今の株価はバブルなのか考えてみた

2020/09/01 <>

■通常の「不況期の株高」とは異なる様相
■バブルには2種類ある
■買い上がっていくバブルとは異なるが・・・
■「今回だけは違う」という人は出て来ていない
■株価が高くても金融が緩和され続けている
■初心者の大量流入については微妙
■部外者は醒めている模様

(本文)
■通常の「不況期の株高」とは異なる様相
「不況期の株高」という事自体は、珍しいことではない。一つには、金融が緩和されると、金利が低下するので、「預金をして金利を稼ぐよりも株を買って配当を受け取った方が有利だ」という理屈が成り立つからだ。

もっとも、ゼロ金利下の金融緩和ではこうした効果は見込まれないから、今回はこれには該当しないだろう。

景気のレベルは不況でも、財政金融政策等によって景気が底打ちする事が容易に予測でき、株式市場参加者は景気回復後の収益回復を先取りして株を買い急いでいる、という場合もあるだろう。

しかし今次局面においては、景気の回復は相当緩やかなものに止まると予想されており、新型コロナ以前の株価と同水準の株価を正当化するような景気回復は見込まれていない。

通常の不況下の株高ではないとすると、ファンダメンタルズ(実体経済等)と株価の乖離をどう説明すれば良いのであろうか。一つの可能性としてバブルである、という可能性について考えてみたい。

■バブルには2種類ある
バブルというのは、株価等がファンダメンタルズから大きく乖離していく事を指す。要するに、株価が経済の実態等から考えて高すぎる状況のことである。

バブルというと、誰もが株価が高すぎると知っているのに、強欲な投資家たちが「明日は今日より高いだろうから、今日買って明日売れば儲かる」と考えて買い上がっていくマネーゲームを想像する読者も多いだろう。

しかし、そうしたバブルは過去のものである。誰もがバブルだと知っているならば、政府と中央銀行が原則としてバブルを潰してしまうからである。例外として、たとえばビットコインは旧来型のバブルだと筆者は考えているが。

最近のバブルのほとんどは、人々がバブルだと思っていない(バブルか否かわからない)うちに膨らんで、政府や中央銀行も潰すタイミングを失ってしまうというものである。

その意味では、グリーンスパン氏の名言「バブルは崩壊してはじめてバブルだとわかる」は最近のバブルの特徴をよく捉えたものだと言えるだろう。

そうだとすると、グリーンスパン氏に判別できないものを筆者ごときが判別しようとする拙稿はまことに僭越だという事になるが、よろしければお付き合いいただきたい。

■買い上がっていくバブルとは異なるが・・・
通常のバブルは、実体経済とかけ離れた水準まで株価が上がって行き、ある時暴落する、というものである。しかし、今回はそうではなく、実体経済が落ち込んでいるのに株価が落ち込まないために経済実態と株価が乖離している、という状況である。

乖離している事には違いないので、暴落の可能性は当然あるわけで、その意味では「バブルではない」と言う事は出来ないだろう。

もっとも、通常のバブルが暴落で終わるのに対して、今回がもしバブルであったとしても暴落しない可能性もある。景気が回復して実体経済が株価に追いついて来るまで金融緩和が続くかも知れないからである。

このように従来のバブルとは様相を異にしているため、現状がバブルであるのか否かを判定することは一層困難だと思われるが、以下で試みてみたい。

用いるのは、「筆者がバブルか否かを判定するために使っている4条件」である。

ちなみに、一部の銘柄についてはバブルの匂いがキツイものもあるが、以下では市場全体の平均株価について考えてみたい。

■「今回だけは違う」という人は出て来ていない
バブルの時には、「こんな高値はバブルかも」と心配する人が出て来るが、それを否定する「理論」も出て来る。「今回だけは違う」という理論である(笑)。

平成バブルの時には「日本経済は米国に勝った。日本経済は世界一で、21世紀は日本の時代だ」という陶酔感が日本中に漂っていたので、「それなら地価や株価が高いのは当然だ。バブルでは無いだろう」ということだったのである。

今から考えると「どうしてあんな高値で買った人がいるのだろうか」と不思議かも知れないが、当時は日本経済を動かしているような賢い人の中にも自宅を買った人が大勢いたのである。

バブルだと思えば自宅は買わないはずだ。バブルが崩壊してからゆっくり買えばよいのだから。しかし彼らは「急いで買わないと一生買えない」と考えて急いで買ったのである。

米国のITバブルの時も、「ITは夢の技術だから、IT関連の株価が高いのは当然だ」と考えて買っていた人が多いのである。

ところが今回は、株価が下がらない理由として「金融緩和が続きそうだから」という従来通りの説明がなされているだけである。単なる美人投票がバブルに発展する可能性もあるが、従来の典型的なバブルとは異なるようである。

■株価が高くても金融が緩和され続けている
通常、バブルが発生しそうな時には景気が良く、インフレが懸念され、中央銀行が金融を引き締め、それによってバブルの芽は拡大せずに潰れていく。しかし、バブルが拡大する時には何らかの事情で金融が緩和されたままになるのである。

平成バブルの時には、プラザ合意による円高の影響で物価が安定していた。したがって、景気は過熱気味であったけれども日銀は引き締めのタイミングを逸したのである。

バブルだと確信できればバブル潰しも考えたのであろうが、確信が持てない時に金融を引き締めて株価を引き下げる事は難しい。人々がハッピーな時に冷水をあびせるには、それなりの説得力のある理由が必要だからである。

まあ今回は、景気が過熱しているわけでは決してなく、事情が違いすぎるので、この条件は判定には用いない事とせざるを得ないが。

■初心者の大量流入については微妙
バブルの時には、今まで株式投資に全く興味を示していなかった初心者が大挙して参入して来るので、要注意である。平成バブルの時のNTT株がそれを助長した事は象徴的であった。

今回、日本では証券会社の口座数が増えたようだが、暴落時に積立投資を開始したという人も多いようなので、これも事情が異なるかも知れない。

ただ、米国ではロビンフッドなるアプリを利用した投資が初心者の間で広まっているようであり、若干バブル的な匂いはしているのかも知れない。

井戸端会議から戻った奥方(あるいはご主人)が、隣の初心者が株で儲けた話を聞いて「株って簡単なんだ。私もやってみようかな」と言い始めたら、ご主人(あるいは奥方)は持っている株をすべて売却するべきだが(笑)。

■部外者は醒めている模様
平成バブルの時には、諸外国では日本がバブルだという認識があり、醒めた目で眺めていたようである。

米国のITバブルの時には、各国のIT関連株も上がっていたが、それでも諸外国には醒めた人も多かった。おそらく株式投資家以外は醒めていた、という事なのだろう。

筆者の周りの調査関係の人でも、「米国に出張するとIT信仰熱に感染するから出張したくない」という人が多かったような気がする。

今回は、世界同時金融緩和で世界同時バブルが疑われる状況であるが、投資家とそれ以外というわけ方をすれば、やはり醒めている人が多いようだ。その意味では、やはり「当事者が盛り上がってパーティーに興じている」というバブル的な要素も否定できまい。

以上、4条件に照らすと、現状がバブルか否かは微妙だ、という事になりそうだ。まあ、バブルだとしても冒頭に記したように株価が暴落するとは限らないわけだが、可能性が否定できない事は頭の片隅に留めておきたい。一部の銘柄については、言うまでもないが(笑)。

ちなみに、バブルだとしても小遣いの範囲でバクチと割り切って遊ぶ分には構わない。バブルというのは定義からして上限が決められないわけだから、更に値上がりしていく可能性を楽しむ事は可能であろう。もっとも、筆者は投資を勧めているわけではないので、あくまでも投資をする場合には自己責任でお願いしたい。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。最後に、当然ではあるが、投資は自己責任でお願い致したい。

(8月31日発行レポートから転載)

TIW客員エコノミスト
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