吉川レポート:マネーフローの現状と展望

吉川レポート:マネーフローの現状と展望

1.マネーフローの3つの特徴
2.中銀の大規模緩和政策が鍵
3.リスクは上下、両方向に

1.マネーフローの3つの特徴

■EPFRグローバル(主要国の投資信託経由の資金フローデータベース)により、グローバルな視点から最近のマネーフローの動向をみると、3つの特徴が指摘できます。

■第1に、現預金に近い性格をもつマネー・マーケット・ファンド(MMF)への資金流入が縮小、週によっては資金が流出する動きが出始めました。コロナ危機が深刻化した3~5月には、主要国の家計・企業は不測の事態に備え、債券や株式などを売却し、現預金・MMFなどを大幅に積み上げる動きがみられました。しかし、6~7月になり、経済金融市場が徐々にではありますが落ち着きを取り戻す一方で、民間企業や家計の手元流動性が潤沢になってきたことから、その動きが一巡してきたものと推測されます。

■こうした手元流動性の積み上げはグローバルにみられましたが、最も顕著だったのは貿易・金融取引で圧倒的なシェアをもつ米ドル資金への需要急増です。上で述べた現預金・MMFの増勢鈍化(一部は減少)はドル資金に対する需要がピークをうったことを示唆しています。6月中旬から7月にかけて米ドルが下落傾向に転じた重要な背景と考えられます。

■第2に、新たな資金の行き先として、株式に関しては全体としてみると資金の流出、流入が短期間で変化する不安定な状況となる一方、金と債券に安定的に資金が流入しています。感染再拡大が景気・企業収益の不透明感になっているなかで、全面的なリスクオンになり切れない状況が資金フローにも明確に表れています。ただ、ITなど中長期的に成長が見込めるセクターに加え、首脳会議で「復興基金」が大筋合意され、2021年以降の成長に明るい材料がみえ始めた欧州については株式に資金が流入し始めており、ユーロが堅調となる一因となりつつあるとみられます。

■第3に、主要先進国の中央銀行が政策金利をゼロに引き下げただけでなく、量的・質的緩和を強化するなかで、ゼロないしマイナス金利の債券の割合が増加した結果、利回りを求める動き(ハント・フォー・イールド)がより鮮明になってきています。投信経由の債券投資の国別内訳をみると、低下したとはいえなおプラスの利回りを提供している米国(特に社債)への資金流入が続いています。「危機時のドル需要」が峠を越えたことで、ドル安基調に転換しましたが、プラスの利回りを求める資金流入が続くため、ドルの急落は避けられる可能性が高いとみられます。加えて、7月に入ってからは新興国債券にも資金が流入し始めており、新興国の株式や通貨に与える影響が注目される局面となってきました。

2.中銀の大規模緩和政策が鍵

■こうしたタイプのマネーフローが継続するかは中銀が大規模緩和をどの程度維持するかにかかっています。コロナ危機以降の主要国の財政金融両面からの景気対策は異例の大規模、かつ民間の信用リスクもカバーするものとなっているだけに、FRBをはじめとする主要中銀が金融政策の先行きについて、どのような指針を示してくるかは常に注意しておく必要があります。

■しかし、各国ともに需給ギャップが拡大し今年から来年のインフレ率が下振れる可能性が高いだけでなく、景気回復に時間がかかれば家計や企業の将来の見通し(期待成長率や予想インフレ)が低下し始めてしまうリスクが無視できないと思われます。これらのリスクを考慮すると、FRBをはじめ主要中銀が政策転換に関する議論を始めるまでにはまだかなりの時間があると考えられます。2020年後半については、大規模緩和の下、ドルの緩やかな下落・ユーロの反発、低金利の持続と利回り追求型資金フロー(新興国債券含む)、テーマをフォーカスした株式投資、といった傾向が継続する可能性が高いとみられます。

3. リスクは上下、両方向に

■株式などリスク資産への資金流入が増加し、株価、金利が上振れるケースとしては、新型コロナウイルスに対するワクチンや、肺炎の治療法の開発の進展が考えられます。一方、ダウンサイド(金利・株価の下振れ)について、米中の感染第2波の拡大への警戒に加え、11月に米大統領選挙が迫ってきたことから、米国を軸とする政治情勢の重要性が高まりつつあります。トランプ政権が対中国で想定以上の強硬姿勢を示し、米中対立がエスカレートする、ないしバイデン氏の優勢のみならず、議会選挙でも民主党勝利の公算が高まり、法人増税や規制強化への警戒感が市場の変動要因になり始める、などのケースが考えられます。

(吉川チーフマクロストラテジスト)

(2020年8月12日)

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