公共投資の景気浮揚効果は過小評価されている

2021/09/06

■景気が悪い時は財政出動で景気を回復させる
■公共投資と減税には一長一短あり
■「公共投資は無駄だ」は誤解
■公共投資はカンフル剤に過ぎない?
■大不況時の公共投資は効きが悪いが必要
■景気は税収という金の卵を産む鶏
■少子高齢化による労働力不足には留意の要

(本文)
■景気が悪い時は財政出動で景気を回復させる
景気が悪い時は、政府が公共投資や減税によって景気を回復させようと頑張る。景気が悪い時は失業者が多く、これを減らすことが政府の重要な政策目標となるからである。

景気の悪化を放置すると、売れないから作らない、だから雇わない、雇われないから収入がない、だから買わない、といった悪循環に陥って失業者が増え続けてしまうかも知れないので、真剣である。

不況期は税収が減るので景気対策は赤字国債を発行して実施されることになる。したがって、財務省が難色を示すため、財務省との綱引きで景気対策の規模が決まる場合も多いようであるが。

■公共投資と減税には一長一短あり
財政政策には、公共投資と減税があり、日本では公共投資が多く、米国では減税が多いようであるが、どちらも一長一短と言えよう。

公共投資は、政府の資金で橋や道路を作り、そのために失業者を雇うわけであるから、失業者が減る効果は必ずある。失業者が受け取った給料で酒を買えば、それが酒造メーカーの生産を増やして雇用を増やす、といった事も期待できる。これを「乗数効果」と呼ぶ。

しかし、公共投資によって作られた橋や道路が、必ずしも国民の役に立つとは限らない。むしろ、山奥に誰も使わない道路が作られている、といった批判は多い。景気対策は急いで工事をする必要があるので、必要な道路よりも用地買収が容易な田舎の道路が優先される、といった事もあるのかも知れない。

一方、減税であれば、減税によって増えた消費や投資は、支出した人が必要だと考えて支出しているわけであるから、必ず役に立つわけだ。不要なものを買う人はいないから(笑)。

もっとも、減税が消費や投資の増加につながるとは限らない、という問題はある。所得税減税等が消費にまわらずに貯蓄に回って仕舞えば、景気刺激効果は無いわけだ。

設備投資減税等の場合も同様だ。「設備投資をしたら法人税を減額する」と言われても、設備投資をするのが「減税がなくても設備投資をする予定だった企業」だけであれば、設備投資減税の景気浮揚効果は無いわけだ。

■「公共投資は無駄だ」は誤解
筆者は公共投資を高く評価しているので、以下はそうした立場から書かれている事を承知した上で読んで欲しい。

公共投資は無駄だという人がいるが、それは誤解である。誤解の理由が二つあると筆者は考えている。一つは、無駄な道路が散見されることであり、もう一つはバブル崩壊後に巨額の公共投資が行われたのに景気が回復しなかった事である。

無駄な(有用性の小さい)道路が多いのは、上記のように、筆者も認めざるを得ない。しかし、公共投資の景気刺激効果は道路が使われようと使われまいと同じなのである。ケインズは「景気が悪い時は穴を掘れ」と言ったようだが、それと比べれば有用性の小さい道路を作る方がマシであろう。

バブル崩壊後に景気が良くならなかったのは確かだが、あれだけ大きなバブルが崩壊したのだから、公共投資を行わなければ大恐慌になっていたはずで、公共投資には大恐慌を防ぐ効果があった、と筆者は考えている。

理科系ならば実験室でバブルを100回崩壊させてみて、公共投資をやった場合とやらなかった場合を比較してみる事が可能かも知れないが、生きた経済では実験が出来ないので、これについては公共投資を高く評価している筆者と高く評価していない論者の間で水掛け論になるだけであるが。

■公共投資はカンフル剤に過ぎない?
公共投資はカンフル剤にすぎない、という論者もいる。公共投資が景気を回復させる効果は認めるものの、翌年に公共投資をしなければ公共投資額が前年比マイナスとなり、景気に悪影響が生じるので、結局のところ公共投資には一時的な効果しかない、という論者である。「マッチで部屋を暖めることはできない」という論者も同じことを言いたいのだろう。

しかし、筆者はそうは考えない。景気が悪化している時には「売れないから作らない、だから雇わない、雇われないから収入がない、だから買わない」といった悪循環が生じているのを、公共投資によって「売れるから作る、だから雇う、雇われたから収入があった、だから買う」とった好循環に方向転換させる効果を公共投資に期待しているからである。

「マッチで部屋を暖めることは出来ないが、マッチでストーブに火をつければ、部屋は温まる」というわけだ。

■大不況時の公共投資は効きが悪いが必要
バブル崩壊後の公共投資について、補足しておくと、大不況時の公共投資は効きが悪いのだ。大不況時は、公共投資で雇われた人が「工事が終わったら再び失業するだろうから給料は貯めておこう」と考えるだろう。

仮に酒を買ったとしても酒造メーカーは大量の「社内失業者」を抱えているだろうから、売り上げが少し増えたくらいでは新しく労働者を雇う必要はないし、まして新しい酒蔵を作るといった設備投資も不要であろう。

これは、大火事の時にコップで水を撒いても効きが悪い、というのと同じである。だから水撒きが無駄だ、というのではなく、もっと大量に撒く必要があるのだ。

■景気は税収という金の卵を産む鶏
財務省批判をしておこう(笑)。財務省は、景気対策の財政出動に予算を使うことに反対するが、景気対策で景気が良くなれば税収が増えるので、結局は財務省の望む財政再建につながるわけだ。

景気が良くなると、人々の所得が増えるため、累進課税である所得税は大幅に増えるはずだ。法人税も大きく増えることが期待される。景気回復初期には、売り上げが増えても企業が社内失業者の尻を叩くだけで新しく人を雇う必要がないので、固定費が増えない。

つまり、景気回復初期は売り上げマイナス変動費がそっくり利益の増加に貢献するわけである。それに法人税率を掛けた金額が法人税の増収となるわけだ。

景気が良くなると失業が減るので、失業手当の支払いが減るし、生活保護の受給者も減るだろう。景気回復は支出減の面からも財政再建に貢献するわけだ。

余談であるが、筆者は財務省で研修講師を務めているが、毎回この話をしている。それでも講師に使ってくれている財務省の心の広さに感謝である(笑)。

■少子高齢化による労働力不足には留意の要
公共投資の景気回復効果について論じて来たが、留意を要するのが少子高齢化による労働力不足の影響である。アベノミクスで公共投資の予算が積み増されたにもかかわらず、建設労働者の不足で工事が出来なかったという事例が多数見られたからである。

新型コロナ不況が終わった後は、再び労働力不足の時代が来るかもしれない。そうなると、公共投資をしたくても出来ない、という事も考えられるわけである。

もっとも、悲観する必要はない。労働力不足の時代ということは、失業者がいない時代ということなので、そもそも失業対策の公共投資が不要だ、とも考えられるからである。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

(9月3日付レポートより転載)

TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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