ドル円は名目金利より実質金利

2016/07/22

▣ ドル円と日米金利差の当てはまりが悪くなっている

ドル円を説明する要因として、日米の金利差がこれまでよく用いられてきましたが、アベノミクス以降、ドル円と日米金利差の当てはまりが悪くなっています(図表1)。

2012年11月の衆院解散で、安倍政権の経済政策、大胆な金融政策への期待が高まり、一気に円安・ドル高に振れました。一方、2013年4月上旬にかけて国内の金利が低下しましたが、日米金利差の拡大はドル円の動きに比べ小幅にとどまりました。5月には当時のバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が米国債などを購入する量的緩和政策の縮小を示唆したことから米金利が跳ね上がり、日米の金利差が拡大しましたが、既に大きく上昇していたドル円への影響は限定的でした。

以降、日米金利差(5年債、米-日)が、1.1%~1.8%のレンジで推移する中、ドル円は2015年6月に125円を上回った後、今年6月24日には99円程度まで下落するなど、大きく上下動しています。名目の日米金利差だけでは、ドル円の動きを説明できなくなっています。

▣ 名目金利ではなく実質金利や、期待インフレ率でみる必要

インフレは、物価が上昇しお金の価値(通貨価値)が下がる現象です。為替レートにおいても経済状況によりますが、対象となる通貨の国でインフレが自国より進んでいれば、対象通貨が安く、自国通貨が高くなる可能性があります。

仮に、米国の物価が今後1年間で5%上昇することが見込まれる場合(期待インフレ率5%)、ドルの価値(購買力)はその分だけ低下することが見込まれます。一方、日本の期待インフレ率が2%の場合、円も減価しますが、ドルよりは減価が小幅。日米の期待インフレ率の差分だけ、ドル安・円高圧力がかかることになります。

ただ、米国の1年物金利が7%であれば、1年後には1ドルは1.07ドルになりますから、実質的にドルは2%増えます(金利7%-期待インフレ率5%、実質金利2%)。一方、日本の1年物金利が3%であれば、円は実質的に1%増える(金利3%-期待インフレ率2%、実質金利1%)ことになります。この場合、ドル円については、実質金利が高いドルに買い圧力が、低い円には売り圧力がかかります。

実質金利が高い通貨に上昇圧力がかかりますが、両国の名目金利があまり変わらなければ、期待インフレ率の上昇は通貨の減価に、期待インフレ率の低下は通貨の増価につながりやすいと言えます。

昨年夏場から、ドル円の下落局面では、日米の5年債利回りなどの金利はともに低下傾向にあり、名目の日米金利差は一進一退の動きが続いています(図表2、3)。一方、米国の期待インフレ率はやや持ち直しているのに対し、日本の期待インフレ率は大きく低下しています。実質金利は、米国は期待インフレ率の持ち直しから低下しているのに対し、日本は横ばいで推移していることから、日米の実質金利差(米国-日本)が縮小したため、ドル安・円高が進行したとみられます(図表4、5)。

これまで日銀は、異次元の金融緩和によって、名目金利を引き下げ、期待インフレ率を引き上げることで、デフレから脱却することを目指してきましたが、日本の期待インフレ率は低迷し、物価目標2%の達成時期の先送りが繰り返されて、目標達成は見通せない状況です(4月時点の物価目標の達成時期は、2017年度中)。

7月28、29日に日銀金融政策決定会合が予定されています。“ヘリコプターマネー”までは踏み込まないまでも、政府の大型経済対策に合わせ、指数連動型上場投資信託(ETF)や不動産投資法人(J-REIT)を含む量的緩和の拡大(資産買入れの増額)などでの、期待インフレ率の押し上げが期待されます。

20160722

名目金利:預金金利や住宅ローン金利等の通常目にする金利。ここでは5年債利回り等の市場金利   実質金利:名目金利から期待インフレ率を控除した金利

 

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