来年の景気はコロナ慣れで順調に回復 -客員エコノミスト 〜塚崎公義 教授 –

2020/12/25 <>

■未知の脅威に身を縮めた今年の経済
■既知の脅威へと変容中
■消費者は金を持っている
■インバウンドは無いがアウトバウンドも無い
■需要回復まで旅館等を延命する必要
■ウイルスの強毒化等のリスクには要注意

(本文)
■未知の脅威に身を縮めた今年の経済
今年の世界経済は、未知の脅威である新型コロナによって極めて大きな打撃を受けた。欧米では、流行が深刻であり、都市封鎖なども行われたので経済が打撃を受けたことも当然であった。

日本においては人口あたりの感染者数が欧米諸国の数十分の1という状況であったのに、同じように経済に極めて大きな打撃を受けることとなった。なぜ感染者数が少なかったのかも謎であるが、なぜ同じように大打撃を受けたのか、というのも謎である。

筆者の想像では、日本人は悲観的に物事を考える傾向があってリスク回避志向なので、しっかりと自粛をしたのだろう。そのために、感染は拡大しなかったが、経済は大きな打撃を受けたのだ、と思っている。あくまでも想像であるが。

当初はどんな感染症なのかもわからず、予防法も治療法も確立しておらず、とにかく身を縮めて災難が我が身に降りかからないように静かにしているしかなかったため、影響が甚大なものとなったという面もあっただろう。

マスコミや評論家等は「悲観的な事を強調し、恐怖を煽ることで顧客の関心を惹こう」とする傾向があるが、今回もそうしたマスコミ等の影響によって必要以上に人々の恐怖心が増幅され、経済の落ち込みが増幅したという面もあっただろう。

余談であるが、筆者は経済評論家の末席を汚す身ながら、いたずらに悲観的な事を強調して恐怖を煽ることを潔しと考えていない。筆者が客の関心を惹かない一因は、そこにあるのだろうと思っているが、それは仕方なかろう。

■既知の脅威へと変容中
時間の経過とともに、治療法は確立されつつあるようで、患者数に対する死者数の割合は各国で着実に低下してきている。予防法についても各種ワクチンが開発され、運用され始めており、これが効果を発揮することが期待される。

加えて、我々の意識も変化しつつあるはずだ。何といってもどんな感染症であるかが理解できてきた事が大きい。「3蜜を避ける等の対策をしっかり行えば、簡単には罹患しなそうだ」「基礎疾患のある高齢者を除けば致死率は決して高く無い」といった事がわかって来たわけだ。

そうであれば、消費者としての我々の行動も、変化してくる事が期待される。いたずらに新型コロナを恐れるのではなく、危険な場所に行かず、3蜜回避や手洗い、マスク等の対策をしっかり行った上で、旅行にも飲食店にも出かけて良い、という意識が消費者に定着して来るであろう。

最終的には「危険度の高いインフルエンザのようなもの」といった認識が共有されるようになると期待される。インフルエンザでも基礎疾患のある高齢者は亡くなるわけだから、それと大差ない、というわけだ。

マスコミや評論家が煽っても顧客の関心を惹かないようになっていけば、それこそが「コロナ慣れ」と言えるのかも知れない。

■消費者は金を持っている
感染の第三波が来ても、政府はGo To キャンペーンを(一時的に中止したものの)やめない模様だ。これは、政府自身が「旅行や飲食に行っても良い」という「お墨付き」を国民に与えるものだ。

そうであれば、消費者はいたずらにコロナや自粛警察を恐れることなく、次第に従来の生活に戻っていくであろう。何といってもリーマン・ショック等と異なり今次局面では多くの人々が「金を持っているのに、コロナや自粛警察が怖くて使えない」という状況だからである。

旅行や飲み会が完全に戻る事は無かろうが、一方で「我慢疲れ」も出て来るだろうから、たとえば「高級食材を使って家飲みをする」といった機会も増えるだろう。

■インバウンドは無いがアウトバウンドも無い
海外では日本国内と比較にならないほど新型コロナが猛威を奮っている。よほどワクチンの効果が大きければ別であるが、「海外からの旅行者を受け入れよう」という事になるまでには長い時間がかかりそうである。

したがって、「インバウンド消費」は当分の間は戻らないと覚悟しておくべきであろう。しかし、過度な懸念は不要である。物事には表があれば裏があるからである。

外国人が日本に来て消費をする事は望めないが、日本人が海外旅行で金を使う事もなさそうだ。そうだとすれば、その分を国内旅行に使うか「高級食材を使った家飲み」に使うか、といった国内消費が期待されるであろう。

■需要回復まで旅館等を延命する必要
上記のように、予防法や治療法が次第に確立していき、人々が「コロナ慣れ」によっていたずらに恐怖を感じて自粛する事が少なくなって来ると、旅館等の客も戻って来るであろう。問題は、それまで旅館等が倒産せずに残っていられるか、という事である。

ひとたび倒産してしまえば、建物が取り壊されたり蓄積されたノウハウや顧客リスト等が雲散霧消したりしてしまうだろうから、需要が戻ってもサービスが再開できない事になりかねない。

政府としては、是非とも需要が戻るまでの間、旅館等の資金繰を支えて欲しい。国民全員に10万円を配るよりも、ピンポイントに困っている事業者の資金繰を支えるために金を使って欲しい。

■ウイルスの強毒化等のリスクには要注意
上記のように、筆者は来年の日本経済に明るい展望を抱いている。ただし、それは条件付きの展望である。新型コロナウイルスが突然変異によって、感染力を高めたり毒性を強めたりすれば、人々は再び新型コロナを「未知の感染症」並みに恐れることにもなりかねない。

そうした事が起きない事を願いつつ、本稿を終えることとしたい。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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