地政学的リスクへの対応

2025/10/03

・「戦争は紛争解決の最後の手段である」とすれば、所詮、力がものを言う。人類の歴史に戦争はつきものであった。平和を求め、平和を維持したいと言っても、一定のパワーがなければ、自らの存在感は示せない。

・パワーバランスを図るには、1)経済力、2)政治力(外交力)、3)軍事力、4)文化力が必要である。弱いと見下されれば、攻められる可能性がある。価値観が共有できて、互いに信頼を築ければよいが、国益優先で自己本位であれば、共存に向けた摩擦は常に生じよう。

・ロシアとウクライナの紛争、イスラエルとイランの紛争をみると、話し合いのレベルを超えて、軍事的実力行使が現実となった。全面戦争を避けつつ相手を叩き潰すという作戦をとっている。

・「日本は、日米同盟で守られている」というが、本当であろうか。弱みを見せれば、相手はそこを突いてくる。何らかの足場に、言いがかりをつけて、既成事実に仕上げていくというのが常套手段であろう。

・これまで、「核兵器は持っても、それは使わない」というのが抑止力の基本であった。だが、本当に使わないといえるのだろうか。核軍縮は進んでほしいが、核を持ちたい国はいくつもある。

・それが敵となるならば、核開発ができないように潰してしまう作戦が、イランに対してとられた。イスラエルと米国は核保有国であり、軍事力を一方的に行使して相手の核施設を叩き潰そうとした。

・北朝鮮の核開発にはどのように対処するのか。中国の核兵器の増強には、どのように備えるのか。日米安保条約はあるが、隣国との摩擦が紛争となる時、機能するのであろうか。

・トランプ大統領なら次のように言いそうである。「米国ファーストだ。日本は、自分の国をまず自分で守れ。そのための装備を今以上に整えよ。当然、米国の軍需産業を活用せよ。米国の不利益になる、ということならば日本を守るが、平時の備えにもっと日本は資金を出すべきである。」このような姿勢は見て取れる。

・いざという時は、米国の核の傘に守ってもらう。そのために、核兵器の実効力を身近に十分備えていなければ、抑止力にはならない。笹川平和財団の提言書(「日米同盟における拡大抑止の実効性向上を目指して~「核の傘」を本物に」)をどう受け止めるか。

・核兵器は関して、日本は「持たず、作らず、持ち込まず」ではなく、「持たず、作らず、打ち込ませず」にしなければならないという。

・日本に打ち込ませないようにするには、1)身近に核兵器を置いて、2)いつでも使えるという状況を相手に認識させて、3)それを抑止力にして、日本に打ち込ませないという仕組みにすると、いう原則である。

・核兵器は米国に頼るとしても、その運用については、日本が関われるようにしておくという考えである。安倍元首相は、核共有を検討すべしという方針を持っていたが、今この議論が日本の国会でできるだろうか。戦争好きの超保守派とみられて、大反対をくらいそうである。

・北朝鮮はロシアを通してウクライナに軍人、兵器を送り、軍資金を稼いでいる。中国はロシア、イランをみながら、台湾有事の作戦を見直していよう。核抑止が中国の台湾有事を止められるか。

・核は別扱いなのか。通常戦力の向上に力を入れて、作戦を立て訓練しておくのか。戦術核を日米合同の軍事演習に入れて、反撃に備えるべきである、という見立ては通用するであろうか。

・今の自衛隊は、核に関して全く訓練されていないし、そのような仕組みをそもそも持っていない。では、戦時対応を準備する必要があるか。核抑止は認知戦、心理戦である。備えなければ憂いなし、とはならない。

・単刀直入にいえば、“やられたら、必ずやりかえすから、絶対やるな!”という論法に実効性を持たせるには、実践運用の備えを整える必要がある。相手が分かるような反撃能力を持つ、ということが「拡大抑止」という考えの原則である。

・こうした国家安全保障政策が進むとは思えない。経済安全保障ですら立場によって、相当なギャップがある。制度のしがらみと慣性の法則によって、ものごとは先進的には動かない。

・日本に身近な有事が起きて初めて、こうした対応が進むことになろう。それでは遅いと分かっていても、現実はついていかない。相手がそう判断すれば、必ず仕掛けてくる。一方で、防衛の仕組みとして、訓練されていないことは実践で機能しない。福島原発事故の時に露呈した課題である。

・世界のリーダーとしての米国の力は凋落しつつある。それでも、米国とは仲良く協調していくことが得策である。先方から求められるのは自立と協力であろう。

・これは日本の負担が増すことを意味する。当然、経済力をもっと強化し蓄える必要がある。民需産業、軍需産業についても、見直していくことが求められよう。日本の経済安全保障に貢献しつつ、企業価値を高める日本企業に投資を継続したい。

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