楽観視できない円安加速と完成車メーカー業績  -高田 悟-

1米ドル/119円程度を中心にボックス圏で推移していた為替相場に変化が起きた。先日1米ドル/120円の大台を超えると円安が加速した。足下では1米ドル/123円台後半での推移で近いうちに1米ド/125円は軽く超えそうな勢いである。これに伴い自動車株が堅調だ。だが今回の円安加速がどの程度、完成車メーカー業績にプラスに効くかは見通しにくくなっている。それは、円と同様にタイバーツやブラジルレアルなどといった新興国通貨が対ドルで下落しているからである。すなわち、足下の円安加速はドル独歩高によるからだ。

記憶に新しいが、5月初旬までに出揃った完成車メーカー(商用車並びにダイハツ工業を除く)7社の決算では15/3期は7社合計で為替が5,828億円の営業利益増益要因になった。この結果一部減益の会社があったとはいえ、全社がほぼ過去最高水準の利益を確保した。一転、今期16/3期の見通しでは為替が合計で1,715億円の減益要因となる見通しとなり投資家の驚きを誘った。結果、今期は概ね全社の利益が大きくは伸びぬ想定だ。これは前期同様に対ドルで円安メリットを享受できるものの、ユーロ安が減益方向に効くことに加え、新興国通貨安が大幅な減益要因になることによる。要はドル独歩高の前提が背景だ。

今期の営業利益予想に与える為替インパクトを会社別に見て行く。前期の売上高順にトヨタ自動車が▲450億円、ホンダが▲850億円、日産自動車が▲400億円、マツダが▲340億円、スズキが▲90億円、富士重工業が+827億円、三菱自動車が▲410億円となる。前期は7社全てが為替によるプラス影響を享受した。今期は富士重工業を除けば、為替のプラス影響を享受できない。大手では売上の大きさのわりに、ホンダの為替影響が大きい。中堅では富士重工業、三菱自動車の為替影響が大きい。今期はドル独歩高の想定であることを踏まえると、ドル独歩高のマイナス影響が大きいのがホンダ、三菱自動車となる。一方でドル独歩高を享受できるのが富士重工業のみということになる。

需要地としての新興国の比重が高まる中で生産の現地化が進む。とはいえ、まだ完全に現地化が進まぬ(主要部品は輸入など)中で新興国通貨安がコストアップに繋がり、製造拠点の収益を圧迫する。ドル独歩高が続く環境下では北米を除く海外生産比重を高めた会社の収益が相対的に不利になる。一方で日本にある程度生産を集中し、北米輸出型のトヨタ自動車も含め、富士重工業のようなビジネスモデルが相対的に有利になる。ドル独歩高が崩れれば逆の現象が起きる。市場が世界の隅々まで広がって行く方向にある中で為替の完成車メーカー業績への影響は複雑になっている。円安加速と言っても楽観視はできない。ドル/円以外の通貨の動き、完成車メーカーごとのドル/円以外の通貨エクスポージャーなどを完成車メーカー業績や株価を見通す上では十分踏まえることが重要になってきたと言える。

株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。