来年は中国経済の急減速リスクに要注目

2021/12/28

■景気は新型コロナの沈静化で回復中
■新型コロナの第6波への過度な懸念は不要
■米国のインフレと金融引締めへの懸念は小
■中国経済の急減速リスクには要注目

(本文)
■景気は新型コロナの沈静化で回復中
新型コロナが沈静化し、緊急事態宣言が解除されたことで、街中の人出は増えており、景気は回復している模様だ。12月の月例経済報告は「このところ持ち直しの動きがみられる」としており、何より12月の日銀短観は景気の回復印象付けるものとなっている。

業況判断DIを見ると、これまで悲惨であった対個人サービスと宿泊・飲食サービスが劇的に改善しており、最も困っていた人々が一息ついている姿が明確となっている。

製造業も、業況判断DIこそ横ばいだが、今年度の利益の見通しが前回(9月)より大幅に改善されており、製品需給の判断も改善している。利益が増え、製品需給も改善しているのであれば、設備投資の増加が期待できよう。

筆者が注目しているのは、広範囲で労働力不足の認識が強まりつつあることだ。労働力不足が賃金上昇につながって消費が増える事が望ましいが、そこまで行かなくても雇用が増えて労働者の所得が増えて消費が増える事は期待できそうだ。

加えて、省力化投資も期待出来そうだ。これは、景気にプラスであるのみならず、日本経済の低生産性を是正する事にもなるだろう。

このように、何事もなければ来年の景気は自律的に回復していくと期待されるが、リスクの存在が気になる所である。以下では新型コロナの再流行、米国のインフレが招く金融引き締め、中国経済の急減速について考えてみよう。

■新型コロナの第6波への過度な懸念は不要
新型コロナは現状落ち着いているが、海外では新しい変異株であるオミクロン株が流行しつつある。感染力が大変強いようなので、日本でもこれが流行すれば第6波となりそうだ。

日本人は慎重なので、これまでも感染者数が欧米諸国より遥かに少なかったにもかかわらず、経済の落ち込みは同程度であったわけで、仮に第6波が来れば再び経済が大きく落ち込む事が懸念される。

もっとも、楽観的な情報もある。オミクロン株は、感染力は非常に強いが、重症化したり死亡したりする人は多くなさそうなので、それほど怖がる必要は無いかも知れないのだ。

中には「感染力が強いので、世界中のすべての人が感染すれば、全員が抗体を獲得して新型コロナは収束する。その間、重症化する人も死亡する人も少ないだろうから、明るい希望が持てる」という人もいるようだ。そうなって欲しいと祈る気持ちである。

そうならない可能性もあるし、新たな変異株が生まれる可能性もあるので、楽観は禁物だが、過度な懸念も不要だ、といった所だろうか。

■米国のインフレと金融引締めへの懸念は小
米国のインフレ率が高まり、金融政策が引き締めに転換される、と懸念している人は多いようだ。株価は金融政策の影響を大きく受けるので、株式市場の投資家たちが金融政策を気にするのは当然の事であろう。

しかし、金融政策が実体経済に及ぼす影響は株価に及ぼす影響よりも遥かに小さいのが普通であるから、心配する事は無かろう。米国経済が急減速するような厳しい金融引締めが行われる可能性は小さいだろうから、日本経済への影響は限定的だろう。

経常収支赤字国にとっては、米国から流入していた資金が逆流する事で厳しい状況に追い込まれる国も出てくるだろうが、それが世界経済を混乱させて日本経済に影響する、といった事は考えにくだろう。

今年のインフレは資源価格高騰、物流の混乱、部品不足等々に起因する「悪いインフレ」であった。しかし、悪材料が徐々にピークアウトしつつあるため、仮に来年もインフレが続くとしても、それは景気拡大が労働力不足を通じて賃金を押し上げる事に起因する「良いインフレ」となるであろう。

そうであれば、仮に金融政策が誤ったとしてもインフレか不況になるだけで、スタグフレーションに陥る可能性は低そうだ。これも来年を考える際の安心材料と言えるだろう。

■中国経済の急減速リスクには要注目
中国で不動産バブルが崩壊する、と言われ続けて10年以上が経過したが、必ずしもオオカミ少年だったという訳でもなさそうだ。多くの不動産開発企業が資金繰り難に陥っているとも言われる中、中国政府は不動産価格を抑制する必要もあるため、難しい舵取りを迫られているようなのだ。

筆者がもう一つ注目しているのが、最近の中国政府が経済成長よりも中国共産党体制の安定を重視している事である。その過程で、乱暴な手法が目立つのである。

たとえば富裕層に重税を課し、税収を貧困層に分配することで人心を掌握する、という政策であれば、悪影響は限定的であろう。「重税を支払っても十分な金額が手元に残るくらい巨額に稼ごう」と考える人々が起業家精神を高揚させるかも知れないからである。

しかし、ある日突然「お前のビジネスは共産党政権の安定に有害だ」と言われて禁止されたり懲罰的な制裁を受けたりするような事が続くと、ビジネス界の人々が萎縮して起業家精神を失ってしまいかねない。外国資本が逃げ出してしまう可能性もあろう。

政府としては経済成長も重要だと考えているのだろうが、人々が萎縮してしまっては、経済の発展が大きく阻害される事にもなりかねない。

仮にバブル崩壊や人々の起業家精神喪失等によって来年の中国経済が急減速するような事になれば、日本経済への影響は大きなものとなるだろう。もともと内需が弱い上にインバウンドが期待できない現状では、輸出が頼りであるのに、最大の輸出相手国の経済が急減速してしまうようでは、日本経済も腰折れしかねない。リスク要因として要注目である。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

(12月27日付レポートより転載)

TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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