真の実力が試される自動車セクター   -高田 悟-

今月初めのOPEC総会で減産への合意が流れて以降、原油価格が下げ止まらない。原油安は産油国の財政悪化を招くのみならず、原油と連動する一次産品価格の下落を通じて、非産油新興国の景気・財政悪化、政情不安にも繋がる。こんな状況で米国が利上げをしたら新興国のどこかが破綻してしまうかもしれない。夏場の中国景気への懸念と異なり、今回は原油安からリスクオフの動きが強まっている。本日は反発したものの、株式市場は調整色を深め一昨日は安全資産への回帰から対米ドルで円高が進んだ。そろそろ今期16/3期も終わりが近づく。17/3期が気になり始める。来年にはイラクからの供給増が想定され、かつてに比べ大きくなった新興国の景気低迷を踏まると原油の需給が引き締まる気配はない。こうした中、来期の自動車セクターの業績はどうなるのだろう。

中間決算を終えた時点で国内完成車メーカー7社は16/3期に合計で5兆5,150億円の営業利益を見込む。前期から6,267億円の営業段階での増益となる。トヨタの為替前提では1米ドル110円→118円へ対米ドルで前期から8円の円安を想定する。しかし、為替による増益影響は7社全体で1,104億円にすぎない。ちなみに、前期15/3期は7社合計で前々期から5,277億円の増益となったが、1米ドル100円→110円へ10円の円安が進む中で為替が6,269億円の増益影響となった。対ドルで円安進行幅は今期も前期も大きく変らないのに、何故、前期に比べ今期は為替の円安効果が少ないのか。米利上げへの懸念から新興国通貨安が今期は進んだため対米ドルでの円安による増益効果を相殺してしまっている。

今から振り返ると今期を含め過去3期は自動車セクターにとってはずいぶん恵まれた環境にあった。対米ドルで1米ドル80円→120円へと約40円の円安が進んだ。また、主要米国市場で日系と競合する韓国メーカーが燃費詐欺問題で失速するなど敵失もあった。こうしたことも幸いし、米国市場で市場の回復とともに台数を伸ばした。為替のプラス影響が大きく見込めぬ今期はまさに米国市場の好調に助けられている。好調とはいえ、米国市場はリーマンショックでの急激な落ち込みから、かつてのピーク近くまで回復してしまった。

需給を考えると原油安は長期化しそうだ。原油安には先進国景気にプラスに働くという面もある。しかし、日本の経常収支には改善方向に働くという面もあり、ここだけ捉えれば円高要因だ。加えて米国で数回の利上げが想定されることを踏まえると新興国通貨には下落圧力がかかりやすい。来期はもはや為替による増益効果が期待できない。世界の自動車市場を見回しても大きく伸びそうな市場が見当たらない。自動車セクターの来期増益のハードルはかなり高くなっている。厳しくなった環境下で来期は伸びない市場でも台数が伸ばせ、かつ稼げるクルマをこつこつ確りつくり、世に出してきた会社に日が当たりそうだ。真の実力値が試される年度となるのとともに、業績予想が難しくなる中でアナリストとしても腕のみせどころになりそうだ。

株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。