化粧品のターゲットはやはりマダム

2013/04/12

【アナリストコラム 高橋 俊郎】

風も吹きあへずうつろふ、人の心の花に、馴れにし年月を思へば、あはれと聞きし言の葉ごとに忘れぬものから、我が世の外になりゆくならひこそ、亡き人の別れよりもまさりてかなしきものなれ。(後略)『徒然草26段』

人の心のはかなさを述べている。私には新しい商品の選択時にもこの歌が流れているような気がする。古くはAIDAMといわれた消費者選択理論の中で、「これっ」と選択されたものが、何かの拍子に忘れられ次へと移っていく。「今はこれがベストかも」と。
肌に合う、合わないはあるものの、スイッチングコストが低くなっている化粧品業界は既存大手企業の試練が続いており、業績が悪化したときに思い出される。

化粧品の業界動向について徒然書く流れと思いきや、ここでは3月に花王の「化粧品事業の構造改革とグローバル化の挑戦」に出席した中で印象深く思ったあとのことを書きたい。加えて、花王・カネボウの化粧品注力分野の一つが50歳代であることは、同様の感覚を持っており、ほっとしたのであった。

説明会で最も印象深かったのは、「化粧品の入り口世代の市場が急速に縮小している」ということであった。具体的内容は、年代別の化粧品購入金額と数量のトレンドの推移である。
全年齢では、04年を100とした場合、金額は96、数量は100。
50~69歳では金額は100、数量は106となっているのに対して、若年層15~29歳は金額82、数量86となっている(表1)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/1_8/
説明会では、その数値を聞いたときに今の世の世相を考えてなぜだと思っていたが、その後にもう一度考えてみた。
そこで、資料に合わせ04年と11年の女性の人口動態(表2)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/2_6/、経済産業省の化学工業統計年報) (表3)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/3_7/、世帯当たりの消費支出(表4)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/4_2/、を見比べようと思った。

(表2)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/2_6/ からは、化粧品数量金額の減少率と同率程度の対象人口減少がある。
(表3)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/3_7/ 皮膚用化粧品は数量増、金額減であり低価格帯の伸長が影響していると推測される。内訳では化粧水は数量増、単価下落となっているがこれはロート製薬が発売している肌ラボなど1,000円程度の化粧水伸長の可能性がある。
仕上用化粧品で数量増、金額増。ほほ紅(cheek color)やアイメークアップが伸びている。ほほ紅は現在の女性の流行の化粧事情を現しているだろうし、つけまつ毛(これは、雑貨の分類であり統計対象外の製品である)の伸長に合わせてアイメークアップが伸びていることにも違和感はない。そして、この仕上用化粧品は比較的年齢層の若い世代のほうが使用している可能性がある。ちなみに、つけまつ毛は、急増しており数年前の数十億から12年では100億円超の市場に成長しているようだ(出所:各社新聞など)。なお、化粧品の中の、アイメークアップはアイシャドウ、アイライナー、まつ墨・まつ毛化粧料はアイブロウ、マスカラなどが入る。

ちなみに、数値は概ね同一だが、海外化粧品メーカーなども入る日本の化粧市場規模は1兆4,430億円(花王資料)であるようだ。

(表4)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/4_2/ からは、家族世帯の統計のため一人暮らし女性の動向は不明であるものの、理美容用品は落ち込んでいないことがわかる。

 説明会資料では、調査定義などが不詳であるが、若年層(化粧品の入り口世代)の市場が急速に縮小しているのは、人口減によるものであるのではないかと考えた。今回の50~69歳は、04年時は、43~62歳であり、1986~1991年のバブル時にはそれぞれ25~30歳、44~49歳である。就業後の購買力は高かった世代の層であると考える。そのため、花王も含めTVCMでも年齢層の高い化粧品の訴求が増えていると感じる。化粧品各社は50歳代超のコア層をターゲットとすることは普通の施策である、と考えるに至った。はやり、今はマダムを狙う時期なのだ(2012/11/30 TIWCafe「マダムを狙え」参照) 。

ひとつ、単価下落要因になる記事を掲載する。
引用開始
100円ショップの化粧品コーナーにずらりと並ぶカラフルなマニキュア。品質はフランスの超有名ブランドとほぼ同じだ。百貨店の店頭価格は約3,000円。(中略)製造元はドゥ・ベスト。フランスで高級ブランドが使用する原料をわざわざ調達し、中国で最終製品に仕上げる。4年ほど前までは、主にドラッグストア向けに1,000円程度の商品を販売していた。(中略)現在は専業メーカーに転換。セリアやキャンドゥなどに販売する。同社の100円ショップ向けの売上高は10年前の4倍以上に膨らんだ。
引用終わり(日本経済新聞 2013/3/23 11面)

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<図表はTIWのHPに掲載>
(表1)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/1_8/
(表2)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/2_6/
(表3)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/3_7/
(表4)http://www.tiw.jp/investment/analyst_column/4_2/

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独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。

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