米FRBは「新しい判断」を行うのか?
雇用統計ショック
まず結論を言えば、米国経済は勢いを欠いています。利上げは遅れ、為替は円高へ振れやすいでしょう。
米国経済について強気な見通しを述べるとき、これまでは「雇用は良好」というのが最大の根拠でした。しかし、先週発表された5月の雇用統計は、その前提に大きな疑問を投げかける結果になりました。
すなわち、非農業部門雇用者数は、前月比でわずか3.8万人の増加にとどまりました。約6年ぶりの少なさです。大手企業のストライキなどを勘案しても、これには失望せざるを得ません。好調の目安とされている20万人増を3か月続けて下回っているので、「単月の落ち込み」とも言えません。
景気シナリオの再構築
もっとも、米国はすでに完全雇用(働く意欲と能力のある人が全て職についている状態)に近い局面にあるのかもしれません。そうだとすれば、もはや雇用が月20万人も増える必要はない、となります。
しかし、完全雇用に近づけば、企業の人手不足感が強まり賃金が増えるはずです。ところが現在、賃金はそれほど大きく伸びていません。このことは、まだ完全雇用には隔たりがあることを意味しています。
よって、雇用の鈍化は景気減速のためと考えるのが素直でしょう。事実、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率0.8%という低い伸びでした。それに遅れて雇用の増加が鈍るのは、全く自然のことです。
とはいえ、雇用統計もGDPも、特に速報段階では正確性に欠陥があります。そのため、これからの3か月程度で、新たなデータ相互の整合性を点検しながら、景気シナリオを再構築する必要があります。
「新しい判断」で利上げ?
ということは、米連邦準備制度理事会(FRB)も9月以降まで利上げを待つのが適切、となります。
ただ、FRBは、景気後退時の利下げ余地を確保するためにも、もう少し利上げをしておきたいところでしょう。そのため、雇用がそれほど増えていなくても問題はないという「新しい判断」を行い、7月にも利上げに踏み切る可能性が全くないとは言えません(さすがに今月の利上げは、まず無理でしょう)。
しかし、FRBのイエレン議長は、米国経済をさほど楽観的に見ていません。特に6日の講演では、今般の雇用統計に対し失望感を表明しました。また、失業率も人種などによっては依然高いことにもわざわざ言及しました。「雇用回復の質」に配慮する点は、日本政府や日銀との大きな違いです。
大統領選に関しても意識せざるを得ないでしょう。共和党のトランプ氏は早速、この雇用統計は「ひどい」と述べました。もし利上げを急ぎ、景気が悪くなったら、FRBは過激な批判を受けるでしょう。
円安見通しは後退
以上より、FRBが9月前に利上げを行うとは考えにくいでしょう。とはいえ、今年序盤に市場が混乱したのは昨年末の利上げが背景です。よって利上げの遅れは、市場の安定という点からは好材料です。
ところが日本では、米国の利上げを密かに待望する向きもあります。それによるドル高・円安を望んでいるのでしょう。しかし年1回程度の利上げでは、当初の見込みより少ない以上、円安要因としては力不足です。当面、日本の経常収支黒字、円安誘導を望まない米国の意向など、円高要因が優勢でしょう。
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