注目される中国株式市場のポイント 米中貿易摩擦の先行きの目途、人民元の落ち着きがカギ

2018/07/06

注目される中国株式市場のポイント

【ポイント1】人民元が下落

預金準備率の引き下げと中国景気の停滞懸念が要因

■人民元が、6月中旬から足元にかけて大きく下落しています。合わせて中国株式市場も調整幅が拡大しています。人民元は、米国が利上げを決定した6月13日の6.39元/米ドルから、米国が中国に対して制裁関税リストを公表した6月15日に6.44元/米ドルに下落し、7月2日には6.69元/米ドルまで下落、約11カ月ぶりの安値を記録しました。人民元の大幅下落は、(1)6月24日に発表された中国人民銀行(中央銀行)による預金準備率の引き下げ(実施は7月5日)に、(2)米国との貿易摩擦の拡大による輸出減と中国景気の停滞懸念、などが重なったことが要因と考えられます。

■7月3日に、中国人民銀行の易綱総裁が人民元相場を合理的かつ均衡の取れた水準で安定させるとの方針を表明しました。また、最近の人民元のボラティリティは、強い米ドルと外部環境の不透明性に起因するとの見方を示しました。易総裁が人民元についてコメントを発表するのは今回が初めてであり、元安傾向に対して、牽制球を投げたと解釈することができそうです。こうした一連の発言を受けて、人民元の対米ドルレートはひとまず下落に歯止めがかかりました。

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【ポイント2】素材、資本財、一般消費財セクターが下落
米中貿易摩擦の影響

■中国株式市場では、2018年1月以降、上海A株指数、深センA株指数などが調整基調で推移しています。MSCI中国は2018年年初まで堅調に推移した後、上値の重い展開でしたが、人民元が大幅に下落する中で調整色を強めました。MSCI中国の株価動向をセクター別に見たものが下表です。年初来高値からの下落率を見ると、公益セクターが▲9%と1桁台の下落率ですが、他のセクターは▲10%~▲20%台の下落率となりました。また、6月15日(*)以降の下落率が10%を超えるセクターのうち、素材、資本財・サービス、一般消費財などは米中貿易摩擦の影響を反映したと言えそうです。(*)米国が中国に対して制裁関税リストを公表した日。

■これまでMSCI中国は、利益成長率の高い情報技術セクターがけん引役となってきました。足元での利益成長を見ると、情報技術セクターの成長モメンタムは維持されています。一方、6月にA株が組み入れられた影響もあり資本財・サービスやヘルスケアの予想利益が下方修正となりました。また金融は、中央政府が地方政府債務の抑制を強化しており、デレバレッジによる銀行システムへの負荷がかかりやすくなるなど、収益面で厳しい状況となっています。

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【今後の展開】米中貿易摩擦の目途、人民元の落ち着きを見るまで、中国株式市場は上値の重い展開が続こう

■米中貿易摩擦
今後は、(1)米中が水面下で落としどころをまとめる、(2)米中が互いに景気に影響が出ない程度の関税と企業活動への規制を実施して、互いに成果を主張した後に膠着状態に入る、(3)対立がややエスカレートし、景気・資産価格に変調の兆候が出たところで軌道修正する、などのシナリオが考えられそうです。トランプ政権の保護主義的な通商政策の背景には今年11月の中間選挙や2020年の次期大統領選があり、景気を悪化させてはかえってマイナスになることをトランプ政権は理解していると考えられます。したがって、米中貿易摩擦は、景気を悪化させない範囲で落としどころを探ることが期待されます。

■人民元
人民銀行の易総裁は、人民元を合理的な均衡水準で安定させると表明しました。人民元安は中国からの輸出にはプラスですが、一方で中国からの資金流出を加速させかねない点がリスクです。

■中国景気の見通し
5月に入り、インフラ投資や一般機械の生産の伸びが鈍化してきました。中央政府が地方政府の債務抑制に動き、一部の投資案件が延期・キャンセルされたためと考えられます。国家統計局はインフラ投資の抑制は当面続くとしており、短期的に投資は下振れやすいと思われます。ただ、基本的には中央政府が意図した範囲内での抑制と考えられ、インフラ投資の潜在的な需要は強く、再び増加させることは可能です。また、IT産業は高い成長を続けており、これらにより中国経済は安定成長が続くと考えられます。

■企業業績の見通し
米国の保護主義的な通商政策により、資本財・サービスセクターや一般消費財セクターなどがマイナスの影響を受けると思われます。一方情報技術セクターは、モメンタムは低下しているものの、増益基調が持続する見通しです。中国経済は安定した成長が続く見通しで、MSCI中国の企業業績見通しは、2018年が前年比+22.2%、2019年が同+15.9%、2020年が同+15.4%(いずれもブルームバーグ集計)と、2020年まで2桁の利益成長が持続する見通しです。

■中国株式市場の見通し
米中貿易摩擦の目途、人民元の落ち着きを見るまで、中国株式市場は上値の重い展開が続くと思われます。ただし、MSCI中国の予想株価収益率(12カ月先予想利益ベース、ブルームバーグ集計)は11.7倍と、2006年以降の平均値(11.7倍)に並び、割高感はありません。企業業績は好調を維持すると期待されることから、中期的には株価水準の上方修正が入る可能性があると思われます。

 

(2018年 7月 6日)

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