日本株は短期的には過熱感と一極集中の修正局面、修正後に期待

日本株は短期的には過熱感と一極集中の修正局面、修正後に期待

1.株価急上昇は買戻しがけん引、テクニカルには過熱感
2.ショートポジションの買戻しには一巡感があるが、需給は健全
3.懸念された過度の一極集中は修正局面、今後は安定性が高まろう

1.株価急上昇は買戻しがけん引、テクニカルには過熱感

■日本株式市場は、世界の株式市場と同様に緩和的な金融環境と大規模な財政政策による景気回復を好感して株価が上昇してきました。これに加えて新型コロナウイルスのワクチンの普及が進み始めたことで、景気回復の可能性は一段と高まり、日経平均株価は2月に30年ぶりの3万円台を回復し、過熱感を伴いつつも堅調な展開となりました。2月25日には米国の長期金利が一時1.6%を超えたことでやや相場が軟調となる局面もありましたが、その後は緩やかな上昇基調に戻っています。

■昨年4月以降の相場上昇は、テクニカル面の行き過ぎの修正が株価上昇を後押しした面があります。例えば、昨年3月19日に日経平均株価が16,552.83円まで急落する際、パニック的な売りなど市場参加者の投資行動を反映する日経平均VI(将来1カ月の変動を推定した指数)は3月16日には、60.67%に拡大し、調整の行き過ぎ感が高まっていました。

■ここでは現在の状況や一極集中による一部指数のゆがみなどについて、「需給・テクニカル指標」などから確認していきたいと思います。

テクニカル指標の一部には加熱感

■現状をテクニカル指標からみると一部に強い過熱感がみられます。日経平均株価の200日移動平均乖離率は、2月14日に26.34%をつけました。

■200日移動平均乖離率20%超はまれにしか発生せず強い過熱感を示しています。一方、騰落レシオ(25日移動平均)は上昇が一部グロース銘柄の集中物色であったため、2月9日の124.12%までしか上昇しませんでした。

2.ショートポジションの買戻しには一巡感があるが、需給は健全

■通常はこれほどの株価上昇があると、先物や信用取引などを通じてロングポジションが積み上がり、それがその後の下落に転じる要因となりがちです。現状の状況を確認するには、ネット裁定残高と信用取引がヒントになります。

■裁定買い残は割高となった先物を売って現物株を買う(裁定買い)取引を行った場合の現物買いの残高です。裁定売りはその反対の動きとなります。裁定売りは現物株を空売りするため、現物株の調達コストがかかるなど実行のハードルが高く、ネット裁定残高がマイナスになるのは極めて異例です。

■コロナ禍によるパニック的な売りからネット裁定残高は昨年5月25日時点で異例の▲8.85億株となり、マイナス水準が長期間続いてきました。3月4日時点で0.22億株と昨年の1月8日以来のプラスとなり、今回の上昇のけん引役となったショートポジションの買戻しは一巡したと想定されます。

■信用取引をみると小幅に増加していますが、現状のネット裁定残高、信用買い残の状況は、ロングポジションの積み上がりを懸念する水準ではありません。日銀のETF買いの影響が大きく、ロングポジションが積みあがりにくい構造になっているとみられます。

グロース指数やNT倍率には過熱感

■日本株をみるうえで、リスクが大きいと思われるのは、グロース株への一極集中的な物色による上昇率格差です。グロース株やNT倍率などは警戒が必要な状況にあります。ただここにきてこれらが修正される動きがあり、注目されます。

■グロース株とは利益成長性を評価して、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などでみて割高な株をいいます。医薬品、情報・通信、電気機器などが多く含まれます。反対に、バリュー株は、PERやPBRが低く企業価値に比べて株価が割安に放置されている銘柄を指します。鉱業、鉄鋼、商社、銀行などが多く含まれます。

■日本では2017年半ば以降、グロース株(成長株)がバリュー株(割安株)を上回る展開が一貫して続いてきました。予測困難な新型コロナの感染拡大によりクオリティ指向が強まり一極集中が加速しました。2016年末対比でみると3月17日でTOPIXグロース指数が+49.5%、TOPIXバリュー指数は+12.9%と大きな乖離があります。ただ1月末対比ではTOPIXグロース指数が+3.8%、TOPIXバリュー指数は+15.9%と修正される動きにあります。

■日経平均株価を東証株価指数(TOPIX)で割り、両指数の相対的な強さを示すNT倍率は、2005年には10倍を下回っていましたが、その後はほぼ一貫して上昇しNT倍率は15倍台の水準となっています。構成比上位銘柄の電気機器、医薬品、小売業などのグロース色の強い銘柄の株価が上昇し構成比が高まり、構成銘柄数は225銘柄にもかかわらず、ファーストリテイリングなど16銘柄で構成比の50%を占め非常にゆがんだ状況にあります。

3.懸念された過度の一極集中は修正局面、今後は安定性が高まろう

■日本株の今後についてみると需給面からは、ロングポジション過多による下落の兆候はみられず健全な状況にあり問題ないと考えられます。懸念されるのはテクニカル面の行き過ぎと過度の一極集中です。テクニカル面では200日移動平均乖離率は20%程度上方乖離しており、ある程度の値幅か日柄調整が必要とみられます。グロース株、NT倍率の過熱感も懸念されます。過去の例をみてもグロース株の一極集中後の調整は深くなりがちであるためです。またグロース株の一部銘柄での構成比が高い日経平均株価は、ボラティリティの大きい展開になりがちです。相場全体が安定して上昇するには、バリュー株などにも物色が循環するかがカギとなります。

■こうした中、ここにきて過熱感の高いグロース株が調整する一方、割安感の強いバリュー株が上昇するなど、これまでの市場の偏りが修正される動きとなっており注目されます。テクニカル調整と銘柄間格差の修正が順調に進めば、日本株の下値抵抗力が強まり、安定性が高まることが期待されます。

(2021年3月19日)

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