長期金利の落ち着きどころ

2016/08/03

▣ 追加緩和期待が剥落

低下基調をたどってきていた長期金利(新発10年国債利回り)ですが、日銀が7月の金融政策決定会合で上場投資信託(ETF)の購入額をほぼ倍増させた一方、マイナス金利の拡大や長期国債の買入れ増額などを見送ったことから、上昇に転じています(図表1)。今回の決定からは、これ以上の金利低下、イールドカーブ(利回り曲線)のフラット化(平坦化)は望まないという日銀の姿勢がうかがえます。

日銀は今年1月29日にマイナス金利導入を決定しました(日本銀行当座預金のうち政策金利残高にマイナス0.1%のマイナス金利を適用)。その後、長期金利は2月下旬からマイナス圏で推移し、3月18日から政策金利の水準であるマイナス0.1%前後での動きが継続しました。6月に入り、

(1)5月の米雇用統計で雇用者数の伸びが大幅に鈍化したことを受け、米利上げ観測が大きく後退したこと

(2)英国の欧州連合(EU)離脱への警戒が強まったこと

(3)日銀の追加緩和への期待が強まったこと

などから、それまでのマイナス0.1%前後の水準から、7月8日には一時マイナス0.30%まで低下しました。

現在は、(1)については6月の米雇用統計で雇用者数が大幅に増加したことを受け、米国経済の先行き不透明感は後退しており、(2)についても英国のEU離脱への過度な警戒は後退しています。また(3)については今回の日銀の決定で剥落した格好です。8月1日、2日の債券市場は、6月から7月初旬にかけての金利低下分を打ち消す動きになりました。2日には10年国債入札が不調だったこともあり、長期金利は一時マイナス0.025%まで上昇しました。

▣ 売り一巡後の落ち着きどころ

今後は、

  • 国内債の利回りが、ひとまず日銀の追加緩和への期待が剥落した水準まで戻ったことから、長期金利は急低下前の水準でありマイナス金利の水準であるマイナス0.1%前後での動きに戻る
  • マイナス金利政策下にあるドイツの10年債利回りと同水準の、マイナス0.1%~0.0%を中心としたレンジで推移する(図表2)
  • 今年2月以降の年限の短い利回り低下が長期・超長期債の利回りを押し倒す動き(図表3)が反転し、一段とイールドカーブがベアスティープ化(利回り上昇、急勾配化)する

のかを確認する必要がありそうです。今のところは、ベアスティープ化ではなく、全体的な水準訂正(利回り上昇)の動きにとどまっています。

日銀は、次回の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」・「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行うとしており、日銀の政策運営に不透明感が強まっています。行き詰まった金融政策を変更する可能性もあります。

もっとも、日銀は国内金利の急上昇を望んでいるわけではありません。また、英国のEU離脱への警戒は残っており、欧州中央銀行(ECB)が追加緩和に動くとの見方や、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを急がないとの観測は、国内債にとっても安心材料となります。ドイツの10年債利回りは7月半ばに0.0%程度まで上昇した後、再びマイナス0.1%程度まで低下するなど低位で推移しています(図表3)。

9月の日銀金融政策決定会合(20、21日)待ちですが、8月9日の30年国債入札、18日の5年国債入札などを確認しながら、居所や方向感を探ることになります。

20160802

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