「ブレグジット」の何が問題なのか?

2016/06/15 <>

いよいよ英国民投票へ

英国は、欧州連合(EU)の一員であり続けるのか。6月23日、それを問う国民投票が行われます。

昨年の総選挙にあたり、キャメロン首相が離脱派に配慮し、国民投票の実施を公約したからです。同首相は残留派ですが、民主主義にこだわる英国では、「新しい判断」などで公約を破るわけにはいきません。

結局は僅差で残留派が勝利すると予想されますが、微妙です。もしも離脱派が勝ったら、何が起こるのか、正確なことはわかりません。そんな不透明感が「ブレグジット(英国のEU離脱)」懸念の正体です。

とはいえ、論点は次のように言えそうです。つまり、優先すべきは、経済成長か、移民制限か、です。

経済成長の観点からは、EU残留が妥当

経済成長の観点からは、EUに残るべきでしょう。EUは巨大な単一市場(物、サービス、人、お金の移動が原則自由)であり、英国は、その一員であることによって、大きな恩恵を受けられるからです。

実際、英国からの輸出のうち、EU向けは半分近くを占めます。また、金融業や製造業などで、日本企業を含め多くの企業が、EUにおける本拠をロンドンに置いています。これは、英国の国力の源泉です。

そして、勤労意欲の高い移民の流入が、経済成長に貢献しています。特にEUが中・東欧などへ拡大した2004年から、移民が急増しました。昨年の移民純増数は約33万人、うち約18万人はEU出身です。

EUから離脱すれば、そうした様々な移動の自由度が低くなりそうです。結果、英国の国内総生産(GDP)は、残留の場合に比べ2020年に約3.3%減る、と経済協力開発機構(OECD)は見ています。

しかし、移民を制限するのであれば、EU離脱にも正当性

にもかかわらずEU離脱派の勢いが衰えないのは、「問題は経済よりも移民」だからでしょう。

多くの人にとっては、抽象的なGDPなどより、日々の生活で感じることの方がずっと重要です。「一つの欧州」という理念にも感激しないでしょう。そして暮らし向きが良くならないとき、不満を移民にぶつける人は少なくありません。仕事や住宅、福祉予算を移民に奪われている、ということです。EU離脱派も移民を完全に拒んでいるわけではないものの、離脱すれば、移民は厳しく制限されるでしょう。

移民問題は、単なる経済合理性では論じられません。経済の観点だけで言えば、この日本こそ、もっと開かれた国になり、移民を大量に受け入れるべき、となります。しかし、話はそう単純でないでしょう。

ブレグジットは、リーマンショック級の危機か?  

ただし、国民投票で離脱派が勝っても、自動的に離脱するのでなく、英国内の体制を整えた上で(首相はおそらく辞任)、EUとの間で新たな関係を結ぶ交渉に入ります。正式な離脱は、2年以上先でしょう。

また、英国のGDP規模は日本の3分の2程度です。EU離脱に伴い成長率が下がっても、世界経済への打撃は限られそうです。ただ、金融市場が最も恐れるのは、EU離脱が他国にも広がっていくことです。しかし、他国ではEUを支持する人が多く、「EU崩壊」の確率は極めて低いでしょう。

それでも、投票で離脱派が勝ったら市場は相当慌てるでしょう(株安・円高)。しかし、ほどなく平常心を取り戻すと思われます。すなわち、「リーマンショック級の危機」に陥るとはまず考えられません。

 

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