日本の景気が米国頼みを脱しつつある構造変化に要注目

2019/07/05 <>

(要旨)
・かつて「米国が風邪なら日本は肺炎」だった
・米国の不況による円高も、以前は日本経済に悪影響
・以前より為替レートの影響を受けにくい日本経済
・少子高齢化による労働力不足が不況の悪循環を緩和
・今後は消費者の高齢化で景気の波が小さい経済に

(本文)
・かつて「米国が風邪なら日本は肺炎」だった
戦後の日本は、外貨が圧倒的に不足していたので、米国の景気が悪化して輸出が減ると外貨が獲得できず、石油等の資源が輸入できずに大いに困ったものだ。

その後、輸出産業が育って外貨不足は解消したが、今度は需要不足が問題となった。特にバブル崩壊後の長期低迷期に於いては、国内の需要が弱いので、輸出が減ると直ちに不況に陥る、といった事が繰り返されたわけである。

輸出が減ると、輸出企業が生産を減らして雇用を減らすので、失業が増える。失業者は給料がもらえないので消費が出来ず、一層需要が減ってしまう、という悪循環が生じていたのである。

・米国の不況による円高も、以前は日本経済に悪影響
米国が不況になると、米国が金融を緩和するから、日米の金利差が縮小する。すると日本人投資家は、米国債投資を減らすので、ドル買い需要が減り、ドル安円高になってしまう。

「円をドルに替えて米国債を買うと、為替手数料がかかるし、ドル安円高になると損してしまうかも知れない。米国債の方が遥かに金利が高かった頃は、それでも米国債に投資したが、金利差が小さくなって来たから、米国債ではなく日本国債を買おう」というわけである。

円高になると、輸出企業が採算悪化を理由に輸出用の生産を縮小するため、雇用が減り、失業が増えてしまうのだ。

ちなみに、「円高になると輸出企業がドルを安くしか売れないので利益が減り、景気が悪化する」と考えている人もいるようだが、それは違う。日本の貿易収支は輸出入が概ね均衡しているため、輸出企業がドルを安くしか売れない分と輸入企業がドルを安く買える分が概ね同額だからである。

・以前より為替レートの影響を受けにくい日本経済
しかし、日本経済は、以前より為替レートの影響を受けにくくなっている。アベノミクスによって大幅な円安となったにもかかわらず、輸出数量があまり増えず、輸入数量が減っていないのである。

おそらく企業が「地産地消」を目指している事が主因なのであろう。為替レートの変動の影響を受けにくい収益体質を作ろうとしている企業は多いと聞く。加えて現地のニーズに迅速に応えるためには消費地で生産するのが最も効率的だ、とも聞く。

もしかすると、労働力不足で製造業が国内生産を増やしにくい、といった事情もあるのかも知れない。そうだとすると、そうした事情は今後も深刻化してゆくであろうから、日本は現在以上に「円安でも輸出数量の増えない国」になるのであろう。

・少子高齢化による労働力不足が不況の悪循環を緩和
米国の不況で日本の輸出が減り、日本の輸出企業がリストラをした時のインパクトも、従来より小さいはずである。

従来であれば、リストラされた失業者が「給料がもらえずに物が買えない」ため、消費が落ち込んで更に景気が悪化していたのであるが、最近は製造業にリストラされても非製造業で簡単に仕事が見つかるからである。

今後は、少子高齢化による労働力不足が一層深刻化し、「景気が良いと超労働力不足、景気が悪くても少しは労働力不足」という時代になるだろう。そうなれば、不況期でさえも輸出の減少が失業の増加をもたらさないかもしれない。

そうなれば、輸出企業がリストラしても個人消費は落ち込まず、景気全体の悪化は限定的だ、という事になりそうだ。

・今後は消費者の高齢化で景気の波が小さい経済に
そもそも高齢者の消費は安定している。収入は年金が中心であり、貯蓄の取り崩し額も概ね安定しているはずだからである。したがって、消費者に占める高齢者の比率が上昇すると、個人消費は安定してくる筈である。

加えて、高齢者向けの仕事をしている人のウエイトも上昇するはずで、彼らの消費も安定しているであろうから、個人消費は一層安定するであろう。

さらに労働力不足が進むと、現役世代の多くは高齢者向けの職業に従事するようになり、資源等の輸入に必要な最低限の輸出産業しか国内に残らないかも知れない。

そうなれば、「海外が好景気の時には大量の注文が来るけれども、労働力が確保できる範囲でしか輸出できない」という事になろう。

それは、海外が不況になって注文が減っても、同様に労働力が確保できる範囲でしか輸出出来ないので、輸出数量は変化せず、したがって海外の景気変動は輸出にも国内景気にも影響しない」という事を意味するのかも知れない。

さすがにチョッと極端な仮定であろうが、方向として日本経済がそういう方向に進みつつある事は、認識しておくべきであろう。

(7月3日発行レポートから転載)

TIW客員エコノミスト
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