日銀は何を間違えたのか?
「総括する」とはどういうことか?
「総括する」という言葉は、多くの場合、「思想や行動の誤りを自己批判する」という意味で使われます。そうした意味でこの言葉がさかんに使われた、1970年代の学生運動が想起されるかもしれません。
そして今、「総括的な検証」を今月20、21日に行うと告知しているのが、日本の中央銀行である日銀です。「2%のインフレ目標」の達成に失敗した以上、当然行うべき検証でしょう。実際、消費者物価指数(生鮮食品を除く)上昇率は、2%どころか、7月まで5か月続けてマイナスとなっています。
これまで強気一辺倒だった日銀も、実績を客観的に検証した上、率直に自己批判するのでしょうか。
予想される「総括的検証」の結論
言うまでもなく、インフレ目標の未達は「原油安のせい」とされるでしょう。ただ、2014年4月の消費税増税の後、個人消費が予想外に落ち込み、インフレ率低下の一因になったことは認めるようです。
それでも、異次元の金融緩和そのものが誤りだったと認めることはあり得ません。そのため「総括」を経ても、国債買入れ、株価の下支え、マイナス金利などからなる、現行の政策枠組みは不変でしょう。
ただし、国債買入れの柔軟化(長期国債の買入れ減)はあり得ます。切迫した問題は、年間80兆円分の買入れが限界に近いこと(対象国債の不足など)だからです。一方マイナス金利については、それによる全般的な金利低下を自賛しつつ、弊害も踏まえ、追加利下げは示唆するにとどめると予想されます。
本当に必要な三つの総括
しかし本当に必要なのは、そういった細かいことよりも、次の三点に関する本格的な総括です。
第一に、「脱デフレ」を旗印にするのが大きな誤りだったのではないか、と問うことが必要です。デフレ(物価の下落)という「悪魔」を退治すれば日本経済は蘇る、という思い込みは白紙に戻すべきです。
第二に、異次元緩和は事実上の円安誘導でしたが、円高は常に悪い、という仮定は見直すべきです。
今年、インフレ率が下がったのは、急激な円高も影響しています。これに伴い起こったのは、実質賃金(名目賃金からインフレ分を差し引いたもの)の増加です。結果、今年は個人消費の前年比が3年ぶりにプラスとなりそうです。皮肉にも、日銀が円安誘導とインフレ目標達成に失敗したからこそ、消費回復が期待できるのです。デフレも円高も、それ自体は善でも悪でもなかったということでしょう。
根本的な間違い
そもそも、日銀が物価を操ろうとすること、これが第三の、根本的な間違いです。資本主義のもとで、中央銀行や政府は、物価を自在に操作できません。民主主義国である以上、操作すべきでもありません。
物価は「経済の体温」です。よって物価を操作するとは、消費や投資といった経済活動を操作するのと同義です。人々や企業の心理・行動を操るということですが、そんな権利は誰にもありません。物価操作が許されるとすれば、インフレが生活を困窮させているとき、それを抑えるのが必要な場合だけです。
以上三点こそ、求められる自己批判です。もちろん、今回の検証で日銀がそこまで踏み込むとは考えられません。しかし異次元緩和の迷走が続けば、いずれはそうした総括を行わざるを得なくなるでしょう。
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