ジワリと効いてくるかもしれない米中摩擦長期化による「ボディブロー」

2019/05/10

 長かった連休が明け、「令和」最初の取引となった今週の国内株市場ですが、お祝いムードではなく、波乱含みのスタートとなってしまいました。日経平均は一気に22,000円台の節目を下回る水準まで値を下げています。

 

 

連休中の海外株市場を振り返ってみますと、多くのイベントを無難に消化しつつ、終盤までは堅調に推移していました。具体的には米国の経済指標やFOMC(米連邦公開市場委員会)、企業決算をはじめ、中国PMI(購買担当者景気指数)、米中閣僚級協議の北京ラウンドなどが注目されていました。それぞれの結果と市場の反応は強弱入り混じってはいたものの、全体的には目立ったネガティブサプライズはなく、これらのイベント通過を受けて米株市場は高値圏内で推移し、S&P500 NASDAQが史上最高値を更新する場面も見せていました。

 

ところが、連休の最後の最後になって、トランプ米大統領が米中の通商交渉をめぐって関税引き上げに言及したことが引き金となり、相場の雰囲気がガラリと一転してしまいました。当初は、舞台をワシントンに移して米中間の協議が行われる予定だったため、「交渉を有利にするための駆け引きに過ぎない」との見方も強かったのですが、関税引き上げ判断の期限が週末の10日(金)と日数が少ないことや、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表も関税の引き上げ実施を表明するなど、米中貿易摩擦の悪化が次第に現実味を帯び始め、警戒モードが強まった格好です。

 

関税引き上げは、最近まで「合意が近い」と言われていたこのタイミングで行うには刺激が強すぎるカードであり、実は「思っているほど交渉が進んでおらず、むしろ行き詰まっていたのでは?」と捉えた方が良いのかもしれません。もちろん関税引き上げが回避される可能性は残されていますが、交渉の進展に対して期待が高まりにくく、「とりあえず、最悪の事態は回避」といったように、摩擦が長期化する展開となれば、株価を押し上げる力は限定的になりやすくなります。

 

さらに、米中関係の悪化は中国経済の足かせになるほか、国内外の企業業績の見通しを曇らせるなど、相場にとって負の材料の連鎖となるため注意が必要ですし、摩擦が長期化するにつれて、企業のサプライチェーン(供給網)における中国企業との関係を抜本的に見直す動きが強まる展開も考えられます。交渉が進み、関税が撤廃される方向なら、サプライチェーンを動かさずに一時的な様子見で対応できますが、長期化するのであれば対応せざるを得なくなるシナリオがボディブローのようにジワリと実体経済に効いてくるかもしれません。

 

「米FRBなど各国中銀のハト派姿勢や中国の経済政策などが世界景気の減速懸念を後退させ、米中関係の改善もサポートとなって、企業業績も持ち直す」という見通しで描いてきた最近までの株高傾向は、その持続性が試される「曲がり角」に差し掛かっているのかもしれません。

 

 

 

 

 

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