英国のEU離脱問題~3月の動きを読む
市川レポート(No.642)英国のEU離脱問題~3月の動きを読む
- メイ首相は2月26日の演説で離脱方針を転換、初めて離脱期限の延期を議会に問うと表明した。
- 今回の方針転換は英国が「合意なし」の離脱に向かうリスクを一定程度抑制した点で評価できる。
- 今後は、離脱期限の延期→バックストップはEUと妥協→合意ありの離脱→移行期間入りを予想。
メイ首相は2月26日の演説で離脱方針を転換、初めて離脱期限の延期を議会に問うと表明した
英国のメイ首相は2月26日、議会下院で演説を行い、欧州連合(EU)からの離脱方針を転換する意向を表明しました。メイ首相は現在、アイルランドとの国境問題に関し、「安全策(バックストップ)」が一時的な措置であることを法的に保証することなどについて、EUと交渉を継続しています。しかしながら、3月29日の離脱期限が迫るなかで、交渉は難航していました。
そこで、メイ首相は方針を転換し、初めて「離脱期限の延期」を議会に問うとしました。これにより、議会下院における採決の日程は、次のようになります(図表1)。具体的には、①3月12日までにメイ首相がEUと交渉している現行修正案の採決を行う、②(①が否決の場合)3月13日に「合意なし」の離脱の採決を行う、③(②が否決の場合)3月14日に短期の離脱期限延期の採決を行う、という流れです。
今回の方針転換は英国が「合意なし」の離脱に向かうリスクを一定程度抑制した点で評価できる
①の現行修正案が可決されれば、EU議会の承認を経て、「合意あり」の離脱となり、英国は2020年末まで移行期間に入ります(移行期間中は実質EUに残留)。②の「合意なし」の離脱については、議会の大半が反対しているため、否決される見通しです。③の短期の離脱期限延期については、可決となれば、英国はEUに対し、離脱期限の延期を正式に要請することになります。
以上を踏まえると、今回のメイ首相の方針転換は、英国が「合意なし」の離脱に向かうリスクを一定程度、抑制した点では評価できると思われます。もちろん、②の「合意なし」の離脱が可決された場合や、③の短期の離脱期限延期が否決された場合は、「合意なし」の離脱リスクが急浮上しますが、現時点で、そのリスクが顕在化する可能性は小さいとみています。
今後は、離脱期限の延期→バックストップはEUと妥協→合意ありの離脱→移行期間入りを予想
弊社は今後の展開について、議会下院の採決は③まで進み、離脱期限が3カ月程度延期されると予想しています。市場もある程度、このシナリオを織り込みつつあるとみられ、足元では英ポンドの対米ドルでの上昇傾向が顕著です(図表2)。なお、離脱期限が延期された後、英国はアイルランドとの国境問題に関するバックストップでEUと妥協し、最終的に「合意あり」の離脱で着地し、移行期間に入ると考えています。
なお、与党保守党の離脱強硬派は、従来バックストップの廃止を主張していましたが、最近、バックストップが一時的な措置であることをEUが法的に保証すればよいとの考えを示しています。そのため、EUが譲歩すれば、離脱強硬派などが支持する形で現行修正案が可決される可能性があります。市場はまだこのケースを十分織り込んでいないと思われるため、現行修正案の可決となれば、英ポンドは対米ドルで一段高となる展開が予想されます。
(2019年2月28日)
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