12月17日妥当レンジ 28,817円~31,157円
緩和スタンスからの変化、市場の疑心暗鬼は続く

【「IFIS/TIWコンセンサス225」によるマーケットの妥当レンジの推計】

投資のポイント 

<各国中央銀行が緩和姿勢を見直し>
■先週は15日に、注目を集めた米公開市場委員会(FOMC)において、テーパリング(緩和縮小)の加速が予想通り決定された。買入額の減額を月150億ドルから300億ドルに拡大し、22年3月に終了時期を前倒しする。また、同時に公表されたドットチャート(FOMC参加者の金利・経済見通し)において、22年に3回の利上げが示唆された。パウエル議長は利上げについて、「それほど長い時間の遅れはないだろう」と述べており、テーパリング終了後直ちに利上げが行われる可能性が高い。また、利上げの先にある「QT(量的引き締め=FRBのバランスシートの縮小)」に関しても議論が行われた模様であり、ウォラー理事からは「バランスシートの調整を遅らせる理由はない」との発言もでたようだ。
■16日には英イングランド銀行が政策金利を0.15%引き上げて0.25%にすると発表。同日のECB(欧州中央銀行)理事会においても緊急買取制度による新規資産購入を22年3月末で打ち切ると発表された。さらに、17日の日銀金融政策決定会合では新型コロナ禍に対応したCP・社債を買い取る措置(計20兆円を上限)を22年3月末の期限通りに終えることが発表された(ただし、特別オペは9月末まで半年間延長)。
■株式市場は、15日のNYが上昇したことから利上げは織り込み済みとの見方もあったが、結果から見れば売り方の買戻しに過ぎなかった模様。ECBや日銀の決定は予測通りでサプライズは無かったが、イングランド銀行の利上げはサプライズであった。主要中央銀行が一斉に緩和姿勢からインフレ対応に動きつつあることで、インフレの継続性や経済へのマイナス影響などの見通しの修正や見解の交錯が生じることでボラティリティの高い状態が続くと考えられる。他方で、中国は20日に実質的な政策金利である最優遇貸出金利(LPR)を0.05%引き下げた。景気への配慮とみられるが、中国経済への警戒を意識させたことでむしろ株価を押し下げる要因になった。
■日本株はバリュエーション面でやや割安であるだけに自律反発の動きもあるが、米中対立の深化やロシアのウクライナ進行への警戒など地政学リスクも増大しており、楽観論はしばらくは後退するだろう。

 

 

 

◇日経平均妥当水準(レンジ)

28,817円~31,157 (前回28,712円~31,048円)

「IFIS/TIWコンセンサス225」(12月17日)来期予想ベースEPSをもとに算出

◇IFIS/TIWコンセンサス225(12月17日)

今期予想EPS 1642.68 (前週1641.15円)
来期予想EPS 1778.66 (前週1780.45円)
再来期予想EPS 1878.39 (前週1883.38円)
今期予想PER 17.38 (前週17.33倍)
来期予想PER 16.05 (前週15.97倍)
再来期予想PER 15.20 (前週15.10倍)
来期予想PBR 1.19 (前週1.19倍)
来期予想ROE 7.45% 前週 7.42%)
来期予想
インプライド・リスク・プレミアム
6.96% (前週 6.96%)

12月17日経平均終値より、PER、PBR、ROE等を算出

  

 

 

FOMCを通過したことで、利上げ懸念という悪材料の織り込みは進みつつある。米中対立の深化、ロシアのウクライナ進行懸念など地政学リスクは残るものの、一旦は底打ちにあると考える。企業業績見通しから日本株にはバリュエーション面ではやや割安感があることから自律反発の動きが予想される。しかし、今後の世界景気の動向次第では業績見通しが下方に傾くことも懸念されることから日経平均株価が3万円を目指す展開は現時点では見込みにくい。

来期予想ベースのプラス企業比率は、 54.2%→62.459.6%→54.4%→47.547.2
再来期予想ベースのプラス企業比率は、53.2%→65.460.054.3%→48.948.9
2週連続で来期・再来期ともに50%割れ。トレンド変化かどうかを見守りたい。
[注:例年4~5月は、対象決算期変更の影響があるのでイレギュラーな値になることに留意]

出所:IFISコンセンサスを基にTIW作成
いずれも2014年1月から表示

 

 

 

「IFIS/TIWコンセンサス225」について
IFIS/TIWコンセンサス225」は、株式会社アイフィスジャパンが集計しているアナリストコンセンサス・データ等を原データとして、2009年4月より株式会社ティー・アイ・ダヴリュが東証株価指数(日経225)に対応するように構成銘柄のEPSを算出・集計したものである。今期予想EPS、来期予想EPSの変化を追うことによって、マーケット全体の業績見通しを確認する。
理論上では株価は、自己資本配当率(ROEと配当性向の積)、EPS成長率、無リスク証券の利回り(国債利回り)、リスクプレミアムの4要素で決定される。株価をこれら構成要素に分解することによって、株価変動の要因について考察するとともにファンダメンタルからの妥当な株価(マーケット)水準を思量する。なお、リスクプレミアムを正確に計測することは、一定期間を経た後でないと困難なことであることから、当レポートではインプライド・リスクプレミアム(株価と他の構成要素からの逆算値)を使用している。
4つの構成要素の内、株価の短期的な変動に最も影響を与えるのがリスクプレミアムである。リスクプレミアムは、無リスク証券の金利に対して投資家が要求する上乗せ金利と定義されるが、投資家心理(マーケットセンチメント)、他の投資対象(金融商品)との利回り格差の変動などによって変化する。長期的な見通しの変化が無い中では、インプライド・リスクプレミアムは一定のレンジ内で推移する傾向にある。日経平均株価の妥当水準を算出には、インプライド・リスクプレミアムの一定レンジからの逆算によって行っている。
〔今期予想ベースEPS、来期ベースEPSにおける“今期”、“来期”の取扱い〕
会計上の業績計測期間ではなく、本決算発表を基準とする。例えば、2011年4月30日現在では、2011年3月期は決算発表前であれば今期、決算発表が行われていれば前期、となる。
〔予想EPS増減社数〕
今期ベースならびに来期ベースを示している。週間(週末値)のデータを基に、前週末に比べてEPSが増加・変化無し・減少した企業の数。
〔予想PBR(今期末)〕
前期末BPS(1株純資産)に今期予想EPSを加えて、予想DPS(1株配当)を控除した値(=予想BPS)で株価を除した数値。中間配当は考慮していない。
〔予想ROE(来期ベース)〕
前述の予想BPSで来期予想EPSを除した値。
〔リスクプレミアム〕
特に断りの無い限りインプライド・リスクプレミアムを表す。計算式は、{ 1-予想配当性向×(1-予想B/Pレシオ)}×予想ROE-無リスク証券利回り

 

株式会社ティー・アイ・ダヴリュ
独立系証券リサーチ会社TIWのアナリスト陣が、株式市場における時事・トピックスや業界動向など、取材に基づいたファンダメンタル調査・分析を提供するともに、幅広い視野で捉えた新鮮な情報をお届けします。