デジタル産業の将来

2025/11/10

・福岡に行ったついでに、熊本と北九州市にも寄ってみた。TSMCの半導体工場(JASM)
とワールドインテックの熊本テクニカルセンター(半導体人材の研修育成)の立地を見学した。北九州市では、ITインテリジェントビルのビジア小倉(IBMなどが入居)を見学した。デジタル産業の戦略拠点が波及効果をもたらしている。

・JASMは第2工場の建設に入っている。台湾の半導体関連企業が北九州にも立地しそうである。北海道では、ラピタスが最先端の半導体工場を建設中である。2ナノの半導体を生産して、一定の量産規模に持っていくには5兆円の投資は必要である。サプライチェーンを含めて、国家的プロジェクトとなっているが、果たしてうまくいくだろうか。

・投資が莫大である。あらゆる分野でAIが使われるようになるので、そのデジタル処理にはデータセンターが必要であり、半導体と共に膨大な電力が必要となる。半導体の省エネをいかに進めるか。微細化、高密度化、光学化などに向け、プロセスイノベーションが進もう。

・カギは量産にもっていくことである。需要に遅れをとっては、競争に負けてしまう。価値創造は量産化によって投資を回収して初めて実現できる。製造装置と半導体材料で、日本は世界トップクラスのポジションを有している。一方で、肝心の半導体は遅れをとってしまい、すでに高成長がスタートしているAIでも遅れ気味である。

・地産地消をベースに、デジタル産業のサプライチェーンを築いていけるか。勝負の局面にある。今後のデジタル産業はどのような方向を目指すのであろうか。経産省が今年5月に公表した資料「半導体・デジタル産業戦略の現状と今後」を参考に、重要と思われるポイントをいくつかあげてみたい。

・まずは生成AIの利用があらゆる分野で進む。AIをクラウド型で使うのか、エッジサイドで使うのか。バイオ、ライフサイエンス、材料、金融などはクラウド型のサービスを使うようになろう。一方で、自動車やロボティクスは、各々の機器に組み込まれるという意味で、エッジ(利用の先端)でAI機能が使われよう。

・それぞれのサービスを利用する現場に合わせた生成AIモデルが開発される。モデル開発にはデータが必要であり、アプリとしてうまく機能する必要がある。そのアプリがさらにデータを取り込んでAIモデルを動かし、求められる機能を果たしていく。

・AIを含むソフトウェアが必要であり、データを処理するデータデンターが必要である。高効率で省電力の計算資源(AIコンピュータ、汎用コンピュータ)も必要である。

・デジタルデータのコンピューティングアーキテクチャーとしては、1)各産業に特化した専用の半導体設計や、2)高度AGI(汎用AI)やASI(スーパーAI)用の半導体も求められる。また、半導体の微細化やパッケージングの3D化、光電融合、光チップレット化も進もう。

・政府としては、2030年までに10兆円以上の公的支援を行うとしている。次世代半導体の量産に向けて、4兆円以上の金融支援、6兆円程度の補助や委託支援を想定している。財投特会やエネルギー対策特会など活用されよう。

・生成AIモデルは、データのレベルに依存する。汎用基盤モデルに、各産業領域のデータを活用して、領域特化基盤モデルが構築され、さらに個社固有のデータを利用して、個社特化型のAIモデルが開発される。それがアプリとして使われる。この領域特化モデルの社会実装において、日本企業の特徴が発揮され、その先に個々の企業の競争力が養われよう。

・現在使われている情報システムは古いものとなるので、AIを組み込んだ新しいシステムにレベルアップしていく必要がある。それがスピーディにできるか。レガシーシステムに捉われて、モデル化(新モデルへのイノベーション)ができなければ、競争力の劣化を招いてしまう。

・AIモデルの進化をスムーズにスピーディに進める必要がある。まずは今の稼ぎが十分でないと、人材投資、AI投資ができない。

・AGI時代を見通すと、日本のAIエンジニアは、2025年で素養人材1.1万人、AIモデル開発人材500名、トップ人材100名に対して、2030人には同3万人、6000人、1500人が求められる。そういうトップクラスの人材を育成することが必須である。

・ロボティクスにおいても、製造業でのロボットがAI化するのはもちろん、サービス分野でのAIロボットも一般化してこよう。多様な作業をフレキシブルにこなすAIシステムが開発され、それが利用されるようになろう。ここで日本は世界をリードできるか。日本的なおもてなしを組み込んだユニークなロボティクスで、世界のトップに立ってほしいものである。

・通信の領域でも、デジタルライフラインの重要性が一段と高まってくる。1)自動運転サービス支援道、2)インフラ管理DX、3)ドローン航路、4)災害デジタルラインなどである。

・半導体の先端ロジック分野では、ラピダスプロジェクトを何としても成功させる必要がある。巨額投資のファイナンス、ナノ半導体のユーザーの開拓と獲得、先端テクノロジーの開発と量産化で、まだ楽観はできない。

・カーエレクトロニクスの進化に向けて、パワー半導体へのニーズも高い。SiC、GaNなど化合物半導体でも需要拡大へのマッチングが求められる。EVで中国に対抗できるか。ハイブリッドの優位性を持続できるか。大いに奮起してほしい。

・米中対立でいえば、レアメタルの争奪戦も大きなテーマである。レアメタルのリソースの多様化には、10年単位の開発と援助が必要なので、短期的に対応しにくい。ここをどうつないでいくか。対立と協調の中で、利害調整に向けた高等戦術も必要である。経済安全保障の前進も求められる。

・政経分離とはいかない。米中対立の中で、新たなスタンスを確立する必要がある。民間企業の強さがベースにないと交渉力として使えない。政治力、軍事力、経済力、文化力、の総合作戦の中で、デジタル産業への投資を考えたい。新たな有望企業を見出したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ