先進国銘柄、新興国銘柄 -高田 悟-
注目のFOMCが終わった。結局、予想が割れた米国利上げは見送られた。発表後の株式市場はニューヨーク、東京ともに冴えない。新興国景気悪化観測からインフレへの懸念が一段と後退したため、金融政策を正常に戻すため以外には利上げをする明確な理由がなかったのだろう。むしろ、利上げをして、「目的は異常低金利の修正であり、次の利上げ当面はない」と発するとか、利上げを見送る中でも「インフレ率が一定レベルに上昇するまで利上げはない」とかの明確なメッセージが欲しかった。これでは従来から変りがない。一段と不透明感が強まってしまったとも言える。さて、自動車株はどうなるのだろう。
米国金利、為替の動向、新興国景気の今後の見通しを引き続き立てにくい中で、自動車を中心とする外需・輸出株の関しては慎重にならざるを得ない。ただし、不透明感が強い中でも、明白なことがいくつかある。その一つは、米国の景気は堅調であり、欧州は回復傾向で先進国は総じて景気が悪くはない。もう一つは中国の景気はかなり悪い。問題の根が深く回復にはかなり時間がかかりそうだ。そして、新興国全般に景気の停滞感が強まっていると言うことだ。さらには、原油は当面安い。大きく反発する可能性は低い。こしした中、世界第2位の米国新車市場は大型車を中心に当面好調が続きそうだ。一方で、世界最大の中国新車市場は中期的な魅力は大きいものの、足下の鈍化傾向が暫く続きそうだ。
日系完成車メーカーの主戦場は米国を中心とする北米だ。中国はフォルクスワーゲンやGMなど欧米勢に出遅れた。全般にシェアもまだ低い。日系車の世界販売台数に占める北米の比重はおよそ35%程度に上る、業績を左右する為替は影響の大きいドル/円レートが各社計画前提よりまだ円安水準に止まる、中国は日系の世界販売台数に占める割合が1割強にすぎず、しかも完成車メーカー業績へは持分法での貢献にすぎない、などの点を踏まえると今後の完成車メーカー業績に過度に悲観的になる必要はないと考える。中国、新興国懸念ということでこのところ外需株、自動車株は一緒くたに売られてきた感がある。しかし、良いものは確実に安くなっている。中間決算で8月の中国ショックによる懸念が払拭できるガイダンスが出せる先の株価は大きく見直される可能性があろう。
こうした中で今期16/3期の各社販売計画のばらつきが注目される。ホンダは今期中国で1割強の台数増を見込み世界販売全体に占める中国の比重を2割弱までに高める構えだ。日産は6%の台数増を想定し、中国比重は2割強を見込む。一方でトヨタの中国販売計画は横ばいと慎重で中国比重も1割強に止まる想定だ。中堅の富士重工業は中国で販売台数を落とす方向である。中国への入れ込みが強い先は同地域への投資も膨らんでいる。実績が計画から下方にぶれてくる可能性があり注意を要そう。このため、先進国に依存が強く計画に比較的安心感のある先は「先進国銘柄」、新興国への入れ込みが強く計画の下ぶれが懸念される「新興国銘柄」という切り口で投資対象をおさえておくことが当面重要だと感じている。自動車部品メーカーに当てはめると日産系列にはどうしても慎重にならざるを得ない。新興国二輪車向けでたっぷり稼ぎ、四輪車向けの開発費を捻出、価格競争力を保つホンダ系にも不安が灯る。トヨタ系列に安心感があるが、全般にトヨタグループ外への拡販が進んでおり、中国において欧米メーカー向けに強い先には注意が必要だと見ている。