景気と株価の関係を考える
■株価は景気の先行指標
■景気回復初期には、人々の期待は最低、増益率は最高
■景気回復後半には、人々の期待は高まり、増益率は低下
■金融引締めは株価押し下げ要因に
■株価が景気を動かす因果関係は弱いはず
(本文)
■株価は景気の先行指標
株価は景気の先行指標と言われている。内閣府の景気動向指数でも、先行指数の計算に株価が用いられている。もっとも、これは因果関係として株価上昇が景気を回復させるという事ではないだろう。
株価が鉱工業生産等の景気指標よりも先に動くのは、人々が景気の先行きを予想して株式投資をするからであり、企業収益が生産等と比べて早めに動くから、という事でもあるのだろう。
景気のボトムでは、景気回復より先に金融緩和を材料とした買い注文が入るから株価の方が先に動く、といった事もありそうだ。
「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観と共に成熟し、幸福のうちに消えて行く」というのは著名な投資家であるテンプルトンの言葉であるが、これも株価が景気の先行指標であるという事を示すものだろう。
株価予想屋たちが景気の話をするのは、景気が株価に影響するからである。これを聞くと、景気予想屋の方が株式投資が上手いのではないかと思ってしまうが、景気予想屋が株で大儲けしたという話はあまり聞かない。
要するに、景気予想屋の景気予想は株式投資家の景気予想と精度が違わない、という事なのかも知れない(笑)。
あるいは、景気予想屋は主にGDP成長率を予想するので、鉱工業生産を予想しているのに近い。企業収益の方が生産より先に動くとすれば、それは株価を予想するには不適切なのかも知れない(泣)。
■景気回復初期には、人々の期待は最低、増益率は最高
景気回復前に景気回復を予想するのは、容易な事ではない。景気が下を向いている時は、「売れないから作らない、作らないから雇わない、雇われないから所得がなくて買えない」といった悪循環に陥っているからである。
しかし、景気のボトム付近では、株価は大幅に下がっており、「いつか景気が回復するだろうから、この水準なら買って持っていれば儲かるだろう」といった買い注文が入り始めるかも知れない。
もしかすると、「金融が緩和されているから株価に好影響が出るかもしれない」といった買いも入るかもしれない。金融緩和の株価押し上げ効果は、理屈上はそれほど大きくないはずなのだが、人々が「金融緩和は株価上昇要因だ」と考えている以上、美人投票の世界に於いては実際に株価を押し上げる可能性もあるからだ。
こうして、景気が底を打つ頃には、場合によっては底を打つ少し前から、人々が悲観の真っ只中にいる時に株価は上昇を始めるのである。
そして、人々が景気の回復を予想していない時に、景気が底を打ってわずかに回復したとする。前期の利益水準が低いために増益率は大きなものとなるはずで、人々は大いに驚くだろう。株にも買い注文が入るはずだ。景気には悲観的だが、なぜか良い決算が出たのでとりあえず買っておこう、というわけだ。
■景気回復後半には、人々の期待は高まり、増益率は低下
景気が回復を続けても、人々が景気に強気になるには時間がかかる。景気回復初期には良いデータと悪いデータが混在しているので、すっかり弱気になっている人々が景気の見方を変えるほどのインパクトは無いからだ。
人々が景気回復に懐疑的である間にも、景気自体は着実に回復し、企業収益も高い増益率を維持するはずだ。景気が本当に回復し始めたのか、回復を続けるのか、皆が懐疑の目で見ている時に株価は上昇を続けるのである。
景気が更に回復を続けると、人々もようやく景気回復の持続力を信じるようになり、株価は順調に上昇していくはずだ。しかし、それはいつか終わる時が来る。
景気が力強さを増すとともに、人々は更なる景気拡大を確信し、更なる株価上昇を期待するだろうが、景気の拡大とともに増益率は下がって行くからだ。前期の利益が大きいという事もあるが、人件費等々のコストも上昇していくだろうし、生産能力の制約から売り上げが増やせない企業も増えて行くだろう。
■金融引締めは株価押し下げ要因に
景気拡大の終盤には、インフレが懸念されるようになって中央銀行が金融を引き締めるはずだ。金利の上昇は企業の借入コストを増やすのみならず、投資家にとっても「配当利回りより預金金利の方が魅力的」になってくるかも知れない。
そして何より、金融引き締めは株価押し下げ要因だと投資家たちが考えている事が重要である。
じつは、理屈上は金融引き締めの株価押し下げ効果はそれほど大きくないはずなのであるが、株価は美人投票の世界なので、投資家たちが「金融引締めは株価押し下げ要因だから株を売ろう」と考えると実際に株価は下がるのである。
■株価が景気を動かす因果関係は弱いはず
株価が景気の先行指標だと聞いて、株価に景気を動かす力があるのかと思った読者もいるかも知れない。たしかに、株価が上がれば株高で儲かった投資家たちが贅沢をするかも知れない。「資産効果」である。しかし、そうした力は小さいはずだ。
大金持ちは株が上がったから贅沢をする、という事はないだろう。庶民は少しは贅沢をするかも知れないが、投資額が小さいので儲けも小さく、贅沢もささやかなものだろう。
特に、日本人は個人の株式保有が少ないので、資産効果は小さいと言われている。実際、アベノミクス以降の株価上昇でも、ビールのプレミアムモルツが売れた以外には、目立った効果は無かったように記憶している。
最近の株価上昇でも、贅沢消費が盛り上がっているという話は聞こえてこない。日本人は心配性だから、株で儲かったら老後のために貯金しておこう、という人が多いから、という事もありそうだ。
本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。
(8月13日付レポートより転載)