円高と円安のどちらが日本経済に良いのか

2019/09/06

(要旨)
・輸出入数量と輸出入価格に分けて考える
・かつて、円高は日本経済の「災難」だった
・労働力不足時代には円高も悪く無い
・投資家には円安が望ましい?

(本文)
・輸出入数量と輸出入価格に分けて考える
円高の日本経済への影響を考える時には、輸出入数量への影響と輸出入価格への影響について、分けて考える必要がある。

数量への影響としては、輸出数量が減り、輸入数量が増えるので、国内需要が一定ならば、国内生産を減らし、製造業の雇用にマイナスの影響をもたらす筈である。

もっとも、アベノミクスによる円安局面でも、輸出入数量がそれほど変化していない事を考えると、この影響は以前より小さくなっている可能性が高そうだ(後述)。

円高の価格への影響としては、輸出企業がドルを安くしか売れない一方で、輸入企業がドルを安く買えるので、全体としての影響はほとんど無い。「輸出企業への打撃が景気に悪い」と考える読者も多いだろうが、日本は輸出入が概ね同額なのである。

なお、輸出企業が安くしか売れないデメリットはすべて輸出企業の負担になるが、輸入企業が安く買えるメリットは、消費者にも享受される。同時に、消費者物価指数には押し下げる力が働く。これが景気に与える効果は、おそらくプラスであろう(後述)。

・かつて、円高は日本経済の「災難」だった
高度成長の終盤、円相場が切り上げられた時、国難だと言われた。当時の日本製品は「品質は低いが、価格競争力で売っていた」ので、円高でドル建て価格が上昇すると売れ行きが激減すると思われていたからである。

その後、プラザ合意後の円高時には、大方の予想に反して輸出数量はそれほど落ち込まなかった。日本製品が価格の安さではなく品質の高さで売れる時代となり、「高くても日本製品が欲しい」という外国人が増えていたからである。

時代が変わり、アベノミクスの円安は輸出数量にほとんど影響していない。その理由の一つは企業行動の変化だと言われている。「現地生産を行って、地産地消を志しているので、円安だからといって輸出を激増させる事は無い」というわけである。そうであれば、円高でも輸出が激減する事は無い筈である。

こうして考えると、「円高だと輸出数量が激減して輸出産業の生産が激減し、景気に悪影響を与える」という影響度合いが従来より格段に小さくなっていると言って良さそうだ。

・労働力不足時代には円高も悪く無い
バブル崩壊後の長期低迷期、日本経済の問題は失業であった。円高等で輸出数量が減ると、製造業が生産を減らし、雇用を減らし、その結果失業者が所得を失って消費を減らし、景気が大きく落ち込んだのである。

しかし、今後は労働力不足の時代である。製造業を解雇された労働者が容易に非製造業の仕事を見つけて給料を受け取る事が出来るならば、個人消費は落ち込まないので、景気への影響は軽微であろう。

価格面は、むしろ景気にプラスかも知れない。輸出企業の手取りが減っても輸出企業の内部留保の増え方が緩やかになるだけである一方、消費者物価が安定することで個人消費にはプラスの影響が出るからである。

デフレの時代であれば、円高による物価の下落が経済に悪影響を及ぼす可能性もあったが、すでにデフレは脱却しているので、そうした心配は無用であろう。

かつてドイツ人に「自国通貨高は景気にプラスだ。インフレ懸念を緩和してくれるので、中央銀行による金融引き締めが行われなくなるからだ」と言われて、国情の差を実感した事がある。

もっとも、その後日本でもバブル期には「円高による物価抑制効果が金融引き締めを思いとどまらせ、バブル景気が長持ちした」という事があったので、自国通貨高の景気への影響は、国情のみならず経済状態もによる、というべきであろう。

今後の日本経済は、少子高齢化による労働力不足で賃金インフレに悩む国になるかも知れない。そうなれば、「自国通貨高が金融引き締めを防いでくれる」時代になるかも知れないのだ。

・投資家には円安が望ましい?
日本株を買っている日本人投資家にとっては、円安が望ましいと言えそうだ。市場参加者が「円安なら株高」と考えている以上、円安になれば株の買い注文が増え、美人投票的に株価が上がるからである。

機関投資家の行動も、日本株を押し上げるかも知れない。「資産の一定割合を日本株で運用する」と決めている機関投資家は、円安になると日本株の比率が低下するので日本株を買い増す必要が出て来るからである。

海外株を買っている日本人投資家にとっては、円安が望ましい事は言うまでも無かろう。保有している海外株の時価評価が上がるのだから。

こうして、日本人投資家が円安で潤って消費を増やすならば、円安が景気にもプラスだと言えるはずだ。もっとも、日本では個人投資家の保有株が少ないので、こうした効果は限定的であろうが。

ちなみに、米国では歴代財務長官が「強いドルは米国の国益」と発言してきたが、これは筆者には不思議な事である。

「ドルが強くなると思うと外国の投資家がドル資産を持とうとするから、米国株が値上がりする」という事もあるようだが、実際には「弱いドルが米国の国益」などと発言するとドルが暴落しかねない、という恐怖心から出ていたのではなかろうか。

(9月2日発行レポートから転載)

久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
塚崎公義『経済を見るポイント』   久留米大学教授 TIW客員エコノミスト
目先の指標データに振り回されずに、冷静に経済事象を見てゆきましょう。経済指標・各種統計を見るポイントから、将来の可能性を考えてゆきます。
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