資本が欠けている。ポテンシャルは十分ある。マニラのインフラ不足はむしろ投資のチャンスにしてほしいという。2015年にアセアン統合がスタートする。6億人の市場ができる中で、フィリピンはタイよりも遅れている。これからインフラ投資が加速するとみている。

・フィリピンのサンミゲルのラモン・アン社長(COO、60歳)は、インフラ事業への多角化を進めてきた。サンミゲルといえば、ビールでの知名度が高いが、食品、飲料、容器のほかに、発電、石油精製など、インフラ関連が全体の7割を占めるコングロマリットである。

・フィリピンの経済は6.5%以上のGDP成長を遂げている。国の格付けも投資適格に入っている。1億人の平均年齢は23歳と若い。その中でサンミゲルはビールのシェア95%、ウィスキーや食品(加工肉、乳製品)、包装容器でもリーダーである。日本のキリンHDや山村硝子ともパートナーを組んでいる。それ以上に、電力、石油精製、高速道路、ガソリンスタンド、空港、鉄道、橋など、インフラ企業へと変身してきた。

・アン社長は、1)かくれたリスクに関する情報を十分収集せよ、2)そのためには、ローカルなパートナーと組むことである、3)しっかりした信頼関係を構築して、4)適切な品質と価格を提供することである、という。同時に、5)想定されたリスク(calculated risk)はとれ、6)想定外のリスクを十分考え、7)いつもイノベーティブに、8)チームワークと対話を続けていくべし、と強調する。

・サンミゲルは、フィリピンで2.3万件のガソリンスタンドをもつが、これからもインフラ関連投資はどんどん続けるという。投資のチャンスはアジアでもトップクラスと評価している。かつて戒厳令があったし、誘拐もあったが、今はない、セメントの消費量は1人当たり150㎏と、他のアジアに比べて圧倒的に少ない。フィリピンはリスクの少ない国になっている。

・フィリピンの人材は、バンカー、会計士、エンジニアなどプロフェッショナルサービス業に向いており、有望である。また、フィリピンは水力発電のリソースをもっており、パワーグリットのアセアン統合に大いなる期待を抱いている。

・中国のCITIC(中国中信集団)の常振明会長(58歳)は、北京第二外国語学院日本語学科を卒後しており、若い時には大和証券で研修を受けた。今回は日本語で講演した。CITICは2014年9月に香港に上場しており、時価総額5兆円、アジア最大のコングロマリットである。

・金融と実業の両部門を有し、金融では、銀行、証券、信託、保険などを手掛ける。実業では、重工などの製造業のほかに、不動産、建設・エンジニアリングに手を拡げる。アルミホイールのダイカストでは世界最大の企業である。2013年の売上高は6兆円、営業利益は1.3兆円であった。

・もともとは、中国企業の競争力を高めるために、海外からのマネジメント導入、技術導入、ファイナンスを担当する会社であった。日本との結び付きも強く、1982年に初めて債券を発行し、野村證券が幹事を務めた。90年代には東証へ上場することも検討したという。中国では、オリックス、野村證券、サントリー、神戸製鋼などと合弁を組んでいる。

・中国は今や転換期を迎えており、新しいチャレンジを行っている、という認識である。1)都市化、2)内需消費、3)環境、・エネルギー、4)ネット・IT など、新しい成長分野を自ら切り拓こうとしている。

・その中で、CITICは5つの優位性を生かし、大型のコングロマリットとして、一段と成長することを目指している。優位性とは、①ブランド、②ネットワーク、③人材、④資本力、⑤ガバナンスである。CITICの魂は、「市場化とイノベーションの精神」にあると強調する。

・このように5人の経営者の話を聴くと、1)中国は転換期にあるが、十分チャンスはある、2)アセアン統合による6億人の市場は魅力あるもので、かなりの発展が期待できる、3)フィリピンはかつてのイメージとは全く違って、成長の余地が大きい、という点が印象に残った。

・さらに、中国がリードして創設するアジアインフラ投資銀行(AIIB)について、タイ、フィリピンの経営者が両手を上げて歓迎していたのには驚いた。アジア開銀(ADB)と競ってファイナンスの規模が広がるなら大いに結構という姿勢であった。それだけインフラ投資の機会が豊富にあるということである。ポートフォリオにおけるアセアンのウエイトを一段と高めておく必要があると感じた。

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