足元で浮上した欧州リスクを整理する

2017/06/01

市川レポート(No.398)足元で浮上した欧州リスクを整理する

  • イタリアでは選挙法の改正に目途がつき、大統領が総選挙の前倒しを決断する可能性が高まった。
  • ただイタリアのユーロ離脱は非現実的、英国では保守党苦戦ならEU離脱交渉が難航との見方も。
  • 英交渉力低下でも市場混乱の公算は小、またギリシャでは以前のような債務危機は回避されよう。

 

イタリアでは選挙法の改正に目途がつき、大統領が総選挙の前倒しを決断する可能性が高まった

足元では欧州の政治に関する複数の懸念が浮上しています。具体的には、①イタリアの早期総選挙観測、②英保守党の支持率低下、③ギリシャへの融資再開問題です。①については、イタリアの現地メディアが、与野党は上下院の選挙法改正案に大筋で合意し、7月上旬までに議会で改正選挙法を通過させる意向と伝えたことや、秋の総選挙実施が望ましいというレンツィ前首相の発言がきっかけとなりました。

イタリア議会の解散権はマッタレッラ大統領が持っていますが、総選挙実施の条件として掲げてきた法改正に目途がついたことで、早期総選挙の可能性は高まりました。ただしイタリア議会は秋から年末にかけて来年度の予算を成立させなければならないため、マッタレッラ大統領は議会を解散させないことも考えられます。その場合、総選挙は上下院議員の任期満了後の来春に行われることになります。

 

ただイタリアのユーロ離脱は非現実的、英国では保守党苦戦ならEU離脱交渉が難航との見方も

市場が懸念しているのは、イタリアで総選挙が前倒しで実施された場合、ポピュリスト政党の「5つ星運動」が勝利し、ユーロの支持率が低い(図表1)なかで国民投票が実施されれば、ユーロ離脱が選択され、混乱が広がるということです。ただし「5つ星運動」が総選挙で勝利しても、単独与党となる可能性は低く、また国民投票実施には憲法改正が必要であるなど、イタリアのユーロ離脱、欧州連合(EU)離脱の実現性は乏しいといえます。

次に②の英保守党の支持率低下について、きっかけはメイ首相率いる与党保守党が5月18日に公表した政権公約(マニフェスト)でした。マニフェストには、高齢の富裕層に対する社会保障の負担増を求める内容などが含まれていたため、保守党の支持基盤である富裕層の反発を招いてしまいました。そのため市場では、保守党が今回の選挙で議席数を拡大できない場合、EU離脱交渉が難航するとの懸念が強まっています。

 

英交渉力低下でも市場混乱の公算は小、またギリシャでは以前のような債務危機は回避されよう

これを受けてメイ首相は5月22日、社会保障の負担増について一定の限度を設定するとの方針を示しました。また直近の世論調査では、保守党が依然として労働党に対しリードしています(図表2)。6月8日の総選挙で保守党が圧勝できなければ、EUとの離脱交渉力が弱まる恐れがありますが、ただそれをもって世界の金融市場が大混乱する可能性は非常に低いと考えます。

最後に③のギリシャへの融資再開問題です。ギリシャでは5月18日、年金削減などの財政構造改革法案が成立しましたが、抜本的な債務削減を求める国際通貨基金(IMF)と、IMFの融資復帰を求めるユーロ圏との折り合いがつかず、5月22日のユーロ圏財務相会合では融資再開の結論は出ませんでした。そのため市場ではギリシャが7月に約72億ユーロの国債償還を賄えない恐れがあるとの見方が強まっています。次回6月15日のユーロ圏財務相会合に注目が集まりますが、ギリシャ国債の保有は一部の債権団に限られており、以前のような債務危機は回避されるとみています。

 

 

170601図表1170601図表2

 

(2017年6月1日)

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