景気予想屋と株価予想屋の違いを考える

2021/07/21 <>

■景気を語る人に4種類あり
■経済学者は理論を現実より重視
■トンデモ屋は優れたビジネスモデルだが
■景気予想屋は多くの経済指標を幅広く見る
■株価予想屋は限られた物をしっかり見る
■反応の迅速さと拙速
■金融政策を語るのは株価予想屋

(本文)
■景気を語る人に4種類あり
世の中には、景気について語る人が大勢いる。「自分の会社が儲かっている」ことを景気が良いと表現する人もいるが、本稿では日本経済の景気について公に語る人々について考えることとしたい。

筆者なりに分類すると、景気について公に語る人は経済学者、景気予想屋(筆者はここの末席)、株価予想屋、トンデモ屋の4種類である。

■経済学者は理論を現実より重視
経済学者は、現実より理論が大事だと考える人々で、「一物一価の法則」などと平気で口にする。「現実はともかく、理屈で考えれば世界中のリンゴの値段は同じになるはずだ」などというわけだ。

彼らは景気予想屋の事を「経済学理論を知らない勘ピューター」だと思っているのだろうが、我々は彼らの事を「理路整然と間違える人々」だと思っている(笑)。

■トンデモ屋は優れたビジネスモデルだが
景気予想屋と株価予想屋については後でゆっくり論じるとして、トンデモ屋はたとえば「大恐慌が来る」と言い続けているような人である。

彼らのビジネスモデルは良くできていて、固定客が存在しているし、話は面白いし、何より予想が外れても誰も怒らない。そもそも彼らの話は予想ではなくストーリーだからである。時々大不況が来るだろうから、その時には、「私が以前から予想していた通り、大不況が来た」などと言えば良いのだ。

筆者も、トンデモ屋の方が景気予想屋より得だという事は知っているが、まだ自尊心が邪魔しているのでトンデモ屋になるのは難しそうだ(笑)。

■景気予想屋は多くの経済指標を幅広く見る
景気予想屋は、文字通り景気を予想する人々である。景気は大きな流れなので、幅広い経済指標をじっくり観察して、流れが変化しそうか否かを考えるわけである。

景気は自分では方向を変えない。景気拡大時には所得が増えるから消費が増え、消費が増えると企業が生産を増やし、そのために人を雇うので労働者の所得が増える、といった好循環(景気後退時には悪循環)が生じるからである。

したがって、景気が方向を変えるか否かを考える際には、財政金融政策が景気の方向を変えるか、海外経済が国内の景気の方向を変えるか、を考えることになる。

■株価予想屋は限られた物をしっかり見る
株価予想屋は、景気自体に興味があるというよりは、投資家たちが経済指標にどう反応するかに興味がある。株価を決めるのは景気それ自体ではなく、投資家たちの反応だからである。

したがって、株価予想屋は、他の投資家たちが注目しているものに神経を集中する。たとえば米国の雇用統計は大いに注目されているので、雇用統計については詳細に検討して予測を立てる。一方で、たとえば鉱工業生産については、他の投資家が注目していないので、自分も注目しない。

鉱工業生産について懸命に作業して予測して当たったとしても、その日に他の投資家たちが鉱工業生産の発表を見なければ株価は動かず、自分の努力が無駄になるからである。

景気予想屋にとっては、どちらも同じくらいの重要度なのであるが、株価予想屋にとっては重要度が全く異なる、というわけだ。株価は美人投票の世界だが、景気は違うから、というのがその理由である。

■反応の迅速さと拙速
景気予想屋と株価予想屋の大きな違いがもう一つある。それは、反応速度の違いである。景気予想屋は「経済指標は振れるから、数ヶ月分の指標をじっくり観察して景気の大きな流れが変化しつつあるのか否かを考えよ」と教育されるが、株価の予想屋はそんな事をしていたら株価が動いてしまうので、経済指標に一喜一憂する必要がある。

したがって、景気予想屋は株価予想屋を「雨が降り始めると洪水を心配し、雨が止むと水不足を心配する人々」と批判するが、株価予想屋は景気予想屋を「堤防が決壊してから洪水が心配だと予想する人々」と批判するのである。

■金融政策を語るのは株価予想屋
筆者は景気予想屋であるが、株価予想屋と比べてどちらが優れているといった話をするつもりはない。目的に応じて使い分ければ良いのである。筆者自身も、趣味で株の短期売買をやっているので、その際には株価予想屋の話を参考にする。

読者も、短期の株式投資を考える際には株価予想屋の話を参考にすれば良いだろう。しかし、会社が材料の仕入れ量を検討したりする際には景気予想屋の話を聞いて欲しい。

両者の見分けがつかないという読者も多いだろうが、簡単なことだ。金融政策を詳しく論じるのは株価予想屋、金融政策にほとんど触れないのが景気予想屋である。

金利が0.25%上下したからといって設備投資を増減させる企業経営者はいないだろうし、ましてゼロ金利下で金融が追加的に緩和されても企業経営者は全く興味を示さないだろうが、金融政策が変更されれば株価は大きく動くからである。

筆者自身、景気を考える際には金融政策のことは殆ど考えない。かつては景気を考える際にも、金融政策の変更が為替レートに与える影響を考え、それが輸出入に与える影響を考えたものだが、最近は為替レートが輸出入数量に与える影響が小さくなってきたので、それも余り必要なくなってしまった。

しかし筆者も、趣味として株式投資を行なうに際しては、金融政策について真剣に考える。それが儲けを追求するために有効な手段だからである。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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