貸し渋りされたら他行から借りる、が難しい理由

2020/04/03

■銀行は自己資本比率規制で貸し渋りをする可能性
■銀行の新規取引には借り手の調査が必要
■多少の赤字なら融資を継続する銀行が多数
■取引銀行が苦しい時には他行も苦しい可能性

(本文)
本稿は、金融危機に関するシリーズの第4回である。金融危機に関する全体像については第1回の拙稿「金融危機は繰り返す」をご参照いただきたい。

詳しくはhttps://column.ifis.co.jp/toshicolumn/tiw-tsukasaki/118769を御参照いただければ幸いである。

なお、本シリーズはリスクシナリオであり、筆者の予測ではない。過度な懸念を持たずに、落ち着いてお読みいただければ幸いである。

■銀行は自己資本比率規制で貸し渋りをする可能性
銀行には、自己資本比率規制がかかっている。これは大胆に言えば「銀行は自己資本の12.5倍までしか貸出をしてはならない」というものであり、世界中の多くの主要行に共通する規制である。

バブル崩壊や大不況などで銀行の貸し倒れが増え、銀行が赤字になると、銀行の自己資本が減る。そうなると、銀行は減った自己資本の12.5倍までしか貸せないので、既存の貸出を回収する必要が出てくる。「貸し渋り」である。詳しくは前回の拙稿「自己資本比率規制が貸し渋りを招く」を御参照いただければ幸いである。

「銀行から貸し渋りをされたら、他の銀行から借りれば良いのだから問題なかろう」という事も理屈ではあるが、実際には以下のような理由でうまく行かない場合が多い。だからこそ貸し渋りが問題となるのである。

■銀行の新規取引には借り手の調査が必要
銀行は、借り手が返済できそうか否か、十分に調査した上でないと融資をしないのが原則である。株主有限責任の原則により、借り手が株式会社の場合には、借り手が返済できなかった場合に株主に返済を迫る事が原則として出来ないからである。

しかし、従来からの融資先については、すでに十分な調査が行われた上で初回の融資がなされているわけであるから、状況が悪化していないか否かを確認するだけで次の融資が行える。通常は「また貸して下さい」「わかりました」で済むはずだ。

問題は、従来の取引銀行に貸し渋りをされた場合に、他行から借りようとすると、原則どおりに返済能力等を詳細に調べられる事になる事である。これには時間がかかる。その間、材料の仕入れや給料の支払いに支障を来すかも知れない。

取引銀行が多数の借り手に貸し渋りをした場合、隣の銀行には多数の新規取引の申し込みが殺到する事になりかねず、調査には更に時間を要するであろう。

■多少の赤字なら融資を継続する銀行が多数
現在の取引銀行であれば、若干の問題があっても引き続き貸してくれる可能性が高いだろう。一般に銀行は、一度融資をした先については、若干の問題が生じても、直ちに返済を要求するわけではないからである。

直ちに返済を要求すれば、倒産して持っている資産が二束三文で買い叩かれ、結局銀行の回収額がとても小さくなってしまう可能性が高い。それよりは借り手の回復を期待して、返済を猶予する(あるいは返済期日に同額を融資する)方が、回収額が増える可能性が高いのである。

もう一つの理由としては、無理に回収しようとすると評判を落としかねない、という事もある。「あの銀行は冷たい」という悪評が立つと、自行をメインバンクとして頼ってくれる借り手が減ってしまう、というわけである。

ところが、取引銀行に貸し渋りをされて他の銀行に新規融資を依頼する場合には、問題を抱えた企業は融資を受けられない可能性が高い。だから貸し渋りは怖いのである。

場合によっては、銀行は相当問題のある借り手に対してさえも、融資を続けるかも知れない。その点については拙稿https://column.ifis.co.jp/toshicolumn/tiw-tsukasaki/66329を御参照いただければ幸いである。

余談であるが、問題のある借り手が貸し渋りを免れる場合もあるだろう。問題のある借り手に貸し渋りをすれば、他行から借りられずに倒産する可能性が高いからである。それなら問題の無い借り手に貸し渋りをして、「他行から借りて、我が行に返済して欲しい」という方が回収額が増えると期待されるからである。

それが出来ないのが、銀行自身が倒産する場合である。銀行が倒産して清算される場合には、すべての融資が回収される事になるからである。銀行の倒産が多くの借り手を倒産させて深刻な不況を招く一因は、こうした所にあるのである。

■取引銀行が苦しい時には他行も苦しい可能性
一つの銀行だけが経営の失敗等の理由で自己資本が減り、自己資本比率規制によって貸し渋りを余儀無くされたのであれば、「他の銀行から借りれば良い」という事が言えるかも知れない。

しかし、バブル崩壊時や不況時に銀行が自己資本比率規制によって貸し渋りを余儀無くされるような場合には、多くの銀行が似たような状況に陥っている可能性が高く、安易に「A行から貸し渋りを受けたらB行から借りれば良い」などとは言えない可能性が高いのである。

本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織等々とは関係が無い。また、わかりやすさを優先しているため、細部が厳密ではない場合があり得る。

(4月2日発行レポートから転載)

TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
本コラムに掲載された情報には細心の注意を行っておりますが、その正確性。完全性、適時性を保証するものではありません。本コラムに記載された見解や予測は掲載時における判断であり、予告なしに変更されることもあります。本コラムは、情報の提供のみを目的としており、金融商品の販売又は勧誘を目的としたものではありません。 投資にあたっての最終決定は利用者ご自身の判断でお願いいたします。

このページのトップへ