新型コロナ不況はリーマン・ショックより厄介

2020/05/13

■リーマン・ショック不況はアクセル全開で解決
■新型コロナ不況は自粛の強度の調節が困難
■需要を喚起する方法が見当たらず
■最重要なのは倒産の回避
■落ち込みが急だが回復も急だと期待

(本文)
■リーマン・ショック不況はアクセル全開で解決
リーマン・ショックは、深刻な不況であったが、単純であった。バブル崩壊で金融機関が痛み、金融仲介機能が麻痺して実態経済が痛んだ、という従来型の金融危機であったので、対応方針が立てやすかった。

とにかく金融機関を健全化して金融仲介機能を回復させること、大胆な金融緩和で大量の資金を市場に供給すること、大胆な財政金融政策で需要を回復させること、を思い切って行えば良かったのである。

喩えるならば、従来より大きな怪獣が現れたので、手持ちの武器を全部使って全力で攻撃して撃退した、というイメージである。

■新型コロナ不況は自粛の強度の調節が困難
一方、新型コロナ不況は、未知の病との闘いであるため、対応方針が立てにくい。自粛要請が有効である事は疑いないが、どこまで自粛すると被害がどれだけ縮小し、どこまで緩めると被害がどれだけ再拡大するのか、わかっていない。

「それならば一方で、「全力で自粛すれば良い」というものでもない。そんな事をしたら経済が死んでしまうからである。

政策決定は非常に難しい。自粛が足りないと新型コロナ感染が拡大してしまうが、自粛しすぎると経済へのダメージが大きくなる。しかも、丁度よい自粛のレベルは誰も知らないのである。

為政者の中には、保身を考える人がいるかも知れない。その場合には、自粛を強く促すかも知れない。自粛が足りなければ感染が拡大して自分が批判される事は確実だが、自粛しすぎて経済が大混乱しても「自粛が足りなければ感染が拡大していた筈だ」と言えば責任回避が出来るからである。

日本の場合には、不幸中の幸いとして、欧米諸国が先に「実験」をしてくれているので、それを見ながら政策決定が出来る、というのは明るい材料と言えるだろうが。緊急事態宣言が延長されたのは、保身のせいではないと信じているが、感染症の専門家の話を重視する一方で、深刻な売上減に悩む人々や自粛のストレス等で体調を壊している人々等の話を同じくらい聞いて欲しかった、という点は残念である。

■需要を喚起する方法が見当たらず
リーマン・ショックの時には、人々が金がなくて消費や投資が出来なかったので、減税や公共投資などで需要を喚起する事が可能であった。

しかし今回は、人々が「外出出来ないので消費出来ない」わけであるから、減税や現金給付によっても需要を喚起する事は出来ないのである。公共投資は大いに実施すべきと筆者は考えるが、政府は感染拡大を恐れて及び腰のようだ。

そうなると、新型コロナの収束宣言が出るまでは、景気の底支えは無理だという事になり、倒産しそうな企業の資金繰りを支援して倒産を防ぐ事に集中するしかない、という事になりそうだ。

■最重要なのは倒産の回避
景気が回復を始めるまで倒産せずに生きている会社は、立ち直る事が可能だろうが、倒産してしまえば従業員は失業し、持っている設備機械がスクラップ用に叩き売られ、企業のノウハウや信用や顧客リストなどが雲散霧消してしまう。これは当事者にとってのみならず、日本経済にとって大きな損失である。

ついては、政府に是非、中小企業の資金繰りを支援していただきたい。たとえば「企業が従業員から源泉徴収した税や社会保険料等の納付を1年待つ」ことで、実質的に政府が企業に融資したのと同じ効果が得られることになる。

この場合、条件を付けると審査に時間がかかるので、条件をつけずに全ての企業の納付を待てば良い。政府にとって、税と社会保険料が今年納められても来年収め納められても大した差は無いからだ。

「昨年度の申告所得の半額を上限に金利3%で無条件に融資をする」という選択肢も検討して欲しい。昨年の所得を過大に申告している会社や自営業者はいないだろうから、制度を悪用する事は難しいだろう。

もちろん、銀行に対して中小企業向け融資を引き揚げない事などを要請する事も重要である。融資残高を維持してくれたら、将来中小企業が倒産した時の銀行の損失を一部政府が補填する、といったインセンティブを与えても良いかも知れない。

■落ち込みが急だが回復も急だと期待
明るい材料は、今回の不況はひとたび新型コロナの収束宣言が出た後の回復が急だろう、という事である。リーマン・ショックの時は、人々が金がなくて消費が出来なかったわけだが、今回は人々が金を持っているわけだから、自粛さえ解除されれば一気に消費が戻ると期待されよう。

設備投資に関しても、リーマン・ショックの時には銀行の貸し渋りに遭ってトラウマになった企業が「借金をして設備投資をする」事に抵抗を感じていたが、今回はそういう事もなさそうだ。

もちろん、リスクとしては倒産の増加等によって失業者が増えて所得の減少から消費が減少したり、銀行の不良債権増加によって金融危機が発生する可能性もが否定できない。いので、

というわけで、過度な楽観は禁物だが、明るい希望が持てるという事を心の支えに危機に臨む、という事は出来るだろう。

株式市場が意外なほど早くに安定を取り戻しているのも、そうした明るい希望が背景にあるのだと思われる。是非、そうなって欲しいものである。

繰り返しになるが、政府は感染症の専門家の話ばかり聞くのではなく、経済関係の人々等の話もしっかり聞いた上で、感染拡大リスクと倒産増加リスク等のバランスを考えて、自粛要請の緩和を検討していただきたいものである。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

(5月11日発行レポートから転載)

TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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