完成車メーカーの決算発表を受けて -高田 悟-
5月12日の日産自動車を最後に完成車メーカー(商用車を除く8社)の14/3期決算が出揃った。終わった14/3期は概ね各社が大幅な増収増益となった。1米ドル80円台から100円台へ一気に進んだ円安が収益を大幅に押し上げた一方で、景況感の改善や消費増税前の駆け込みなどから後半国内の新車販売が増加したことに加え、アセアン地域での販売鈍化はあったものの、海外主戦場である北米で順調に販売台数を伸ばしたことが好業績に結びついた。一部を除き殆どの会社が営業段階で過去最高益を更新。マツダ、三菱が繰延税金資産を計上、復配を決め普通の会社に戻るなど日系完成車メーカーの金融危機からの復活を印象付ける決算となった。
さて、続く15/3期の業績予想。ダイハツ工業(トヨタ連結)を除く7社の営業利益の合計は前期比2.5%増の4兆4,679億円と微増益の予想となった。各社ともに前期から増益幅が大幅に縮小、踊り場入りを予想する。その要因を分析すると、一つは為替で円安効果が見込めぬことにある。各社、米ドルの為替影響は前提を前期並みの水準とするため中立だが、関係が増した新興国の通貨(タイバーツやインドネシアルピアなど)安を見込むため全体で為替は減益影響となる。次に、7社合計の販売台数増予想が5%程度に止まり大幅な販売台数増効果を見込んでいないことが指摘できる。消費増税影響を受ける日本国内の販売見通しに加え、タイでは政治混乱が長引き、他の新興国も選挙イヤーを迎えるなどから政策が見えにくく、成長市場新興国の販売が読みにくいということが背景にある。
更には7社合計で研究開発費が前期から4%膨らむ想定であるなど、復活を遂げ、持続的な成長に向け増益分の多くを設備投資や将来の飯の種に当てることを鮮明にしたことにある。整理すると各社概ね台数増でなんとか増益効果を生み、原価低減・コスト削減を粛々と進め、新興国通貨安による為替のマイナスと将来に向けた先行費用増を吸収し何とか高水準の利益を確保した前期から増益を目指すという計画の組み立てで、トヨタが示したように「意思ある踊り場」となって欲しいと願う次第である。
こうした中で比較的強気の販売台数見通しを出しているのが大手ではホンダ、日産、中堅では富士重工、三菱と言える。ホンダは前期比12%増の台数増を予想、供給力向上と積極的な新型車の投入により台数は伸びるが新工場の償却負担が重く利益は横ばいに止まる見通しだ。ホンダは新型「フィット」で大きなリコールが発生したが、急激な台数増を目指す中、生産への負荷増が想定され、リコールなどの再発なく台数を伸ばせるかが課題と言えよう。日産は同9%増の台数増と投資一巡により7%の営業増益を目指すが北米で過度な販売費をかけずに数量を伸ばせるかがポイント。富士重工は同11%増の台数増を見込むが、投資増から同4%増益に止まる見通しだが、北米が主戦場であり計画には安心感がある。また、同12%台数増、同10%営業増益を目指す三菱は注力するアジアで確り台数と収益を伸ばせるかがポイントとなる。
決算発表日から昨日までの株価パフォーマンスは強気の台数見通しを出した日産と富士重工業の株価がそれぞれ5.9%上昇、6.7%と上昇と堅調で素直に強気の販売計画を評価している印象がある。ホンダの株価は1.8%の上昇に止まるが主戦場の米国で主力の乗用車セグメントの需要がライトトラックなど大型車に比べ今一つで強気の台数計画に懸念があることが株価の伸び悩みに影響していると見られる。三菱は5.3%の株価下落だがアジア景気への懸念の影響と見られる。マツダは前期比15%の営業増益計画で増益幅の見込みは最大だが株価は4.3%下落し冴えない。業績予想が市場想定以下に止まったと見られることに加え、円安一服の影響が大きいと考える。スズキの株価が決算発表後18.2%上昇し好調だ。インドで選挙が終わった影響が大きい。各社株価の上昇には前述の課題に対する見通し改善や懸念が晴れることがポイントになると見る。こうした視点から考えると、ここまでの株価パフォーマンスは冴えないが、国内やアジアの影響が大きく、両地域の見通しに不透明感が高く計画が保守的なにならざるを得なかったトヨタやダイハツ工業の株価に意外と伸び余地が大きいとの見方もできるだろう。