ギリシャ支援のスケジュール整理と残された問題

 市川レポート(No.114) ギリシャ支援のスケジュール整理と残された問題

  • ギリシャ議会の財政改革法案の可決を受け、金融支援に向けた動きが加速。
  • しかしながら22日までに更なる法制化が求められ、政局も流動化リスクが高まる。
  • 債務持続性問題も未解決、ただリスクオフでもボラティリティは比較的抑制か。

 

ギリシャ議会の財政改革法案の可決を受け、金融支援に向けた動きが加速

 ギリシャ議会は7月16日未明に財政改革法案の採決を行い、賛成多数で可決しました。これを受けてユーロ圏の財務相は同日に電話会議を行い、欧州安定メカニズム(ESM)を活用したギリシャ向け第3次金融支援を開始すること、支援開始前にEFSM(欧州金融安定メカニズム)から70億ユーロのつなぎ融資を行うことを承認しました。つなぎ融資は欧州中央銀行(ECB)が保有するギリシャ国債の償還や、延滞している国際通貨基金(IMF)融資の返済に充てられるとみられます。一方、欧州中央銀行(ECB)は7月16日の理事会で、ギリシャの銀行向け緊急流動性支援(ELA)について、900億ユーロとされる上限を9億ユーロ積み増すことを決定しました。

 このように支援に向けた動きが加速したことで、ギリシャは7月20日の国債償還を乗り切り、銀行の破たんも回避される見通しとなりました。なおドイツなど一部のユーロ加盟国ではギリシャ支援に関して、議会の承認が必要となりますが、すでにフィンランド議会では7月16日に承認されており、ドイツ議会でも7月17日の採決で承認されるとの見方が優勢です。これら国々の議会承認を経て、週末にはユーロ圏財務相会合において、支援合意文書の策定に関わる交渉が始まる見込みです。

しかしながら22日までに更なる法制化が求められ、政局も流動化リスクが高まる

 それでもまだ問題は残ります。ギリシャの銀行は7月20日に営業再開予定ですが、資本規制の完全解除の時期は未定です。またギリシャ議会は7月22日までに民事司法改革と銀行再建・破たん処理指令(BRRD)の受け入れを法制化しなければなりません。そして政局流動化リスクも高まっています。チプラス首相は国民投票での緊縮反対という民意を反故にし、財政改革法案の採決では自らが率いる急進左派連合(SYRIZA)から多数の造反者を出しました。同氏の求心力の低下は避けられず、内閣改造でも政権維持が困難となれば、総選挙の可能性が高まります。仮に緊縮反対の新政権が誕生し、合意内容に沿わない予算が年内に編成された場合、第3次金融支援は中断する恐れがあります。

債務持続性問題も未解決、ただリスクオフでもボラティリティは比較的抑制されよう

 またギリシャに対する債務減免の方針は固まっておらず、債務の持続性の問題も解決しいていません。そもそも過去2回の金融支援に加え3回目の支援が必要になるということからも、ギリシャの債務返済能力が不十分であることは明らかです。そのため今回は820億~860億ユーロの支援規模に対し、500億ユーロ相当のギリシャ国有資産がギリシャ国内の新しいファンドに移管されることになりました。つまり債権者側は融資の6割程度の担保をギリシャから受け取り、返済原資を確保したとみることができます。

 このように、ギリシャ向け第3次金融支援を巡る問題はまだ山積みとなっています。従って今後の進展次第で、金融市場は再びリスクオフ(回避)の動きを強めることが予想されますが、多くの市場参加者はこれまでの経緯からこの問題に関する懸念材料も十分理解したと思われます。そのため年内再びギリシャ問題が浮上した場合でも、株式等の資産価格の変動率(ボラティリティ)は比較的抑制され、金融不安に発展する可能性は一段と低下すると予想します。

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 (2015年7月17日)

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