米予算教書のポイント
市川レポート(No.395)米予算教書のポイント
- 歳出は今後10年間で3.6兆ドル削減、減税の詳細は後日発表、インフラ投資の予算は2割のみ。
- 21年以降の3.0%成長は非現実的、歳出削減も容易ではなく27年の財政収支黒字化は困難。
- 今後は8月までに米議会で予算決議案がまとまるかが焦点、景気対策の時期や規模の見極めへ。
歳出は今後10年間で3.6兆ドル削減、減税の詳細は後日発表、インフラ投資の予算は2割のみ
トランプ米政権は5月23日、2018会計年度(2017年10月~2018年9月)の予算教書を発表しました。それによると、歳出は今後10年間で3兆5,630億ドル削減されることになります。具体的には、低所得者向け医療保険(メディケイド)や児童医療保険プログラム(CHIP)の見直しで6,160億ドル削減、生活保護制度の見直しで2,720億ドル削減、医療保険制度改革法(オバマケア)の廃止と代替案導入で2,500億ドル削減などが主な柱となります(図表1)。
注目の大型減税は、4月26日に公表されたトランプ米大統領の税制改革案における基本方針を繰り返すにとどまり、「個人所得税および法人税改革の詳細は後日発表される(the details of the Administration’s reforms to individual and business taxes will be released at a later date)」とされました。また総額1兆ドルのインフラ投資は、2,000億ドル分の予算は割り当てられましたが、残り8,000億ドルの詳細は示されませんでした。
21年以降の3.0%成長は非現実的、歳出削減も容易ではなく27年の財政収支黒字化は困難
予算教書が前提とする実質GDP成長率は、規制緩和や税制改革などで生産性と労働参加率が上昇し、2021年には前年比+3.0%に達し、それ以降2027年まで3.0%成長が続くというものです。その結果、今後10年間で税収が2兆620億ドル増加し、財政収支は2027年に黒字化するとしています(図表2)。しかしながら、大型減税の詳細が示されず、インフラ投資の予算も2,000億ドルというなかで、3.0%成長の継続は非現実的と思われます。
そもそも今後10年間の歳出削減3兆5,630億ドルについては、オバマケアの廃止と代替案導入による削減が2,500億ドル分含まれていますが、関連法案はまだ上院を通過していません。また歳出削減は、低所得者層に対する政府の役割を大幅に縮小することによるものが多く、共和党議会で反対の声が上がることも予想されます。以上を踏まえると、2027年の財政収支黒字化は、実際は極めて困難ということになります。
今後は8月までに米議会で予算決議案がまとまるかが焦点、景気対策の時期や規模の見極めへ
今回の予算教書は、議会に対し歳出の大幅削減を提案する格好になりましたが、削減項目は困難を伴うものが多く、また大型減税やインフラ投資も詳細が示されないまま、10年間で財政が均衡するよう取り敢えず数字を合わせた印象が拭えません。つまりトランプ大統領は、自らの税制改革案の基本方針を実現するため一応の財源を提案し、10年後に財政は均衡するということを、相当粗い形で示しただけのように思われます。
さすがに市場もこれを材料とすることは難しく、今後は米議会における予算審議の行方を見守ることになると思われます。なお米下院は5月26日から6月5日まで、米上院は5月29日から6月2日まで休会となります。8月の夏季休会までに予算決議案がまとまるか否かが焦点であり、年内に景気対策を打ち出せるのか、景気対策の規模はどれくらいになるのかを見極めることになります。
(2017年5月25日)
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