日本株は年初来安値、下落の主因は米国発 日本株式市場は割安ゾーンへ

日本株は年初来安値、下落の主因は米国発 日本株式市場は割安ゾーンへ

 

【ポイント1】日本株は年初来安値、下落の主因は米国発

 

■日本株式市場は、先週金曜日に大きく下落しました。3月23日の日経平均株価は前日比▲974円、同▲4.5%となり、年初来安値をつけました。

■今回の大幅下落の直接的な要因は、米国の中国に対する知的財産所有権の侵害を理由とした輸入関税等の発表です。これに加え、このところ米トランプ政権では高官の大幅な入れ替えが行われるなど政権運営に対する不透明感も強まっており、これも市場参加者のセンチメントを悪化させていると見られます。

 

 

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【ポイント2】米中貿易戦争に発展するリスクは高くない

 

■米国の中国への輸入関税の発表は、お互いの報復合戦につながり、世界貿易や経済へのダメージとなることが懸念されています。米国株式をはじめとする世界の株式市場が下落し、長期金利が低下しているのは市場が今後の経済の減速を織り込み始めたためと解釈できます。ただし、本当に今回の中国への輸入関税の表明が、懸念されるような貿易戦争となり、世界経済が減速する可能性があるのかはよく吟味する必要がありそうです。

■まず、今回の輸入関税の対象は多くても中国から米国への輸入額の10%程度であり、中国側の被害はあまり大きくないと思われます。したがって、今回の輸入関税の発表に込められた米政権から中国へのメッセージは、『貿易戦争を始めるつもりはなく、米政権の焦点はこれ以上の知的財産の侵害を食い止めること』と考えることができそうです。今後の米中の交渉を待つ必要がありますが、中国も技術開発を進めてきており、現実的な落とし所が見つかると期待されます。

■なお、トランプ政権の人事については、特に安全保障担当の大統領補佐官への懸念を示す専門家が多いようです。新たに指名されたボルトン元国連大使は対外強硬派の新保守主義者として知られています。ブッシュ時代のイラク戦争を積極的に推進したと見られているほか、現在ではイランとの核合意に批判的であり、また、北朝鮮への先制攻撃に肯定的な意見を表明しています。このため、今後の地政学リスクが高まる恐れを指摘する識者が多いようです。

<なぜトランプ大統領は経済から外交・通商へ舵を切ったのか>

■トランプ大統領就任から一年強が経過していますが、これまでの公約とそれに対する取り組みを見ると、トランプ大統領は政策の舵を経済から、外交・通商に切った可能性が高いと考えられます。

■トランプ大統領は昨年末に公約の一つであった大型減税を実現し、今年に入ってからは歳出拡大を議会に決定させました。これらによって経済は当面順調に進むことがほぼ固まったと言えます。

■トランプ大統領の次の政策上の目標は、11月の中間選挙、ひいては自身の再選と思われます。経済にメドが立った現在、次の政策の焦点を外交・通商に据えたと考えられます。

<トランプ大統領のやり方、まずは先制口撃、それから交渉>

■トランプ大統領は自らを交渉名人と考えています。交渉では最初に高めのボールを投げ、相手を動揺させてから駆け引きを行い、最終的に自分の目標に近いところに着地させる、という手法です。それが今までトランプ大統領が行ってきた交渉のパターンでした。外交や通商政策もその手法で行うと見られます。こうした戦術をとるのであれば、交渉に携わる高官には、強硬派を並べるのが効果的と考えられます。トランプ政権の最近の人事の交代はこうした文脈で考えるのが自然であるように思われます。

■もっともトランプ大統領の外交・通商政策が、経済に悪影響を及ぼさない可能性はゼロとは言えないと思われます。但し、経済を壊してしまってはこの秋の中間選挙や自身の再選の可能性が低下してしまうおそれがあります。トランプ政権は、経済への悪影響を最小限に抑えつつ、相手から有利な条件を引き出すことに集中すると思われます。

<「管理された貿易摩擦」になる可能性が高い>

■最大の注目点は、今回の交渉相手である中国の出方と思われます。中国が強硬姿勢を続ければ貿易戦争につながっていく可能性が高まります。但し、中国の李克強首相は3月20日の記者会見で、貿易戦争は米中両国にとって望ましくないと言及しています。また、知的財産権を守ること、技術移転の強制は行わないとも語っています。今後の米中の交渉はギリギリの交渉になると見られますが、最終的には「管理された貿易摩擦」になる可能性が高いと考えられます。

 

 

【今後の展開】米国、日本株式市場の見通し

 

<米国株式市場は、利益成長率なみの上昇が期待できよう>

■今回の一連のトランプ政権の通商攻勢は多少なりとも貿易に対して逆風となると見られますが、世界経済への悪影響は比較的マイルドなものとなり、企業業績への影響も主要国では数%に抑えられると考えられます。米国の企業業績見通しは、3月23日のトムソンロイターの集計によると、2018年が前年比+19.7%ですが、これが減速したとしても2桁の伸びは見込めそうです。12カ月先予想ベースの株価収益率(PER)は15.9倍(3月23日、Bloomberg L.P.)と、2016年3月頃の水準まで低下しました。今後、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の正常化が進むため、PERの拡大を伴う株価上昇は難しいと思われます。ただ、引き続き利益成長率に沿った株価の上昇は期待できると考えられます。

<日本株式市場は中長期的な視点で見れば割安ゾーンへ>

■日本株式市場には特有の相場材料があります。第一に政治要因が挙げられます。森友学園問題による安倍政権の支持率の低下はやや懸念せざるを得ない状況です。但し、仮に自民党内で政権が交替したとしても、現在の経済運営の枠組みが大きく変わるとは想定しにくい状況です。

■第二が為替レートです。現在は政治的な不透明感から円が買われていますが、日米の実質長期金利差はかなり大きく開いており、例えば、米ドル/円レートで100円を割り込むような円高が長期的に定着する可能性は高くないと考えられます。

■弊社は、日本企業の2018年度の経常利益を前年度比約+9%の増益と見込んでいます。想定為替レートは110円でそこから円高・米ドル安となっていますが、この水準で推移すれば2018年度の増益は可能と思われます。一方、日経平均株価のバリュエーションは12カ月予想PERが14.9倍と2013年以降続いているアベノミクス期では下限に近い水準となっています。

■日本株式は、(1)利益成長率が低位となる可能性があるが増益基調は維持可能、(2)株価が大きく調整したことでバリュエーションが低くなった、ことなどから下値はかなり固まってきていると考えられます。日本株式市場は力強く上昇し続ける局面ではないとしても、ここからの更なる調整は売られ過ぎであり、中長期的な視点で見れば割安ゾーンにあると考えられます。

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(2018年 3月26日)

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