順調な拡大が続く米国不動産市場
順調な拡大が続く米国不動産市場
1.米国不動産市場が大きく崩れる条件=過剰な資金流入とその反動
2.米国不動産市場の需要と供給は釣り合った状況
3.資金流入も穏やか=まだ続く活況
米国経済は08年9月のリーマン危機を経たリセッション後、景気拡大が10年以上にわたって続いています。米国株式市場は足元で最高値を更新していますが、世界的な低金利環境もあり、利回りが高い金融資産への資金流入も続いています。不動産投資もその一つにあげられます。
米国不動産も好調ですが、地域的、業種的なばらつきも伝えられ、好調さの先行きには懸念があります。米国不動産市場の特徴を長期的視点から振り返り、足元の状況をマクロ的にチェックした上で、今後の展望を行います。
1.米国不動産市場が大きく崩れる条件=過剰な資金流入とその反動
■米国不動産市場にはいくつかの指数があります。ここでは商業用不動産を対象とした、米国不動産投資受託者協会(National Council of Real Estate Investment Fiduciaries=NCREIF)のProperty Indexで過去の推移を確認します。この指数は、投資目的で取得された商業用不動産から構成される指数で、米国の年金基金が不動産ポートフォリオのベンチマークとして広く利用しているものです。
■このNCREIF指数をGDP成長率と共に長期で見てみると、過去40年間で、経済成長が持続的にマイナス圏に陥ったことは4回ありますが、不動産価格が持続的に下落する本格的な調整を迎えたのは2回にとどまります。
■1回目が90年代初頭のS&L危機で、2回目は08年の夏以降のリーマン危機によるものです。共通する要因は、不動産関連金融商品がブームとなり、不動産市場に資金が過剰に流入したこと、その後の急激な信用収縮によって経済が不況に陥っただけでなく、不動産市場にも資金が回らなくなったことがあげられます。即ち、調整の前は不動産市場がバブル的な状況であり、その後、バブルの崩壊で不動産市場が大きく調整したと言えそうです。
✓不動産供給は需要の伸びと釣り合っている
■さて、米国不動産市場の現状を、実需面と金融面の両面から確認したいと思います。まず、実需面から確認します。
■商業用不動産市場の需要は、オフィス、小売り、倉庫、工場やデータセンターなど、幅広い分野に及びます。よって、不動産市場の需要を表す代表的な経済指標はGDP成長率と考えることとします。オンライン化に伴う小売店舗の縮小については、小売業は商業用不動産の15%程度と推計され、全体への影響は限定的と考えられます。また、IT関連での不動産需要増加もあり、小売店舗縮小をカバーしています。
■米国の実質GDP成長率は19年は2%を多少上回ったと見られ、20年、21年は2%前後で成長すると見込まれます。潜在成長率は約1.8%と考えられ、小幅ながら潜在成長率を上回る堅調な経済状況が続くと見られます。よって、不動産需要も堅調と考えられます。
■一方、商業用不動産の供給については、非住居用建設で示されます。非住居用建設は、09年のリーマン危機後、11年3月を底にして回復を続け、15年6月にはリーマン危機前の水準を上回りました。その後も順調に伸びています。
■これから、供給過剰との印象を受けますが、需給を確認するには需要との比較が重要です。需給の状況を的確に表しているものが非住居用建設をGDPで割ったもので、建設活動がGDPのどの程度を占めたかを示す数字です。
■リーマン危機前は非住居用建設はGDPの5%弱を占めていましたが、現在は3.6%程度と比較的落ち着いた水準で推移していることが分かります。よって、商業用不動産の需要と供給の関係では、供給過剰ではなく、比較的釣り合いが取れた状態であるように考えられます。
■米国のオフィス空室率も、商業用不動産の需給の様子をうかがい知る参考となります。米国の大手不動産調査会社CBREのデータによると、米国主要52都市のオフィス空室率は2009年をピークに低下傾向にあり、2019年は約12%と1991年以降の長期の平均値をやや下回る水準です。
■これから、米国のオフィスも需要と供給が比較的釣り合っている状況にあると言えそうです。NYやシカゴなどでは市況の鈍化が見込まれていますが、そういった状況は一部に限定されると考えられそうです。
✓不動産関連融資の伸びは緩やか
■低金利下、良好な需給が続くと価格上昇や高利回りを狙った投機的資金が流入するリスクが高まります。しかしリーマン危機後に金融規制が厳しくなったこともあり、これまでのところ金融商品や貸し出しにおいて、不動産市場への資金の過剰な流入は起こっていないと見られます。
■米連邦準備制度理事会(FRB)が四半期ごとに行っている市中銀行の融資担当者への融資基準調査を見ても、市中銀行は15年以降、商業用不動産ローンの貸出基準を緩やかながら引き締めていることが分かります。
■それらを反映して、不動産ローン残高の伸びは緩やかなものにとどまっています。リーマン危機前のバブル期は、不動産ローン残高が前四半期比で4%前後、前年比では二桁で拡大する時期が3年程度続きました。足元では、前期比で1%台、前年比で見ても5%程度で、資金の流入は緩やかにとどまっていることが示されています。
✓不動産関連ローンの延滞率は低い
■また、不動産関連ローンの返済状況を確認すると、延滞率は歴史的に低水準で推移していることが分かります。
■不動産に対する需要は順調に伸びていますが、市中銀行が不動産関連融資基準をやや厳しめに運営していることも寄与していると考えられます。
✓不動産市場は安定的に推移している
■以上の通り、米国不動産市場は、需給面でも、金融面でも問題が少ない状況にあると考えられます。
■不動産市場をつぶさに見ると、地域や業種によって需給や収益状況に差が出ていると言われています。米国経済同様、不動産市場の堅調も長期に及んでいることもあり、徐々に変調をきたすのではないかとの懸念が聞かれます。但し、以上の通り、米国不動産市場をマクロ的に見ると、安定的に推移しています。低金利環境が大きく変わらない限り、直ぐに変調をきたす状況ではないと言えそうです。
(2020年 1月23日)
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