ますます泥沼に沈み込む日銀
異次元緩和の目標・手段・理論
目標が達成できなかったとき、誤りを認めず微調整で問題を先送りすれば、泥沼に沈むばかりです。
日銀はどうでしょうか。約5年前(2013年4月)、日銀は「異次元の」金融緩和策を意気揚々と発表しました。目標は、2年程度で2%のインフレ率(消費者物価指数上昇率)を達成する、というものです。手段は、マネタリーベース(日銀が供給する通貨)の倍増です。これにより国民の「インフレマインド」が浸透すれば、それ自体がインフレを促す、というのが典型的な「リフレ派」の「理論」でした。
当初の手段と理論は破たん
しかし2年どころか5年を経た現在、目標達成の気配はありません。事実、消費者物価指数の上昇率は足元0%台です(図表1)。これは、手段や理論に大きな欠陥があったことを示しています。さらに、目標そのものが不適切だったのではないか、と問う誠実な姿勢こそ、信用を得る上では欠かせません。
とはいえ日銀も、当初の手段と理論については欠陥を実質的に認め、すでに別の手段へ移行済みです。つまり2016年9月、長短金利を操作して超緩和的な環境を保つ「イールドカーブ・コントロール」に移行しました。この手段は、マネタリーベースとマインドに頼った当初の策とは別の理論に基づきます。
日銀の市場介入は不当
しかし、この手段についても副作用を覆い隠せなくなってきました。日銀が長期金利(10年国債利回り)を0%程度に無理やり抑えつけているため(図表2)、金利の機能が大きく損なわれているのです。
長期金利は理論上、インフレ率を含む経済成長率およびリスク(政府の財政状態)に伴う報酬を合計した水準近辺であるべきです。ところが現在は非合理的な低水準に統制されているため、国債の発行者(政府)などが有利、その投資家(銀行や保険会社(最終的には預金者や保険加入者))が不利な状態です。そうした不公平を避けるべく、金利など相場の変動は、原則として市場に任せるのが正しいのです。
政策調整に踏み切ったが、インフレ目標は固持
ここにきて、さすがの日銀も批判に耐え切れなくなりました。そこで昨日までの金融政策決定会合にて、長期金利の許容変動幅を拡大する考えを表明したのです(なお、上場投信(ETF)や不動産投信(J-REIT)の買入れも弾力化)。ただ、強力な金融緩和で市場を統制するという態度は不変です。
最大の問題は、2%のインフレ目標は固持され、これは達成可能と言い張っていることです。しかし日本の物価が顕著に上がるとすれば、極端な円安や大幅な原油高のときです(図表1)。それが毎年続くはずはないので(望ましくもない)、いつまでたっても2%のインフレ率で安定することはないでしょう。
目先の円高阻止か、長期的な信用維持か
ただしこの目標を取り下げれば、円高が一時的に進むかもしれません。極めて高いインフレ目標を掲げているからこそ異次元緩和が正当化され、そのことが円高を食い止めている、との面があるからです。
無謀なインフレ目標を掲げた5年前、日銀は泥沼にはまり込む運命を背負いました。この目標に執着し続ける限り、日銀は信用を失います。一方、目標を撤回する(あるいは目標を1%に引き下げる)のであれば、円高を覚悟せねばなりません。「信用」の重さに鑑みれば、いま選ぶべき道は断然後者です。
図表入りのレポートはこちら
https://www.skam.co.jp/report_column/topics/
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