8月12日妥当レンジ 29,175円~31,463円
インフレ懸念後退は景況感悪化でも株高となるのか?

2022/08/16

【「IFIS/TIWコンセンサス225」によるマーケットの妥当レンジの推計】

投資のポイント

<インフレ懸念後退から米国株は大幅高となったが>
■10日発表の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比+8.5%と6月(+9.1%)から低下するとともに市場予想(+8.7%)も下回った。11日発表の米卸売物価指数(PPI)季節調整済み前月比で▲0.5%となりプラスを見込んでいた市場予想(+0.2%)を大きく下回り、インフレに対する懸念が後退した。また、全米自動車協会が発表した11日時点のガソリン価格(全米平均)は3.99ドル/ガロンと5カ月ぶりに4ドルを割り込んだ。ガソリン価格の下落が物価上昇を和らげている。インフレ懸念の後退と(5日発表の米雇用統計が好調だったことについて)米国経済は底堅いと市場が見て取れたことから先週のダウ工業株30種平均は957ドルの大幅上昇であった。
■週明けの15日に発表された中国の7月の各種経済統計(工業生産・社会消費品小売総額・固定資産投資)はいずれも前月を下回る内容であったことや、同日に発表されたNY連銀製造業景気指数(8月)が-31.3(予想:5.0、7月:11.1)と著しく悪化したことを受けて、債券市場は経済減速を織り込むように上昇(利回り低下)した。しかし、株式市場は金利低下をポジティブに受け止めたのか15日の米国株式市場は続伸した。
■日本株は米国のインフレ懸念後退と米国株高を受けて、祝日明けの12日及び15日の二日間で日経平均株価は1,051円上昇し、2万9,000円に迫っている。米国株に対する見方は分かれていることもあり、今後発表される米国経済指標次第という局面にあるようだ。17日:FOMC議事録要旨(7/26-27分)、18日:フィラデルフィア連銀製造業景況指数・中古住宅販売件数(7月)、23日:マークイット購買担当者景況指数、26日:個人消費支出(PCE)物価指数、などがポイントになるだろう。
■日経平均株価の妥当レンジは、コンセンサス予想EPSがプラスとなったことを受けてやや上方にシフトした。それでも29,000円前後が目先の上限と思われる。コンセンサスDI(予想EPSが前週比プラスになった企業の比率)は、今期ベースが60%近くになった一方で、来期は2週続けて50%割れとなった。目先の業績堅調を織り込みつつもグローバルの経済減速を織り込みつつあるようだ。景気悪化から株価が低迷するのか不況下の株高が再び訪れるのかは、FRB次第なのかもしれない。

 

 

 

◇日経平均妥当水準(レンジ)

29,175円~31,463円 (前回28,623円~30,869円)

「IFIS/TIWコンセンサス225」(8月12日)来期予想ベースEPSをもとに算出

◇IFIS/TIWコンセンサス225(8月12日)

今期予想EPS 1824.25 (前週1795.16円)
来期予想EPS 1922.89 (前週1896.88円)
再来期予想EPS 2088.36 (前週2042.39円)
今期予想PER 15.65 (前週15.70倍)
来期予想PER 14.85 (前週14.85倍)
再来期予想PER 13.67 (前週13.80倍)
来期予想PBR 1.12 (前週1.11倍)
来期予想ROE 7.53% 前週 7.47%)
来期予想
インプライド・リスク・プレミアム
7.04% (前週 7.03%)

8月12日経平均終値より、PER、PBR、ROE等を算出

  

 

 

妥当レンジの上方シフトはコンセンサス予想EPSの増加による要因が大きいが、先行きの景況感悪化の可能性を鑑みるならばコンセンサスEPSの増加は頭打ちになる可能性が強いと思われる。日経平均株価が29,000円を上回って続伸するにはインプライド・リスク・プレミアムの改善が求められるが、それには地政学リスクの低下が必要と考えている。

来期予想ベースのプラス企業比率は、 57.0%→52.7%→46.156.2%→44.446.3
再来期予想ベースのプラス企業比率は、55.4%→52.9%→53.8%→63.344.251.9%。
来期ベースは2週連続50%割れ!

[注:例年4~5月は、対象決算期変更の影響があるのでイレギュラーな値になることに留意]

出所:IFISコンセンサスを基にTIW作成

 

 

「IFIS/TIWコンセンサス225」について
IFIS/TIWコンセンサス225」は、株式会社アイフィスジャパンが集計しているアナリストコンセンサス・データ等を原データとして、2009年4月より株式会社ティー・アイ・ダヴリュが東証株価指数(日経225)に対応するように構成銘柄のEPSを算出・集計したものである。今期予想EPS、来期予想EPSの変化を追うことによって、マーケット全体の業績見通しを確認する。
理論上では株価は、自己資本配当率(ROEと配当性向の積)、EPS成長率、無リスク証券の利回り(国債利回り)、リスクプレミアムの4要素で決定される。株価をこれら構成要素に分解することによって、株価変動の要因について考察するとともにファンダメンタルからの妥当な株価(マーケット)水準を思量する。なお、リスクプレミアムを正確に計測することは、一定期間を経た後でないと困難なことであることから、当レポートではインプライド・リスクプレミアム(株価と他の構成要素からの逆算値)を使用している。
4つの構成要素の内、株価の短期的な変動に最も影響を与えるのがリスクプレミアムである。リスクプレミアムは、無リスク証券の金利に対して投資家が要求する上乗せ金利と定義されるが、投資家心理(マーケットセンチメント)、他の投資対象(金融商品)との利回り格差の変動などによって変化する。長期的な見通しの変化が無い中では、インプライド・リスクプレミアムは一定のレンジ内で推移する傾向にある。日経平均株価の妥当水準を算出には、インプライド・リスクプレミアムの一定レンジからの逆算によって行っている。
〔今期予想ベースEPS、来期ベースEPSにおける“今期”、“来期”の取扱い〕
会計上の業績計測期間ではなく、本決算発表を基準とする。例えば、2011年4月30日現在では、2011年3月期は決算発表前であれば今期、決算発表が行われていれば前期、となる。
〔予想EPS増減社数〕
今期ベースならびに来期ベースを示している。週間(週末値)のデータを基に、前週末に比べてEPSが増加・変化無し・減少した企業の数。
〔予想PBR(今期末)〕
前期末BPS(1株純資産)に今期予想EPSを加えて、予想DPS(1株配当)を控除した値(=予想BPS)で株価を除した数値。中間配当は考慮していない。
〔予想ROE(来期ベース)〕
前述の予想BPSで来期予想EPSを除した値。
〔リスクプレミアム〕
特に断りの無い限りインプライド・リスクプレミアムを表す。計算式は、{ 1-予想配当性向×(1-予想B/Pレシオ)}×予想ROE-無リスク証券利回り

 

株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。